(新)緑陰漫筆

ゆらぎの読書日記
 ーリタイアーした熟年ビジネスマンの日々
  旅と読書と、ニコン手に。

時評(金融・経済) 米国の量的緩和縮小でどう動くか(その2)

2015-04-03 | 読書
(その2)時評(経済・金融) 米国の量的緩和縮小でどう動くか(その2)

 今年6月ないし9月ころには米国の量的緩和縮小が始まると予想される。その場合私たちの生活にどのような影響があるか? またどのとのように対処したらよいのか、具体的なことに立ち入って記します。その前にまず『未知のリスクにさらされる世界の経済』について、前編で書いたことを要約しておきます。


(米国の量的緩和縮小で何が起こりうるか


 FRBはゆっくり量的緩和を縮小することで金融市場への衝撃を和らげつつ、マネタリーベースの上昇に歯止めをかけようとしている。なんとしても金融市場からの反乱をおさえこみたいのだ。

 しかし量的緩和縮小後は、このマネタリーベースは再び横ばいになり、緩和縮小第3弾で堅調に推移してきた米国株価指数の勢いにも、足を引っ張られる局面が到来する懸念がある。世界経済に混乱の影もさす。

  注)マネタリーベースと株価指数がおなじ歩調で推移していることからも分かるように量的緩和による金融緩和に過度に依存している世界経済の姿がある。

 いつも中央銀行(FRB)が、なんとかしてくれると言う政策への信認(クレディビリティ)が持続するという幻想は捨て去るべきである。

 2015年以降の金融市場は一筋縄ではいかないことが予想される。

 世界の人口増加率もピークアウトし、低下傾向にあり、世界経済の成長率も低下してゆく(これはイノベーションやIT革命、エネルギー革命などにより経済マイナス効果を乗り越えなければならない)

 株価暴落(20%程度)や円安トレンドの継続を予想。そして米国の株価指数の変調は、海を越えてわが国の株価指数にも影響を与えることが予想される。



(マクロ面で見た、私たちの生活への影響は?)
 ”人口が減少する中、経済成長率を引き上げるためには、産業を育成し、投資を喚起していくことが必要だ。個人の所得や日常生活にとって、日本経済全体のことは関係ないという考え方もあるが、個人の所得も、その前提として日本経済が成長しなければ顕著な増加は期待できない。”

 この点を考え、大胆に経済や社会の構造を変えことを提案している。農業分野での規制改革、経済安定のための国際協調の一環としてのTPPの推進などをあげているが、詳細はここでは省く。

 ”世界経済の先行きは不透明だが、しかし経済そのものは常に動いており、中所得層が拡大すれば、新興国の消費は高まってゆくだろう。不確かだからといって
極度に慎重になり、将来を悲観することは、チャンスを逸することにもつながりかねない。

 ”緩和的な金融政策のマイナス面の影響は、先進国にも及ぶ可能性がある。特にわが国においては、米国よりも長期にわたり量的・質的緩和が継続される可能性が高い。米国の景気はゆるやかに回復しており、金利上昇への観測が高まりやすくなっていいるかである。貨幣の供給量(マネタリーベース)の観点でも、米国はゆっくり減少させる一方、わが国のマネタリーベースの拡大は持続せざるを得ない。 

 そのため、円は中長期的に下落する可能性がある。これは、わが国において、インフレ圧力が高まりやすいことを示唆する。しかしこのインフレ圧力は、消費に牽引されたものになるのだろうか。現状の日本経済を見る限り、消費が拡大せずにインフレリスクだけが高まる展開を否定できない。すでに貿易収支は赤字に陥り、経常収支も悪化傾向にある。そのため、円安を波及経路としたインフレリスクの台頭は、わが国の経済に
マイナスの影響を与える可能性がある”

  注)このインフレリスクの緩和のためにも貿易や投資に関する規制の自由化をすすめ、相対的に技術優位性のあるアジアでの地位を固め、輸出力を高めるなどの提案がされているが、ここでは省いた。


 では(個人々としてどう対応したら良いのか)この説くところは明快である。その是非については、後でコメントをする。「不安定な時代の老後の資産運用・・・」というタイトルになっている。したがって、すでに退職しある程度の資産が積み上がっている人を対象にした論である。資産形成はこれからという若い人たちのケースについては、そのあとで私見を述べる。

 資産運用のキーポイントは「ものを買うチカラ」の維持拡大という。購買力のことをいう。少しでもインフレが進んでゆくならば、購買力は低下する。基準はインフレ率である。2014年の消費者物価指数は、対前年比で3パーセントを超えている。今後もインフレ率がマイナスになる可能性は低い。今後の指数の上昇率が日銀の想定する2パーセントとすれば、資産運用によるリターンは2%は少なくとも確保しないと「買うチカラ」は維持できない。できれば、この2%に少し上乗せして「買うチカラ」の拡大も図りたい。

 その具体策の一つとして物価連動国債を挙げている。これは消費者物価指数の変動に連動して元本や利息が変動するため、インフレがあっても「買うチカラ」はそのまま維持されることになる。これまで個人で物価連動国債を買うことはできなかったが、本年1月から買えるようになった。一般的には物価連動国債ファンドがあり、証券会社で、これを購入することができる。

 ”圧倒的に日本国債のなかで発行額の少ない物価連動国債の価格は、国内機関投資家や金融機関の駆け込み購入により大きく相当することになるであろう。そのような時にこそ、無理をしない運用、背伸びをしないを心がける個人投資家にとっては、パニック的に買われる物価連動国債を、余裕を持って売却してゆけばよいのである”

