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論文)糖シグナルを拮抗的に制御する2つのMYB転写因子

2017-03-13 22:12:38 | 読んだ論文備忘録

Two MYB-related transcription factors play opposite roles in sugar signaling in Arabidopsis
Chen et al. Plant Molecular Biology (2017) 93:299-311.

DOI: 10.1007/s11103-016-0562-8

植物では様々な遺伝子が糖シグナルによる発現制御を受けている。イネのR1/2-type MYB転写因子 OsMYBS1は、α-アミラーゼの糖による発現制御に関与していることが知られている。台湾 国立中央大学Lu らは、シロイヌナズナのOsMYBS1ホモログのMYBS1(At1g49010)とMYBS2(At5g08520)について糖シグナルとの関係を調査した。MYBS1とMYBS2はR-R-type MYB転写因子に分類される。MYBS1 は、芽生え、ロゼット葉、茎生葉、花芽、花、長角果で発現しており、MYBS2 は植物体全体で恒常的に発現していた。また、MYBS1、MYBS2は共に核に局在していた。OsMYBS1はイネαAmy3 遺伝子プロモーター領域内にある糖応答エレメントのTA-box(TATCCA)に結合して転写を活性化する。TA-boxを含んだ合成プロモーターによるレポーター遺伝子(Luc )の発現解析から、MYBS1、MYBS2ともにTA-boxを含むプロモーターを活性化させることが確認された。種子を1%グルコースもしくは1%マンニトールを含む培地で発芽させ、遺伝子発現量を比較したところ、MYBS1MYBS2 ともにグルコース添加培地での発現量がマンニトール培地での発現量よりも高くなっていた。したがって、MYBS1MYBS2 の発現は糖による制御を受けていると考えられる。T-DNA挿入mybs1 およびmybs2 変異体は、通常生育条件では表現型が野生型と同等であった。そこで、これらの変異体の糖応答性を見たところ、4%グルコース添加培地での発芽率がmybs1 変異体は野生型よりも低くなり、芽生えの成長遅延も見られたが、mybs2 変異体の発芽率は野生型よりも高くなっていた。そして、mybs1 mybs2 二重変異体の発芽率は野生型と同等であった。これらの結果から、mybs1 変異体はグルコースに対する感受性が高く、mybs2 変異体は感受性が低いことが示唆され、MYBS1とMYBS2は糖シグナル伝達経路において対立した機能があると考えられる。糖は光合成、炭素代謝、窒素代謝、二次代謝に関与する様々な遺伝子の転写を制御している。4%グルコース培地で育成したmybs1 変異体芽生えは、ヘキソキナーゼ1をコードするHXK1 、ADP-Glcピロフォスフォリラーゼ大サブユニットをコードするAPL3 、カルコンシンターゼをコードするCHS 、β-アミラーゼをコードするBAMY3 スクロースシンターゼ1をコードするSUS1 の発現量が野生型よりも高く、mybs2 変異体ではこれらの遺伝子の発現量が野生型よりも低くなっていた。また、クロロフィルa/b結合タンパク質をコードするCAB1 、アスパラギン合成酵素1をコードするASN1 の発現量はmybs1 変異体で低く、mybs2 変異体で高くなっていた。グルコースシグナルはアブシジン酸(ABA)シグナルと関連していることが知られている。そこで、ABA添加培地での発芽率を見たところ、mybs1 変異体の発芽率は野生型よりも低く、mybs2 変異体は高くなっており、両変異体はABAに対する応答性が変化していた。野生型植物の4%グルコース添加培地での発芽遅延は、ABA合成阻害剤のフルリドンを添加することによって回復し、mybs1 変異体でも回復が見られた。したがって、mybs1 変異体はグルコース高感受性はABAの過剰生産による可能性がある。一方、mybs2 変異体ではフルリドン添加による高グルコース濃度培地での発芽率の変化は見られなかった。4%グルコース添加培地で発芽させたmybs1 変異体芽生えは、ABA生合成酵素をコードするABA1NCED3AAO3 の発現量が野生型よりも高くなっており、mybs2 変異体では低くなっていた。したがって、グルコースが誘導するABA生合成において、MYBS1はABA1NCED3AAO3 の発現を負に制御し、MYBS2は正に制御していることが示唆される。また、ABAによって発現誘導されABAシグナル伝達に関与するABI3ABI4ABI5 の発現量もmybs1 変異体で高く、mybs2 変異体で低くなっていた。以上の結果から、MYBS1とMYBS2はシロイヌナズナの種子発芽や芽生えの成長過程におけるグルコースおよびABAシグナル伝達において拮抗的に作用し、MYBS1は負の制御因子、MYBS2は正の制御因子として機能していると考えられる。

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