(新)緑陰漫筆

ゆらぎの読書日記
 ーリタイアーした熟年ビジネスマンの日々
  旅と読書と、ニコン手に。

映画 『はんなり』(Hannnari-Geisha Modern)

2013-05-29 | 時評
映画 『はんなり』(Hannnari-Geisha Modern) まだ40歳代そこそこの頃、一度だけ京都のお茶屋の席に連なったことがある。先斗町にある「井雪」 外国のお客さんを接待するということで裏方を務めた。なぜか女将に可愛がられ、自分の居室にまで入れてくれ、四方山話をしたことを記憶している。そこへ、同志社女子大の学生であったお嬢さんが、帰ってきて紹介され、”○○ちゃんをよろしくね”といわれ、なぜかどぎまぎした。見惚れるくらいチャーミングであった。以来、ご縁のない世界である。

 先日、幸いにも京都を訪れるたびになにかとお世話になるブログともだちの柳居子さんからお誘いがあり、京都の花街の姿を描いたドキュメンタりー映画『はんなり』を見る機会を得た。洛中、相国寺近くの町家での、ごく少数のゲストのためにプライベートな映画会である。京都の伝統美、藝妓たちの姿が余すことなく描き出したこの映画で、芸術文化ともいえるGEISHAの世界の美しさに触れることができ、至極のひとときであった。

 そもそもこの映画は、アメリカで制作され、2006年に公開されている。日本では、いまだDVDも発売されておらず、20010年に東京の小さい映画館で公開された程度である。その頃の様子は、畏友川本卓史氏のブログ、また柳居子さんご本人のブログに取り上げられているので、詳しくは、そちらを参照いただければ幸いである。

  さてこの映画の仕掛け人、プロデュースをした柳居子さん(本名下前国弘氏)は、市井の一文化人であるが、生粋の京都人であり京都を知り尽くし、人脈の広いこと、深いことには驚嘆する。かと思えば、そのブログにノーベル文学賞受賞のオルハン・パムクが登場してくるという守備範囲の広さ! ・・・

今を遡る100年前に京都で藝妓をしていた<おゆき>が、あのモルガン財閥のJ・P・モルガンの甥に見初められ、国際結婚してパリに住んだという逸話がある。宝塚では、彼女の波瀾万丈の一生をとりあげ、帝劇ミュージカルで越路吹雪が演じている。そのモルガンお雪は、柳居子さんの祖父の妹ということで血筋がつながっているのである。長い間、花街の女、芸者たちについては、正しいイメージが伝えられておらず、むしろ好奇心と誤解と偏見の目で見られていた。たとえば、児玉清の本『寝ても覚めても本の虫』で紹介されている『Memoirs of A Geisha』(A・ゴールデン著)は、芸者ニッタ・サユリの波瀾万丈の生涯と芸者の世界を流麗な英文で余すことなく伝え、大変な評判となった。それが、GEISHAという言葉が、世界語となったきっかけをつくった。しかし、この話のもとになった一種の回顧録をゴールデンに語った女性は、この本の出版後大変な誤解と偏見を招く表現があるとしてゴールデンを訴えている。(ゴールデンは、彼女の信頼を裏切ったのである) 2005年には、スピルバーグ監督で映画化(『サユリ』されているいが、その公開の時も、偏見を感じる報道(ロサンゼルズ・タイムズなど)があったという。

 そんなイメージを払拭し、花街の正しい姿を伝えようとしたのが、この映画をつくるきっかけである。監督は、ロサンゼルス在住の曽原三友紀。2006年に公開され、2008年国連のインターナショナル・フェスティバルのセレクト作品となった。(日本映画としては、『たそがれ清兵衛』につづく2作目) 京都の花街は、発祥から300年以上の歴史をもつが、その実像をカメラが撮ることは許されなかった。曽原監督にして初めて、全6花街(上七軒、祇園甲部、祇園東、嶋原、先斗町、および宮川町)の許可を得て、その本当の姿と美しい京都の四季を描き出したのである。表面的でなく、舞妓・芸者の修行のしかた、着物・帯の制作過程など裏方のことが、きっちり描かれている。上七軒、祇園、島原の違いなども。知らないことばかり出てきた。



 (はんなり公式ホームページ:http://www.hannari.info/)

 この映画のラストシーンでは、主人公のひとり”まこと”が、ニューヨークでジャズを歌う。新しいGEISHAの世界の姿をも模索しているようである。

     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(さて映画を見て、これからどうします?)

 このように美しい日本の伝統美を伝える芸妓たちの世界ですが、映画の最後にも触れられているように、次第に姿は変わりつつあるのではないでしょうか? 昔のようなパトロンも少なくなってきているようです。そこのところが気になります。なにか一般人である私たちにも貢献できることはないだろうか? この映画自体、いくつかの企業がスポンサーになっている。それでも、地元の多くの支援が陰であったのではないでしょうか?

