(新)緑陰漫筆

ゆらぎの読書日記
 ーリタイアーした熟年ビジネスマンの日々
  旅と読書と、ニコン手に。

料理手帖~素材へのこだわり

2017-12-29 | 料理
料理手帖~素材へのこだわり

 このブログの新しいジャンルの一つとして料理のことをとりあげることにしました。
と、いってもいわゆるグルメ探訪のような記事ではない。どのように料理をするかという観点からのものである。戦後ひもじい思いをしていたこともあって、美味しいいものを口にしたいという思いは強い。また90年代に東京で単身赴任していたころは、外食をすると問題があるので、いつも自分で包丁を握っていたという背景もある。

 そしてこの記事を書くきっかけとなったのは、先月の小春日和のある日、親しい友人に誘われて京都の小料理屋「丹」(たん)を訪れた事があったからである。「丹」は、みずからそこを小さな台所と呼んでいる。親しい友人の家に遊びにゆくように、また久しぶりに家族で集まる時のように、食卓を囲む場でありたい、と云っている。この店は、外からはただの二階建ての小さな家のように見える。入ってみると、中央に大きな木のテーブルがあり、その端は料理人が料理を用意するスペースである。奥には小女たちが働く調理場がある。まさに台所の雰囲気。

原則としては夕食をとるというところではない。朝食と昼食が提供される。その日は「昼食をいただくことにした。お造りの定食とお肉の定食(いちぼの焼いたのが出た)が供された。何品か供されるものに目を瞠った。次々と新鮮な野菜が出てくる。それを上質の塩や、工夫されたタレ(ソース)をつけていただく。お米も野菜も京丹後は久美浜にある自家農場から届くもの無農薬、無化学肥料で栽培されている。たとえば、玉ねぎ、紅芯大根、赤大根などなど。肉のコースでは、イチボを焼いたものに、実山椒のタレをつけて食べる。いささかの昼酒が欲しくなってきたので、京丹後は白杉酒造の「銀しゃり」を口に含んだ。これはいわゆる酒米から造るのではなく、主食として食べる”白米”から作られている。さわやかな口当たりである。

     
              
     


             

                                
これらの素材が素晴らしいのである。そして旬のものをいただく美味しさを十分に味わうことができた。それほど素材にこだわる店はあまりない。


 旬のものにこだわるといえば、『旬の菜滋記』(高橋治)という素敵な本がある。そのなかから旬の素材に関するものをいくつか抜き出してみる。随所に治ぶしが炸裂するから、面白い。

 ”(蒲公英 たんぽぽ)春風がほほをなぶる頃になると、蒲公英の味がよくなる。・・・日本にも葉を茹でて食用にする地方があるらしいが、ヨーロパでは摘んでサラダにする。特有のきつい苦みに舌がなれると、春先の葉の柔らかさが捨てがたく思えてくる。苦くてかなわないという人は、一度天ぷらを試されるといい。逆に苦さが美味いドレッシングをお教えする。ブルーチーズをレモン汁の中でとき、塩コショウで味付けし、醤油を隠し味にする。それを倍量のオイルで割る。淡白なレタスなどを混ぜると子どもたちにも食べられるようになる。”


 ”(こごみ)曾祖母ののうのうさんとの山歩きでこごみを採れと指で示された。帰り道でもよかっぺさといったら、鉄は熱いうちにうて、女はその気になっているうちに口説け、こごみも数時間でのびるから見つけ次第に摘み取れとありがたい人生訓だった。生命力無類に強く、こぶし形の芽に山の滋味を握りしめている。そのわりにはアクが少なく、茹でて鰹節をかければそれで珍味。、加熱時間が短い分歯ざわりも抜群。

      ”地酒飲み菜はこごみの胡麻よごし” (新倉美紀子)

調理法で案外知られていないのが酢の物。色はおちるものの味は上々である。

           



