(新)緑陰漫筆

ゆらぎの読書日記
 ーリタイアーした熟年ビジネスマンの日々
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時評(金融・経済) 米国の量的緩和縮小でどう動くか

2015-03-28 | 読書
時評(経済・金融) 米国の量的緩和縮小でどう動くか

 金額の多少にかかわらず資産の形成あるいは運用に手を染めておられる人たちにとって、アベノミクスはどうなるか、日本経済は成長してゆくのか、いやもっと端的にいえば日経平均(現時点で1万9285円)はさらに高値を追うのか、さらにはどこかで暴落はないのか、などが日常の関心事であろう。しかし今や日本経済も世界のそれとリンクしあっており、世界経済の動向なかんずく米国経済の動きを注視しなければならないが、中でもFRB(連邦準備制度理事会)による金融緩和がどうなるのかが最も重大な要因であろう。


 2008年のリーマンショックにより金融市場に激震が走った。そして世界中の人々の生活に少なからず影響を与えた。このグローバルな金融危機を緩和するために米国の金融当局はこれまで採用したことのない政策の実施に踏み切った。2008年12月16日に、FRBはFF金利(フェデラル・ファンドレート、金融機関が日々の資金過不足に応じて資金を融通しあう短期金融市場の指標となるレート)を0.00~0.25%まで引き下げることを決定しあt.2008年のはじめにはFF金利は4%を超えていたが、それが年末にはゼロ・パーセント水準まで引き下がれれた。それだけでは不十分と見たFRBは、金融市場から大量の財務省証券(米国債)や住宅ローン担保証券を購入し、金融市場に巨額の資金を投入した。(非伝統的金融政策)これにより長期債利回りも低下、住宅ローン金利も低下した。これにより悲観ムード一色であった金融危機の雰囲気は一変し、金融市場の混乱を収めることに成功した。この金融緩和によりマネタリーベース(銀行券とFRBに銀行が預ける準備預金の合計額)が第一弾、第二弾、第三弾と急速に増加した。詳細は省略する)

この金融緩和がいつ終了あるいは縮小するのか、誰も知る由もないが、毎月発表される雇用統計の結果をみていると非農業部門の雇用者数は次第に拡大しており、また失業率も低下あるいは改善されている。その結果、今年9月頃、FRBは量的緩和縮小に踏み切るとの見方が強まっている。

 ではその時どんな事態が起こるのか? それによって世界の市場は不安定化し、世界は新興国からリスクマネーが流失し、再び低成長に陥る可能性もいわれている。そして日本経済も大きな影響を受ける。その結果、日本の国債暴落などなど様々な影響を受ける可能性があるかも知れない。


(『未知のリスクにさらされる世界の経済』(日本経済新聞出版社、2014年10月24日)真壁昭夫&平山賢一))

 そのような事態を気鋭の経済学者二人が深く考察し、金融市場の不安定化を読み解くのに戦前にまでさかのぼって米国経済史をひもとき、そこから今後の動きを考察した。そして量的緩和縮小が、私たちの生活にどのような影響を及ぼすか、またそれに対し個人の資産運用はどう対処したらよいのかまで明らかにしている。

 この本は極めて含蓄のある優れた著作である。しかし昨年11月に発行された時は、書店においても経済書などの棚の下の方に置かれており、それほど目立っていなかった。しかし、たしかコモンズ投信の渋沢建会長がご自身のフェイスブックで紹介されていたように覚えている。ただ、その内容にまで触れていなかったので、自分の目で読んで内容を確かめることにした。
 
  念のために著者を紹介しておこう。真壁昭夫はDKBからロンドン大学大学院卒。メリルリンチをなどを経て信州大学経済学部教授。行動経済学に詳しい。平山賢一は東京海上火災保険から東京海上アセットマネジメント運用戦略部チーフストラテジスト。一橋大商学研究科非常勤講師。東京工業品取引所指数特別委員会委員、。人口動態や金融に詳しい。つまり、象牙の塔にこもって理論をこねくり回しているような人たちではないのだ。

 では、どんな風に”情勢”を読んでいるのだろうか? まず量的緩和とは何だったのか、1930年代から40年代にかけておこなわれた戦前の量的緩和を含めて振り返っている。そのうえで

