サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場でサムソンとデリラに出演してから1週間後の5月13日、ホセ・クーラは、ドイツのドレスデンで、アルゼンチン歌曲のコンサートに出演しました。
→ (告知編)
ロシアではオペラ出演でしたが、今回は、自ら作曲した作品をふくむ、故郷アルゼンチンの歌曲を中心としたコンサート。クーラは歌手として、また作曲家として出演しています。写真をみると、どうやら指揮もしているようです。
クーラのアーティストとしての多面的な魅力を示す今回のコンサート。参加した海外の人の情報でも、とても素晴らしいコンサートだったようです。
残念ですが、ラジオ放送やライブ中継もなく、録音、録画も紹介できないですが、クーラやフェスティバル事務局がSNSなどで公開した写真や動画、またレビューなどをまとめて紹介したいと思います。
The 41st Dresden Music Festival
10 May to 10 June 2018 With 67 events at 24 venues
JOSÉ CURA & DRESDNER KAPELLSOLISTEN
Dresdner Kapellsolisten
Helmut Branny, Conductor
José Cura, Tenor
María Elena Walsh、1930年2月1日 - 2011年1月10日»ARGENTINEAN SONGS«
Works by Felipe Boero, Carlos López Buchardo, José Cura, Alberto Ginastera
Carlos Guastavino, Hilda Herrera, Héctor Panizza und María Elena Walsh
SUN 13.05.18 11:00
Semperoper
第41回ドレスデン音楽祭 → フェスティバル公式HP
2018年5月10日~6月10日 24会場、67イベント
ドレスデン市内に貼られたポスター(フェスティバルのFBより)
≪母国アルゼンチンの作曲家をとりあげ、歌う≫
コンサートは、伝統あるドレスデン音楽祭の一環で、会場はドレスデン州立歌劇場・ゼンパーオーパーです。
共演は、ゼンパーオーパーが誇る専属オーケストラ、シュターツカペレ・ドレスデンのメンバーによって結成された室内楽アンサンブル、ドレスデン・カペルゾリステン(1994年設立)。指揮のヘルムート・ブラニーは、シュターツカペレコントラバス奏者でもあり、カペルゾリステンの指揮者だそうです。
取り上げた楽曲の作者は、すべて、クーラの母国アルゼンチンの作曲家です。
フェリーペ・ボエロ(Felipe Boero 1884-1958年)
カルロス・ロペス・ブチャルド(Carlos López Buchardo 1881-1948年)
アルベルト・ヒナステラ(Alberto Evaristo Ginastera 1916-1983年)
カルロス・グアスタビーノ(Carlos Guastavino 1912-2000年)
ヒルダ・エレーラ(Hilda Herrera 1933年― )
エクトル・パニッツァ(Hector Panizza 1875-1967)
マリア・エレナ・ワルシュ(María Elena Walsh 1930-2011年)
そして、ホセ・クーラ(José Cura 1962- )
20世紀初頭から現代までの作曲家で、クーラ自身の作品も含んでプログラムが構成されています。
この下はフェスティバル主催者が掲載した動画です。
クーラが歌っているのは、チリのノーベル賞詩人ネルーダの詩にクーラが作曲した曲。
「もし私が死んだら」と題した愛と死を歌った情熱的な詩集から何篇か抜粋して、クーラが美しく切ないメロディをつけた組曲のひとつです。
歌詞は、私の不十分な直訳ですが、以前のブログで紹介しています。 → 「ホセ・クーラが作曲し、歌う、パブロ・ネルーダの詩」
もともとピアノと声のための曲として作曲したそうですが、後にクーラ自身がオーケストラ用に編曲して、ピエタリ・インキネン指揮、プラハ交響楽団によって初演されました。
以下の動画は、2013年ブダペストのコンサートのもので、ピアノ伴奏版。ぜひ聞いてみてください。
José Cura: Argentinische Lieder (Dresdner Musikfestspiele 2018)
≪アルゼンチン音楽の特徴は、郷愁――ノスタルジック≫
フェスティバルのフェイスブックに、もう1つの動画がアップされています。
リハーサルの際に撮影されたもので、クーラがアルゼンチン音楽について語るインタビューです。
そしてインタビューのバックと後半では、クーラがギターとチェロとともに歌っています。
この曲名は私にはわかりませんが、とてもリズミカルで美しい曲です。クーラの声と歌いぶりも、つい1週間前のサムソンの歌唱とは全く違って、優しく、美しく響かせています。
――クーラのインタビューより
アルゼンチン音楽は、とてもノスタルジック。他のほとんどの南米音楽と同様、そして特にアルゼンチン音楽について理解しておかなければならないのは、移民についてだ。イタリアやスペインなどから来た移民だけでなく、現地の人々と結婚してクリオーリョと呼ばれる人々など、イタリア系、スペイン系、ローカルアルゼンチンの人々が混ざり合い、それらがとてもノスタルジックな混合物をつくった。
音楽のうちの90%は、苦しみや、誰かの死についてで、タンゴがそうであるのと同じ。これらの歌は謎めいていて、シューベルトやシューマンのようなスタイルをとっている。そのほとんどは悲しい曲だが、いくつかはコミカルで、そのコントラストはとても興味深いものだ。しかし基本的なものは、常に、深い悲しみだ。
カルロス・グァスタビーノ「バラと柳」
La rosa y el sauce - tenor José Cura (ARGENTINA)
≪オケ、共演者との魅力的なコラボレーション≫
この写真は、クーラが公演前日にアップしたもの。共演のドレスデン・カペルゾリステンの方たちとの朝食風景だそうです。
「音楽の魔法が、共演者とのチームワークの素晴らしい感覚を作り出した」とクーラ。
自らの母国の音楽、そして自らの作品を、優れた室内楽オケのメンバーとともに作り上げていくのは、とても親密で魅力的な活動だったことと思います。
≪満員のゼンパーオーパー、1100人観客からスタンディングオベーション≫
コンサートは大成功、ほぼ満席の会場、観客からはスタンディングオベーションを受けたそうです。
好評のレビューもいくつか出ています。いずれまた紹介したいと思っています。
こちらは公演の写真を掲載した、フェスティバルのフェイスブックより。
フェスティバルの紹介誌。その下はクーラの紹介ページです。
このようなクーラの多彩な魅力、多面的な活動ぶりを紹介するコンサートを、日本でもぜひやってもらえないでしょうか。
できれば大きすぎない、中規模なホールで、室内楽のオケ、数人のソリストとクーラで、親密で、穏かなアルゼンチン音楽のコンサート。いつの日か、実現する日を心待ちにしています。
*写真はフェスティバルやクーラのSNSなどからお借りしました。