 私見として付け加えるならば、この物価連動国債ファンドは、何も日本国債を対象としたものだけに留まらない。世界物価連動国債ファンドなど海外のものもあり、日本のそれよりもトータル・リターンは高い。これも証券会社で購入することができる。


 次いで「買うチカラ」の拡大については、米国の量的緩和の正常化の過程での不安定な時代であるため、維持を軸として、拡大部分は控えめにしておきたいことを強調している。(無理に株式などの高リスク資産への投資はあまりすすめていない)株価指数に連動するタイプの資産運用を軸とすることはすすめていない

しかしながら、一方でこのようにも言っている。

 ”むしろこのような時代には、買うチカラの維持を軸にして、金融環境が大きく変化しても安定的に増益が確保できる企業を選んで投資するスタイルで、補足的に買うチカラの拡大をするほうがよいだろう。株価指数全体に投資するのではなく、企業や業種を選んで投資するスタイルの株式投資である。”

 ここでこの優れた著作の紹介を締めくくる前にあたり、「おわりに」で著者らが結んだ言葉を記しておく。

 ”今、再び予測するならば、ITバブルにつづくサブプライムバブルの清算ーデレバレッジが終了したとは考えられない。現在は長い1940年代の途上にあり米国の量的緩和解除が順調に進んでいくと考えるのは楽観的すぎるであろう。さらに政府債務の圧縮など遠く及ばない環境にあるからだ。世界経済は、「未知のリスク」にさらされようとしている”


     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 さて本書の紹介は終わったが、個人が資産運用をする場合を想定して、次の二つの重要な点について私見をコメントさせていただく。

 (株価指数による運用か、あるいは成長株を選んでの投資か?)
 著者は、”株価指数全体に投資するのではなく、企業や業種を選んで投資するスタイルの株式投資”を推奨している。この点については意見が別れるところであろう。著者が指摘している株価指数による運用とは、いわゆるパッシブ運用である。従来の日経平均や東証株価指数(TOPIX)加え、収益性や値動きを加味した「進化した指数」のスマートベータなどが登場し、指数連動型の運用は雪崩を打つかの如く指数運用に傾いている。米国ではインデックス投信やFEFと呼ばれるファンドがかなりの勢いを占めている。コストが圧倒的に安いからであると同時に、大きな年金基金など巨額の運用にあたって、成長しそうな企業を選んの投資は管理コストも高く、運用がむつかしい。米国では、資金の9割が指数連動型のパッシブ型ファンドに流れ混んでいる。かの”ウォーレン・バフェットも、「現金のうち10%を米国の短期国債に、90%をS&P500種株価指数に連動する低コストのインデックスファンド(私はバンガードをすすめる)に投じれば、高い手数料を取るファンドマネージャーより長期で優れた運用成績をあげられる”と言っている。

 これに対し企業などを成長性などの点で選んで投資をするのは、アクティブ運用と呼ばれる。本書で著者がすすめているのは、この運用方法である。しかし、投資を少々勉強したくらいでは、現実にはなかなかできないのではないか。ある運用の専門家によれば、

 ”金融機関のセミナーで、「このままだと老後の資金が足らなくなる」などと脅かされ無茶な運用をする人がいる。特に高学歴の大企業OBに限って、投資に関する根拠のない自信を持ってしまうようだ”

 個別株ではなく、アクティブ運用をする投資信託を選ぶことも選択肢の一つである。その場合、証券や銀行の窓口を通すとコストも高いので、”直販”と呼ばれるファンドの運用を行っている会社から直接買う方がコストの点などから好ましい。なお補足すれば、いくつかの直販投信では、より良き社会を形成するに貢献する企業に投資を行うファンドがあり、投資の本質的な意味を考える上では望ましい姿と思われる。このアクティブ運用に関して、つい最近のことであるが、約137兆円の運用資産を持つGPIF(年金積立金管理運用独立法人)が、2015年度から成長企業を選んで投資するアクティブ運用の比率を高めることを決めた。

 (海外投資はどうなのか?)
 この著書では、今後の世界経済の成長率の低下傾向を指摘しているが、個別に見てゆくと米国経済あるいはアジア地域では6%超の成長が維持されるとの最新の経済が見通しがある。特にインドは構造改革が進み、域内最高の8・2%の成長が見込まれている。(アジア開発銀行ADB、2015年3月24日発表)であれば、そのような高い経済成長の見込まれる国、あるいは世界経済全体へのインデックスファンドやETFなどを通じて投資を行うことも考えられる。むしろ海外株や海外を投資対象とするファンドなどへの投資を主とする考え方もあろう。


 最後になったが、これから資産形成に務める若い世代の方々に対しては、然るべき直販投信を通じて、こつこつと長期投資に徹することをおすすめしたい。現役世代、それも若い人たちは、自分自身への投資(教育投資)が必須であり、もっとも重要であって、株だ外貨投資、FX運用などに時間とエネルギーを注ぐことはもったいない。

 
 2回にわたる長文におつきあいいただき、ありがとうございました。





(余滴)「マネー学」おすすめの三冊 

 (1)『投資家が「お金」よりも大切にしていること』
                   (藤野英人 星海社、2013年2月)

    これを読めばお金に対する見方が変わります。投資をすることがどういう意味合いを持つのか、よくわかります。
    薄い新書版ですが、その本書の値打ちはとても部厚いです。若い方も、またリタイアしてお金をただ抱えている方もお読みください。

 (2)『長期投資家の「先を読む」発想法』
                   (澤上篤人 新潮社 2014年11月)
    直販を日本で初めて導入した先駆者が長期投資の持つ意味、重要性を語った本。少々楽観的すぎるところもありますが、熱い思いを語っています。

 (3)『未知のリスクにさらされる世界の経済』 (本書)







コメント (2)
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