 ”(そうめん)私は決して店でだすそうめんは食わない。あの量の少なさとあのつゆの甘さに金を払うほどお人よしではない。のうのうさんは、ひどく出しに凝った。煮え湯にカツオ節を入れすぐにすくい出す。昆布をくぐらす、ともに煮詰めては安物の蕎麦屋の味になるという。私はさらに改良を加え、飛魚の干物でだしをとり、干し海老と貝柱で甘みをだす。味を深めるのに絶好なのは焼酎と能登で作られる魚汁(いしる)、魚醤である。こうしてつくったつゆに、バジリコ、ウイキョウの葉、香菜、青いトマトの薄切りなどを時に応じて薬味に加える。岩のりも欠かせない脇役になる。


 ”(トマト)トマトの原産地は南米、19世紀にアメリカ・イタリアに入って爆発的に生産量が増えた。本場地中海沿岸の料理を一つ紹介しよう。ヘタをえぐって、蒸す。芯までねつが通ったトマトを炒り卵の上にのせる。塩と胡椒を振って、突き崩しながら食う。朝の一品としてお試しあれ。

  ”処女の頬にほふが如し熟れトマト” (杉田久女)




 ”(さば)さばの食い方で最高のものは、誰がなんといおうとたとえ親に勘当されようと刺し身である。こんなさばを煮たり焼いたりしてはバチが当たる。ま、理性的に話そう。生き腐れは輸送や冷蔵に多くの問題があった時代の常識であって、近代文明はさばの味を変えた。この魚、鮮度が目玉と皮の色にでる、共に光り輝いていたら、ぜひ刺し身にしてやって欲しい。

   ”酢で〆て鯖の薄皮はぎにけり”  (早川とも子)

しめるのは酢と決めるのは曲がない。注)常識的で、つまらない。レモンの絞り汁に少量の醤油と味醂をたらして漬け込む。この味を覚えたらもう忘れられない。

    
 ”(甘えび)甘えびが美味くなると北陸の冬が近い。今年も雪ごもりかと思ったものだが、最近は東京の真夏に身のとけそうな甘えびが出る。流通様もたいがいにしなさいといいたくなる。甘さが珍しいらしいが、えびは全種類が甘い。良心的なすし屋の卵焼きには必ずえびのすり身が入るのは甘さのせいである。そばつゆに甘さを出すにも干しえびが一番。


 次に池波正太郎の『鬼平料理帳』から、いかにもうまそうなレシピをご紹介しよう。鬼平のというより、池波正太郎の愛好する料理の仕方である。余談ながら、池波には『仕掛け人藤枝梅安』というシリーズがある。その中から、料理についての文をあつめたような『梅安料理ごよみ』というのがある。これについても、他日ご紹介したいと思っている。


 ”(柿の味醂かけ)幕末にアメリカのペリー提督が来航した時の話だけど、どんなあものを食べさせたら、よいのかというので、幕府がいろいろと頭を悩ましたんだよ。それで結局、<八百膳>と、もう一店これも有名な料亭<百川>が協力をして、饗応の膳部を揃えることになった。その時の献立でデザートとして、柿をむいてみりんをかけまわしたものを使っている。これはちょっといいなと「鬼平犯科帳」の中でも使ったよ”・・・

酒好きなは概して柿好きである。柿の成分に含まれるタンニンは酔いざましに効果があるからである。柿なますは正月の祝に欠かせないもの一つになっているが、酒を飲むことがおおい正月に柿なますを膳の決まりとした古人の知恵には恐れいるしかない。酢のものが肝臓の働きを助け、柿の成分が酔いをやわらげる。柿の出回っているときになら甘柿で、そうでない季節にも干し柿を使って柿なますをつくればよい。

大根と人参を細かく刻み、ほんの少し塩をふりかけてしんなりさせ。固くしぼっておく。甘柿のか皮を剥ぎ、短冊に切り、大根・人参に混ぜあわせて、柿の甘みを大根になじませる。これを味醂たっぷり、酢、醤油をほんの少し、入れたければ化学調味料も適当に加えたものに漬けこむ。菊の葉を敷い盛り付けたり、笹の葉に盛って季節の小花を飾ったりすれば、ちょっと懐石風のしゃれた一品になる。”


