Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

ケース&ライティング(刑法)(2015年度後期)

2015-09-26 | 日記
          2015年度後期 ケース&ライティング(刑法)

(1)講義の目的
 法律学の基礎としての憲法・民法・刑法の学習への導入

 カリキュラム体系
 民法・憲法→刑法
 民法→商法・会社法・経済法
 憲法→社会法・国際法
 実体法→手続法(刑法→刑事訴訟法、民法→民事訴訟法)
 実定法→基礎法(法哲学・法社会学)・法史学(法制史)


(2)刑法部門の講義スケジュール
 第1回 刑事法へのイントロダクション
     犯罪動向と刑事手続
     日本の犯罪情勢
     事件処理・刑事手続の特徴


 第2回 刑法の基礎(その1)
     犯罪とは何か
     刑罰とは何か
     刑法学の課題
     犯罪学・刑事政策学の課題
     課題①


 第3回 刑法の基礎(その2)
     犯罪の成立要件
      構成要件→違法性→有責性
     犯罪の阻却事由
      違法性の阻却・責任の阻却


 第4回 課題②
     課題の解説


(3)教材
 生田勝義他『法学ことはじめ』(法律文化社、2015年)
 レジュメ、資料、公的機関のHP

(4)成績評価基準
 平常点(65点)
  出席(10)、夏期課題(05)、課題①(05)+課題②(10)×憲法・民法・刑法

 到達度検証テスト(35点) 憲法・民法・刑法







            第1回 刑事法へのイントロダクション

(1)犯罪情勢
1平成26年版「犯罪白書」 moj.go.jp/content/001128569.pdf
1)刑法犯の認知件数・検挙人員・検挙率の推移(昭和21年以降)

2)全体傾向(認知件数・検挙人員・検挙率)
 過失運転致死傷罪
 窃盗罪
 窃盗を除く刑法犯

2一般刑法犯(過失運転死傷罪を除く刑法犯)の検挙人員の年齢構成(平成6年以降)(2頁)
1)検挙人員に占める高齢者(65才以上)の増加傾向

2)少年による刑法犯 検挙人員・人口比(28頁)

3)高齢者による一般刑法犯 検挙人員(44頁)
 罪名別構成比(平成25年) 窃盗の占める率の高さ(45頁)

 罪名別検挙人員の推移(平成6年以降)(46頁)
  殺人・強盗
  暴行・傷害
  窃盗
  遺失物横領

 入所受刑者人員の推移(平成6年以降)(46頁)
  初犯の増加傾向(65才を過ぎて初めて犯罪を行なう人の層化傾向)

4)その他
 犯罪の種類別・犯罪者の特徴別の特徴

(2)刑事手続の基礎
1憲法と刑事手続
 憲法31条 法定の手続の保障
   32条 裁判を受ける権利
   33条 逮捕の要件
   34条 抑留・拘禁の要件、不法拘禁に対する保障
   35条 住居の不可侵
   36条 拷問および残虐な刑の禁止
   37条 刑事被告人の権利
   38条 自己の不利益な供述の不強要、自白の証拠能力
   39条 遡及処罰の禁止・一事不再理
   40条 刑事補償

2犯罪捜査の段階
 犯罪発生→捜査→被疑者逮捕(48h.)→検察官送致(24h.)→勾留請求(10days+10d.+a)→起訴
 公判請求(または略式命令請求)→裁判(地・高・最)→判決→有罪判決の執行・無罪

3冤罪のメカニズム  逮捕後の取調べ、勾留の場所と期間、被疑者に対する弁護権の保障






              第2回 刑法の基礎(その1)

(1)刑法の基礎
1犯罪とは何か
 「無免許運転または飲酒運転による自動車運転」によって、「歩行者が死傷した」

 行政法・道路交通法 自動車運転に対する行政による管理と規制(免許停止・過料など)
 民法        故意または過失による権利侵害に対する賠償責任(金銭による賠償)
 刑法        犯罪に対する刑罰(懲役・禁錮・罰金・科料など)

2刑罰とは何か
 法的制裁の一種としての刑罰
 刑罰の特殊性 生命・自由・財産の剥奪

3刑罰論・犯罪論と人権保障
 刑罰 犯罪によって得られた不当な利益は、刑罰を科すことによって相殺・剥奪される。
    有罪宣告によって、その行為が犯罪として処罰されることを周知徹底し予防する。

