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論文)RNAサイレンシングと側根形成

2011-02-07 22:30:51 | 読んだ論文備忘録

The bifunctional abiotic stress signalling regulator and endogenous RNA silencing suppressor FIERY1 is required for lateral root formation
Chen & Xiong  Plant Cell Environ. (2010) 33:2180-2190.
doi: 10.1111/j.1365-3040.2010.02218.x

シロイヌナズナFIERY1FRY1 )/SAL1 /HOS2 遺伝子は、イノシトール 1, 4, 5-三リン酸と3'-ホスホアデノシン-5'-リン酸(PAP)を異化する2つの機能を持った酵素をコードしている。FRY1 遺伝子座はストレス応答遺伝子の負の調節因子として同定され、RNAサイレンシングの抑制に関与していることが報告されている。サウジアラビア アブドラ国王大学Xiong らは、fry1 変異体芽生えは、野生型植物に比べて葉が湾曲して小さくなり、葉柄や胚軸が短く、草丈が低くなることを見出した。野生型植物の成熟したロゼット葉は細長い長円形をしているが、fry1 変異体のロゼット葉は丸みがあり、これは植物体の成熟期への移行が遅れていることが原因と思われる。また、fry1 変異体芽生えは側根の成長が非常に悪くなっていた。このような形態異常はオーキシンの変異体において見られる表現型と類似していることから、内生オーキシン量を調査したが、野生型と変異体で差は見られなかった。野生型芽生えにオーキシン処理をすると側根数が増加するが、fry1 変異体では側根数の増加は殆ど見られなかった。よって、fry1 変異体はオーキシン応答性が低下しているために側根形成能が低いものと思われる。オーキシン応答プロモーターDR5 によるGUS 遺伝子の発現を野生型植物とfry1 変異体で比較したところ、fry1 変異体はオーキシン処理によるGUS の発現誘導が非常に低いことがわかった。酵母のFRY1ホモログでPAP分解活性のみを有しているMET22fry1 変異体で発現させたところ側根形成能が回復した。よって、fry1 変異はPAP分解活性の低下が原因であると考えられる。PAPは硫黄同化経路の副産物で、閾値を越えると毒性を示して硫黄同化やRNAサイレンシングに関与しているエキソリボヌクレアーゼの活性を阻害することが知られている。シロイヌナズナにはXRN2、XRN3、XRN4の3種類のエキソリボヌクレアーゼが存在し、XRN3 ノックダウン個体やxrn2 xrn3 二重変異体は丸い葉、短い葉柄、花成の遅れといったfry1 変異体と似た表現型を示すことが報告されている。今回、xrn 各変異体についてIAAによる側根誘導を調査したところ、xrn4 変異体がfry1 変異体と同様にIAA非感受性となっていることがわかった。XRN4/EIN5は、エチレンシグナル伝達に関与する転写因子EIN3をターゲットとしているF-boxタンパク質をコードするEFB1EFB2 の発現を負に制御していることが知られている。よって、fry1 変異体においてPAPが蓄積してXRN4が阻害されればエチレン非感受性となることが推測される。fry1 変異体のエチレン感受性をエチレン(ACC)処理による芽生え胚軸の伸長阻害と茎頂フック形成を調査したところ、fry1 変異体はエチレン非感受性であることがわかった。fry1 efb1fry1 efb2 二重変異体はfry1 単独変異体に比べて胚軸伸長阻害に関してエチレン応答性が増していたが、オーキシンによる側根形成誘導に関してはfry1 単独変異体と同等であった。以上の結果から、fry1 変異体における側根形成阻害はエチレン応答性の変化によるものではなく、XRN4を介したRNAサイレンシングが関与していると考えられる。

Genetic interaction of two abscisic acid signaling regulators, HY5 and FIERY1, in mediating lateral root formation
Chen & Xiong  Plant Signaling & Behavior (2011) 6(1).

fry1 変異体は低温ストレス、塩ストレス、アブシジン酸(ABA)、光刺激に対する感受性が高い。光シグナル伝達に関与しているELONGATED HYPOCOTYL 5(HY5)はABAシグナル伝達や側根形成にも関与していることが知られていることから、fry1 hy5 二重変異体芽生えの形態を観察したところ、二重変異体ではfry1 単独変異体で見られる胚軸伸長抑制や側根形成阻害が弱まっていることがわかった。ただし、葉の形態に関しては変化は見られなかった。xrn2 xrn3 二重変異体芽生えはfry1 変異体の表現型の1つである光感受性が高くなって胚軸が短くなる特徴を示し、xrn4 変異体は側根形成が抑制される。よって、HY5はFRI1の下流において作用して、XRN2/XRN3を介した光シグナル伝達とXRN4を介した側根形成制御の両者を統合していると考えられる。

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