 ”(小鍋だて)粋な食べものといえば小鍋だてだね。これは、一人か二人で食べるものなんだよ。まず差し向かいでやるのが一番いい。材料はあまりものでも何でもいいわけです。あるものを何でも材料にできる。出汁を小鍋に張って、そこへ入れて煮ながら食べるんだから。非常に親密な感じになるわけですよ。いれるそばから引き上げて食べる。だから、ぐだぐだ煮るような材料は駄目。鍋はもちろん土鍋です。湯豆腐もいいもんだ。こういうものは材料をごちゃごちゃいれたら駄目だんだ。油揚げをいれた湯豆腐くらいがいいわけです。それから大根ね。大根を千六本に切ったのを湯豆腐の中に入れると、豆腐がうまくなる。

     ”この時、利左衛門が手料理の白魚(しらうお)と豆腐の小鍋立てと酒を運んできた。・・・や。これはよい、春の匂いがたちのぼっているなあ、左馬”

 ”わが忠吾が一本眉にご馳走になっている「蛤と豆腐と葱の小鍋だて」は、数ある蛤賞味法の、それこそ白眉と云ってもよかろう。平たくいえば「蛤鍋」である。剥きたての蛤を、薄い塩水でざっと洗って水を切り、焼き豆腐、葱、三つ葉、乱切りの独活など、好みの青み・薬味とともに大皿へ用意する。味はむろん酒塩味。焼鍋にぱらぱらと塩を振って酒を煮立たせ、材料はなるべく少しずつ入れて、煮えるか煮えないかというところで、さっと引き上げて食べる。煮え過ぎは禁物。好みで醤油を落としたいというなら、ほんの一滴か二滴。淡い塩味にこそ蛤の真味がある。”


  ”(独活)独活の生命とするところは、何よりも香気と歯ざわりのよさである。だから新鮮なものなら、生で食べるに限る。皮を剥いて適当に包丁し、薄い塩水に放ってアクを抜き、これに食塩を振って食べてもうまいし、醤油をちょっとつけてもいい。独活はウコギ科の多年草で山野に自生し、早春に宿根から生ずる若芽が食用として珍重される。遺憾ながら、当節ではこういう本物の独活はなかなか手にはいらない。われわれが八百屋で買ってくるのは、たいてい栽培されたもやし独活である。もやしの独活の功罪はさておき、一度は自然に育った山独活の得もいえぬ芳香を味わう必要があるだろう。もう香りが全然ちがうのだから。「焚き火に突っ込んで外皮が黒くなるほど焼き、熱いうちに皮をむいて、辛口みそかキャビアでもつけていただく旨さにまさるものはありません」、と辻嘉一は云っている。 注)『味覚三昧』辻嘉一 中公文庫)・・・辻嘉一は京都の懐石料理「辻留」の二代目主人) 

独活、せり、蕗、わらび、ごぼうなどの春の野草は粕漬けもうまい。知り合いの小料理屋で教わったつくりかたを書いておこう。・・・独活は5センチの長さに切り、皮を厚めに丸むきし、水にさらしてアクを抜く。せりは熱湯を通して陸あげ(おかあげ)し、冷ます。蕗は粗塩をふりかけて板ずりにし、そのまま茹でて水にとり、薄皮をむく。蕨は灰汁で茹でて水にとり、アク抜きをする。牛蒡は葉を切落し、塩を入れた米のとぎ汁または糠を加えてゆがいておく。酒粕と味噌を4対1の割合で合わせ、酒少々、塩少々を加えてよく練り、漬け床(とこ)をつくる。これに前記の材料を漬け込む。漬かりの早い芹・蕗・わらびは二三日頃から、独活や牛蒡は一週間目から食べられる。大事なことを忘れるところだった。独活の皮のきんぴら、これは絶対のおすすめ品である。むいた皮を千切りにし、ちょっと油を落とした鍋で酒と少量の醤油でさっと炒りつける。この一品だけで軽く二合は飲める。飯のおかずにもむろん悪くない”



 ちょっとここで気分を変えて、料理のレシピではなく、それを楽しむ場所の設定を紹介しておこう。料理をカウンターで食べるのもいい。座敷で庭でも眺めながら、食べるのもいい。個室なら、なおさらである。ここでは川遊びという贅沢な味わい方をしようというものである。

