どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

ポエム15 『あかつめ草の家』

2013-02-18 00:00:35 | ポエム

 
      アカツメグサ

 

 

 
サッちゃんの家には
天井までとどく冷蔵庫と
大きな皿洗い機があった


サッちゃんちの庭には
ドッグランの囲いと
電動芝刈り機があった


張り出したテラスには
籐製のロッキングチェアが置かれ
時どきサッちゃんのパパが眠っていた


手近なテーブルには
伏せた洋書とパイプが転がり
軒先を飛ぶ小鳥の影が膝掛けを横切った


転校してきて仲良くなったサッちゃんが
いつの間にかいなくなったのは
二年後の春のことだった


別れの挨拶もなく一家が居なくなる
ピアノも犬小屋も残したまま
人間とゴールデンレトリバーが消えたのだ


磨かれたポーチの柱は
しばらくピカピカと輝いていた
秋になるとニスの色がだいぶ色あせた


家の土台は伸びた芝に覆われた
芝生にはアカツメクサが侵入した
模様入りの緑の葉が失踪のいきさつを隠した


サッちゃんの居なくなった家の窓を
人影がよぎることがある
枯れた庭から放置された鎌が現れたりする


薄みどり色の記憶の中で
サッちゃんの紅いリボンがほどける
わたしの見たものは束の間の夢だった気もする


だけど本当に夢だったのだろうか
この手で触った冷蔵庫も皿洗い機も
そっと覗いたパイプも小父さんも


みんなみんな幻影だったのだろうか





  


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5 コメント

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モノに残る人の気配に・・・ (知恵熱おやじ)
2013-02-19 06:20:24
サッちゃんの家族は皆はどこへ行ってしまったのでしょう。

モノに残った気配だけがたしかにその家に存在した人たちの気配を伝えてきます。

でも早くも伸び放題の芝生の庭に侵入してきているアカツメクサが、その気配を駆逐しようとしているかのようにあるいは当然のように花を咲かせている。

あの一家は幻影だったのか、と詩は閉じられていきなり読むものの胸にどすんと重い真実を突きつけてくる。
みんな同じなんだ。
人の一生など何かを成した人も成さなかった人もどれほどのこともない。結局幻影みたいなものなんだよ、と。

たしかになあー
静かだなあー
いい詩だなあー
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人が住まなくなると・・・・ (窪庭忠男)
2013-02-20 12:04:14
家は一年を待たずに荒れ始めるといいます。
一般には、風の通りが悪くなるからだと信じられていますが、ぼくは人間の発する<気>が関係しているのではないかと思っています。(ちょっと寄り道で・・・・)

まだモノに人の気配が残っている・・・・いずれその気配も薄れていく。
すべてを踏まえた上での(知恵熱おやじ)さんのコメントには、いつもながら目を瞠るおもいです。
ありがとうございました。
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素敵な詩文 (くりたえいじ)
2013-02-21 21:24:40
いま、しこたま小生はお酒を飲んで、この詩読みました。
そうたら、静かな女の子が浮かび上がって来ました。

この作者のなんとも言えない優しがさが漂っているようです。

思うに、こうした叙情的、心情的な詩を生み出すことの出来る才能か才覚に感嘆するばかりでした。
返信する
素敵な詩文 (くりたえいじ)
2013-02-21 21:25:04
いま、しこたま小生はお酒を飲んで、この詩読みました。
そうたら、静かな女の子が浮かび上がって来ました。

この作者のなんとも言えない優しがさが漂っているようです。

思うに、こうした叙情的、心情的な詩を生み出すことの出来る才能か才覚に感嘆するばかりでした。
返信する
酔える幸せ! (窪庭忠男)
2013-02-22 00:14:07
(くりたえいじ)様、コメントありがとうございます。
気持ちよく酔っている状況が目に浮かびます。
そして酔っている姿を素直に見せられる生き方を羨ましく思います。

酔いの種類はさまざまですが、そこを超越して天空に遊ぶ人が仙人なのかもしれませんね。
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