 ”FRBは、財務省証券や住宅ローン担保証券などに投資することで、中長期債利回りに低下圧力をかける。金融機関だけでなく機関投資家いしてみれば、利回りが低下した財務省証券の魅力が低下することで、よりリスクの高い高利回り債は新興国債、さらには株式に資金が流れていった”

 そして言う。
 ”FRBの量的緩和第二弾以降はその目的が変質する。すなわち世界中に広がった金融危機からの脱出を主眼とするものではなく、米国内の経済対策を目指したものに変わったのである。”

 ”量的緩和縮小後に、マネタリーベースは再び横ばい局面入りすることになる。緩和第三弾により堅調に維持してきた米国株価指数の勢いも、足を引っ張られる局面が到来することが懸念される

 ”金融の歴史を振り返ってみると楽観と悲観をくりかえしていることに気がつく。・・・・・・、言葉をかえると、バブルとバーストの歴史であるといってもよい。・・・マクロレベルの経済全体でも、負債を拡大させる時期と縮小させる時期がある。歴史の倣いか、負債を過剰に拡大させてバブル期のあとには、その急激な反動として、負債を抑制する負債圧縮のバースト期に突入するものである”・・・金融市場のバブルとは、経済の実態以上にレバレッジをかけたところに歪が生じることに他ならない、この歪は、やがてボラティリティ(価格変動率)の急上昇、株価暴落などにつながってゆく”

 注)「レバレッジ」とは等身大の姿を超えて、背伸びして投資や消費に資金をつぎ込む こと。逆に投資や消費を抑制し、借金や負債を縮小させることを、その逆のうごきであ ることから「デレバレッジ」という。
                                         総括すると、

 ”「FRBは高い負債比率という背伸びからの退出を迫られており、同時に「高い金場から信任」というバブルも抱え込んでいることから、2015年以降の金融市場は、一筋縄ではいかないことが想定される” 


(米国の量的緩和縮小は世界経済・日本経済にどのような影響を与えるだろうか) ここも著者たちの見るところから要約しみよう。
 ”かりFRBが政策金利を引き上げたとしよう。これは米国での資金コストを増加させる。この動きは、株価や社債市場における価格の下落につながるかも知れない。株価などの下落を受けて、投資家はリスク回避に動き、世界的に株価が下落基調になるかもしれないい。企業経営者はこの動きをみて、景気に対する慎重な見方を高め、設備投資や人員の採用に消極的になるかもしれない”

 ”米国の金融政策が正常化に向かうことは、わが国の経済に対するリスク要因であると考えたほうがいい。それと同時に日銀の金融政策にも影響することになる。 真剣に議論すべきは、出口が不確かなときには、持続的成長性のある経済構造をつくる準備を進めることだ。金融政策は期待に働きかけることはできても、潜在的な成長率を引き上げることはできない。それは、政府そして個々の企業の課題なのである”

 世界経済への影響に関しては、次の点を挙げている。

 ”世界の経済成長率は半世紀にわたり趨勢的に低下してきており、その延長線上に金融危機とその対応策としての量的緩和が存在していることを気に留めなければないだろう”

 ”世界の人口増加率は1968年んいピークアウトし、70年代以降はゆるやかに低下し、現在は1.2%まで低下している。(2012年) 同様に経済成長率も1964年にピークを迎え、70年代に一時的に回復する局面があったものの、2.2%まで低下ししている(2013年) われわれは人口増加率が低下してゆくトレンドにあわせるように、経済成長率も低下してゆく半世紀を歩んでいるのだ

 ちなみにこの低成長を回避するためのソリューションはイノベーションの加速により生産性をより高めることである。


(量的金融緩和は金融市場にどのような影響を与えるだろうか)

 米国の量的緩和政策が正常化に向かい、そして政策金利が引き上がられることによって世界経済の下振れリスクが高まりやすくなる。加えて日本国内では我が国の政府債務残高がGDPの2倍を超えており、ギリシャ・イタリアの状況よりも明らかに悪い。わが国の現状では、これまで民間が保有してきた国債を日銀が保有する構造になっており、金利上昇リスクを抱え込んでいる。そのため財政規律は弛緩しやすく国債の大量発行に対する躊躇も無くなってゆく。このようなときは、金融市場が反応し、長期債利回りは上昇せざるを得ない。