 ”江戸時代の船というのは、結局、今のタクシーみたいなものだ。そのぐらい縱橫に川や運河が整備されていたわけです。川を伝って行けばタクシーより速いんだから。そういうものの溜まり場である船宿がいっぱいあったということは、いかにその頃の江戸の町がいい町であったかということですよ。・・・もうずいぶん古い話だけど、柳橋か浅草橋の船宿から小舟を雇って銚子まで行ったことがあるんだよ、夏ね。夏の土曜日、四時頃出ていって、食べ物や酒をいっぱい積んで、ゆっくりゆっくり行くんだよ。そして船の中で一杯やるわけだ。月を見ながら、ござを敷いて、呑んだり食ったり、あれはよかたたねえ。遊びに行くんだから急ぐことなない。昼間は葦の葉陰で昼寝をしたり、釣りをしたりね。そして川岸をみると、それこそ鯉料理の店なんかあるわけだよ。そういうところに船をつけて、船頭も一緒に上げて、呑んで、そこの座敷で昼飯を食べて、また船に乗ってずうっと行く。だから銚子に着いたのはたしか翌日も夜遅くじゃないかな。!”

 注)今の世の中ではこんなことはできないかもしれない。しかし、と考えた。昔、大阪~京都のあいだは伏見から大阪へ、三十石舟が運行されていた。平安時代に熊野詣でをする女房たち、またおそらく長谷寺へ詣でたであろう女人たちはこの船に乗り、大阪の八軒家船着き場までたどり着いた。これを現代に復活し、豪華な観光船として運行してはいかがであろうか。安価な観光ツアー船ではなく、主として外国からの観光客向けとして。船内では料理と酒を振る舞い、淀の堤の景色を楽しんでもらう。芸舞妓の舞踊、音曲つきで。京都の本格的な高級料亭にゆけば、3万円以上する。このくらいは、彼らも支出するだろう。


 ”(茄子)総じて茄子は、煮るにも焼くにも、なぜか胡麻の油がよく似合う。そのことを最も強く感じさせるのは「茄子の胡麻だれ漬け」であろう。暑中にふさわしい小付としてご紹介する。わが座右の書『料理歳時記』(辰巳浜子著)からの抜書である。胡麻を香ばしく煎って、味噌になるまでよくよく摺る。生姜をおろし、胡麻の五分の一くらいの量を混ぜる。味醂、醤油でやや固めに溶く。ここで砂糖をいれれば、女子供向き。酒徒には砂糖は邪魔である。胡麻ダレの用意ができたら、茄子を油焼きにする。鍋に胡麻油を入れ、煮立ち始めたらただちに、茄子を切るそばから入れてゆく。両面にこんがり焼き目がついたら、順に上げて胡麻だれに漬け込む。茄子からなんとも言えぬうまい汁が出て、胡麻ダレがちょうどよい加減になる。熱々もよし、冷たくして味わうもよし。”


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 皆さま、これをお読みになられていかがでしたか? ”うん、うまそうだなあ。ひとつ料理してみようか?”、と思われたものがありましたでしょうか? 私自身にとっては、どれもこれも料理してみたい素材ばかり。高級な料理屋へ行くのもいいけれど、自分で厨房に入って自分で料理をしてみたい・・・と食欲が湧いてきました。 それから余談ですが、春の山菜については、石川県白山市にある旅館「うつお荘」がうまい山菜料理を出してくれます。でも、ちょっと遠いかなと思われたら、郡上八幡の宿「中嶋屋旅館」(なかしまや)に泊まってみてください。ここは、片泊まりです。美味しい山菜料理を出す店を教えてくれます。お値段も安いです。いろいろな山菜がカウンターに積まれいて、お好みの方法で料理してくれます。


 まだまだ続くのですが、本命の辰巳浜子著の『料理歳時記』が出てきたところで、いったん中締めとさせていただきます。一両日中に続編としてアップしますのでご了解ください。




















コメント (4)
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