    犯罪を行なった者の再犯を予防するために感化・教化する。
    刑務作業と矯正教育(法務省HP、静岡刑務所HPなど)


 犯罪 その被害の現象面の研究→権利侵害性、社会的有害性、残虐性、精神面への影響など
    その加害の原因面の研究→社会的環境・個人的性格、疾病的要素、文化・習慣など

    社会構成員の多様性、宗教・文化・習慣、価値観の多元性

    個人の人格性・平等性の尊重

    最大公約数としての犯罪 外形的事実が社会・他者に与えた影響・作用の有害性
                その事実の認識の有無(故意・過失)

 犯罪による他者・社会の自由・権利の侵害の予防(犯罪からの他者・社会の利益保護)
 刑罰の濫用による個人の人格・性格・思想の処罰の予防(国家からの個人の自由保障)

(2)刑法学の課題
 思想・信条は犯罪にはなりえない
 他者・社会に与えた有害な「行為」だけが犯罪になりうる
 有責で予防可能な行為しか処罰できない

 法律によって犯罪と刑罰を事前に明記し、その周知徹底を図って予防する
 無罪推定の原則と「疑わしきは罰せず」

(3)犯罪学・刑事政策学の課題
 刑罰の執行過程
 刑務作業と矯正教育
 受刑者の実像

 課題①






              第3回 刑法の基礎(その2)
(1)犯罪論の基礎
1刑事手続における人権保障
 捜査手続の過程において人権保障が徹底されている理由
 不利益供述や自白が冤罪や誤判を生み出す危険性を除去する必要

2犯罪概念への人権保障の反映方法
  成立過程 主観(犯罪を実行する意思の決定)から客観へ(犯罪の実行と結果の発生)
  認定過程 客観(犯罪の存在を裏づける物証)から主観へ(故意・過失の裏づけ)
       無理な取調べと自白の強要を抑制し、犯罪捜査における人権保障を実現

(2)犯罪の成立要件
1人間の行為は事実的存在である
 外部的・客観的(物理的・身体的)側面と内面的・主観的(心理的・精神的)側面の統一体

2法は事実的存在によって構成・拘束される
 法は権力者の恣意にあらず
 権力者も「事実的に存在するもの」を無視して法を制定・構成することはできない

3行為概念を分析し、その構成要件を法的に再構成する
 外部的・客体的な側面と内面的・主観的な側面へと分析・分類
 外部的・客観的側面→外界と身体的行為との接点(「何を行なったのか」の問題領域)
 内面的・主観的側面→身体的行為と意思との接点(「何を行なおうとしたのか」の問題領域)

4外部的・客観的側面と内面的・主観的側面を犯罪の成立要件へと編成する
 外部的・客観的側面→行為の権利侵害性(違法)
 内面的・主観的側面→その意思の非難可能性(有責)
 犯罪の本質としての違法と責任 行為の違法類型性(構成要件該当性)と行為の有責類型性

5犯罪の認識・認定方法――「外部的・客観的側面」から「内面的・主観的側面」への移行
 犯罪の定義 「構成要件に該当する違法で、有責な行為」
 犯罪成立の「3要件」――構成要件該当性(違法類型性)、違法性、有責性
 ①行為が違法行為類型に該当→違法の推定→それを覆す違法阻却事由なし→②違法性の確定
 ③行為者の意思が有責類型に該当→有責性の推定→責任阻却事由なし→③有責性の確定(★)

(3)犯罪の阻却事由
1構成要件該当性(違法類型性)
 ある行為が刑罰法規が定める違法類型の要素の充足(構成要件該当性)→違法の推定

2違法性の阻却
 違法の推定を覆す事由の存在(違法阻却事由)
 刑法35条「法令行為・正当業務行為」 36条「正当防衛」 37条「緊急避難」
   その他 超法規的違法阻却事由としての「被害者の同意」など

3有責性とその阻却
 行為者の意思が有責類型の要素を充足(有責類型該当性)→故意または過失の推定
 故意または過失の有責性の推定を覆し事由の存在(責任阻却事由) 心神喪失など
 刑法39条「心神喪失・心神耗弱」 41条「刑事未成年」
   その他 超法規的責任阻却事由としての「適法行為の期待可能性の不存在」