 2008年の時点でわが国の国民貯蓄率は国民総所得に対して5%程度であった。その水準がリーマンショックに伴う危機を境にマイナスに陥ったということは家計の貯蓄がいくらあるのかという議論とは別な視点での分析が必要であることを示唆する。つまりわが国は経済ショックに対して脆弱だということだ。改善のためには荒療治が必要なことは言うまでもない。社会保証費の縮小は痛みをともなうがそれなくして財政を立て直すことは難しい。

 そういう中で自分の生活を支える自助努力の必要性を説く。

 ”景気が回復しつつあるからといって、定期預金の利息が増えるなどのローリスクの資産運用を通して享受できるメリットは少ない。また、特に若年層は、老後の人生は自分自身で支えることを真剣に識したほうがよいだろう。そのためには、経済に対する理解が求められる。市場原理の働きを理解し、察知する感覚を持つことが重要だ。

 そしてリーマン・ショック後の世界経済を支えてきた米国の緩和的な金融政策も、転機を迎えつつある。それは、これまで述べてきたように株式や債券、為替などの資産価格が大きく動く可能性も高まるだろう。守るのか、それとも攻めるのか、資産を運用する面でも重要な時期に差しかかっている。・・・重要なことは、投資を行うということは、世界の動きを考えることと同義だと言う意味である”中長期的にどの国の成長期待が高いのか、どういった製品サービスが求められているのかを調べるだけでも、視野が大きく変わるだろう”
 
 日本の国債暴落の可能性については、こう言っている。
 ”日本国債に関するリスクは、日銀と公的年金における政治的動機の急変であろう。無我夢中で日本国債を購入しまくっているだけに、日銀の政策転換や、金融市場とのコミュニケーション失敗は、国債暴落の引き金になりうる。金融市場との対話に注力するFRBの遺伝子に対して、日銀のそれは個人的な日銀総裁の能力に委ねられている。そもそも日銀と金融市場とのコミュニケーションがうまく機能しているという話は現在の黒田総裁をのぞいて日銀史上聞いたことがない。・・・”

 円安か円高か? ”経常収支が黒字から赤字へと変化し、量的・質的金融緩和によるマネタリーベースの引き上げが維持される限り、ドルなどの主要通貨に対する円安トレンドは続くだろう。特に米国の金融政策が正常化に向かうことを考えると、日米間の金利差の拡大からドルが上昇する可能性もある”

 株価大暴落はありうるか? 第2のリーマン・ショックは再来するか? この極めて」重大な疑問について著者らは次のように考察をしている。

 ”第2のリーマン・ショックのよる株価大暴落の可能性は低いとみている。大恐慌の際の株価指数下落をのぞけば、過去100年で最悪の下落を経験したリーマンショック。米国の株価指数で57%超、日本の株価指数で67%超の下落幅であったが、米国の量的緩和正常化の過程で、ここまでの下落幅が發生する確率はきわめて低いだろう。ただし、米国株価指数で2割り程度の暴落は十分に起こりうる。特に、長期債利回りが3.5から4%近くまで上昇すると、長期債利回りの上昇が逆に株価指数の上昇を抑えこむようになる。そのため、急速な長期金利の上昇が發生するときには、株価指数もサプライズから暴落に陥る可能性がぐっと高くなるのである。” そして”世界の金融界の中心地である米国の株価指数の暴落は、海を越えてわが国の株価指数をも左右することになる”


 この株価指数の激しい変動の可能性もあり、それだけに外部環境の激しい変化に左右されない成長企業への選別投資の意義を、著者らは説いているが、そのことは(私たちの生活への影響と、今後の資産運用をどうすればよいのか?)ということで章を改め、私自身の見方も含めて具体的に説明することにする。またこの著書では世界経済への目配りを説きながら、海外株式とくに米国株投資などについては触れていないので、あわせてとりあげることにする。 




(次稿につづく)
















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