話は変わりますが、最近ご縁があって交流させていただいているファンドマネジャーの藤野さんの本『投資家が「お金」よりも大切にしていること」の中で、日本人のお金の使い方について、鋭い指摘があります。

(日本人は世界一ケチな民族)

 ”アメリカでは、年間で、成人一人あたり約13万円のお金を寄付しています。
  それに対して日本では、成人一人あたりたったの2500円”
   注)「アメリカでは、ビル・ゲイツのようなお金持ちが莫大な寄付をして
      いる」と思われるかも知れませんが、それはよくある誤解です。年収
      7万5000ドル以上の人は、年収の2.7%しか寄付していないの
      に対し、年収2万5000ドル以下の人が、年収の4.2%を寄付し
      ている (NYタイムズ紙)

 ”日本は寄付を行わない文化””自分のお金を現金や預金として守ることしか
  考えていないのです”

ニューヨークにあるメトロポリタン美術館は、素晴らしいコレクションを誇っていますが、あの運営費はすべて一般の人からの寄付でなりたっています。(私もほんんこすこし寄付しています)日本では、考えられないことです。

 花街の話題に戻りますが、それは存在するだけで、雇用を生み出し社会の活性化につながっているんですね。観光、飲食、花屋、道具。陶磁器、古美術、舞踊、茶道、交通などなど。

 ”ひとりの民間人である自分が、自らのお金を投じて進んで社会貢献しょうとは、誰  も思っていない・・・”

 おかしいですね。一人一の力やそのお金は微力でもあつまれば、大きな力に通じます。

 はんなりの世界も、旧来の枠にとらわれず、新しいやり方を模索しなければならないと思います。映画でも、最後にほんの少しですが、新しい動きを紹介していました。たとえばネットを通じ、NPOなどに個人のお金を集める。集めたお金は、一年に一度、財務 ステートメントをだして、こういうところに役立たせていただきました、と報告するだけでいいと思います。 神社・仏閣で改修・改築をしたおりに石灯籠や石柱あるいは瓦に募金した人の名前を記す、そうあれでいいですよ。日本文化の伝統の維持・発展のお役にたった、と思ってもらえばいいのです。

     ~~~~~~~~~~~~~~~

最後になりましたが、この映画をプロデュースされた柳居子さんの熱意に改めて深く敬意を表し、そして<はんなり映画会>にお招き頂いたことにあつくお礼申し上げます。

 

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4 コメント

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たいへん参考になりました。 (田中幸光)
2013-05-31 01:46:45
芸妓にまつわる話、寄付にまつわる話は、たいへんおもしろく読ませていただきました。100万ドル以上のお金持ちは、世界にゴマンといるそうですが、日本はアメリカの次にランクされる世界第2位のお金持ち大国だそうです。
それにひきかえ、寄付の少ない日本、驚きの記事でした。
感想 (龍峰)
2013-05-31 15:27:17
ゆらぎさん

はんなりの世界はあまり経験がないのでコメントはできないですね。寄付と国民性には何か関係がありそうです。宗教とか社会的な慣習、税制制度など。この中でも宗教的な慣習が大きいのではないでしょうか。小さい時から両親と毎週教会や寺にでも行っておれば博愛精神も生まれて助成したり、神社仏閣や教会に寄付もするでしょうが、残念ながらそのような育ちはしなかった。しかし、年がいってからは寺ら神社にお参りする際はお賽銭をあげ、また、街角で托鉢に出会えば賽銭を入れる。外国にゆけば教会の寄付金箱にはコインをいれてくる。しかし、とてもまとまった金を寄付することはない。どうしてだろうか。ドイツの田舎に行った時、町の古い大きな大聖堂で、週末クラッシック音楽の生の演奏会を入場フリーで行っていた。この町のとしよりがネクタイを締めて大勢きていた。地域住民と教会が密接に結びついていることを感じた。このような環境では寄付も自然に行われるのではないかとも思う。さてわが町の神社仏閣とはそのような密接な結びつきはあるだろうか。
お礼 (ゆらぎ)
2013-06-03 17:04:27
田中幸光様
 お立ち寄りいただき、ありがとうございました。寄付による社会貢献の少ない日本ー税制の問題もありますがーなんとかしたいものです。とりあえず、一度祇園に遊んみようかな、と思っています。
お礼、遅くなりました (ゆらぎ)
2013-06-07 22:00:20
龍峰様

 お読みいただき、ありがとうございました。

 そのうち一度、<はんなりの世界>をほんの少しだけ、のぞきにいきましょうか?お座敷に行って、藝妓さんを呼ぶのでなく(これは高い)、お茶屋の経営するバーなどで、舞妓さんにちょっと顔を出してもらうという趣向です。これも多少は社会貢献になるでしょうか?

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