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論文)圧縮土壌によるイネ冠根発達の促進

2024-09-02 11:31:56 | 読んだ論文備忘録

The OsEIL1–OsWOX11 transcription factor module controls rice crown root development in response to soil compaction
Li et al.  Plant Cell (2024) 36:2393-2409.

doi:10.1093/plcell/koae083

圧縮土壌は、物理的抵抗や土壌通気性の低下をもたらし、根の生長を抑制する。中国農業科学院 バイオテクノロジー研究所のQinらは、圧縮土壌がイネの冠根の発達に及ぼす影響を調べるため、圧縮土壌を模して、濃度の異なる寒天上でイネ幼苗を栽培して根を観察した。その結果、寒天濃度が高くなるにつれて茎の下位節での冠根原基の発生が刺激され、冠根数が増加していくことが判った。圧縮土壌は、エチレン生産を刺激し、エチレンの土壌への拡散を抑制することが知られており、寒天濃度が高くなるにつれて根でのエチレン応答遺伝子の発現量とエチレン生産量が増加した。また、エチレン処理によってエチレンシグナル伝達に関与しているEIN3-LIKE 1(OsEIL1)タンパク質の蓄積量が増加した。OsEIL1タンパク質の蓄積量は、寒天濃度が高くなることによっても増加した。エチレンシグナル伝達が機能喪失したein2 変異体、eil1 変異体は、エチレン非存在下において、野生型植物(品種:日本晴、Nip)に比べて冠根数が少なかったが、OsEIN2OsEIL1 を過剰発現させた系統(EIN2-OXEIL1-OX)は、Nipに比べて冠根数が増加した。エチレン処理によってNipの冠根数は有意に増加したが、ein2 変異体、eil1 変異体でのこの効果は低下していた。ein2 変異体、eil1 変異体では、茎基部での冠根形成がNipに比べて大幅に遅れており、EIN2-OX 系統、EIL1-OX 系統の冠根原基は、Nipに比べてかなり早く形成され、急速に生長した。エチレン処理をすることで、Nipでは冠根原基の発達がかなり促進されたが、この効果はein2 変異体、eil1 変異体では低下していた。硬い寒天(1.0 %)は、Nipの冠根数を有意に増加させたが、この効果はein2 変異体、eil1 変異体では弱かった。これらの結果から、エチレンは圧縮土壌に応答した冠根の発達に必須であり、圧縮土壌はエチレンシグナル伝達経路に依存して冠根の発達を刺激していると考えられる。エチレンによる冠根発達促進の分子機構を理解するために、トランスクリプトーム解析を行なったところ、エチレン処理の有無で発現量が変化する遺伝子が、Nipで1345遺伝子、ein2 変異体で783遺伝子見出された。そしてNipで発現量が変化する遺伝子の95 %(1281遺伝子)はEIN2による制御を受けていた。その中には様々な生物過程に関与する遺伝子が見られ、根の発達に関与する遺伝子としてはOsCTR2OsRR1OsWOX11 の3遺伝子が含まれていた。このうち、OsWOX11 は、サイトカイニンのシグナル伝達やホメオスタシスを直接制御することで冠根の発達を調節していることが報告されている。OsWOX11 はエチレン処理をしたNipで発現が上昇するが、ein2 変異体ではそのような変化は見られなかった。OsWOX11 の過剰発現系統(OsWOX11-OX)は冠根数が増加し、機能喪失変異体(oswox11)では減少していた。OsWOX11-OX 系統をエチレン処理することで冠根数が増加したが、この効果は野生型植物とOsWOX11-OX 系統の間で同程度であったことから、冠根の発達におけるエチレンの刺激は、単にOsWOX11 の転写増加によるものではなく、他の調節因子あるいは他の下流遺伝子も関与していることが示唆される。一方、oswox11 変異体の冠根数はエチレン処理によって変化しなかったことから、エチレン刺激による冠根の発達にはOsWOX11が必要であると考えられる。OsWOX11-OX 系統の冠根原基は野生型植物よりも急速に成長したが、oswox11 変異体では冠根原基の形成が遅れた。エチレン処理をすると、OsWOX11-OX 系統では冠根原基の発生と発達が大幅に誘導されたが、oswox11 変異体の冠根原基はエチレン処理に反応しなかった。これらの結果から、OsWOX11は冠根の発達に重要な役割を果たしており、冠根の発達に対するエチレンの影響は、OsWOX11を介する経路を含む複数の経路を通じて起こると考えられる。圧縮土壌による根冠原基の発達や根冠数の増加は、oswox11 変異体では弱くなっており、OsWOX11 を介した経路は圧縮土壌による根冠発達促進に関与していることが示唆される。エチレン処理は、NipでのOsWOX11 転写物量を増加させるが、この効果はein2 変異体、eil1 変異体では大きく減少した。エチレン非存在下でのOsWOX11 の発現は、Nipと比較して、ein2 変異体、eil1 変異体で有意に低く、EIN2-OX 系統、EIL1-OX 系統では高かった。これらの結果から、エチレンはエチレンシグナル伝達経路を介してOsWOX11 の発現を活性化していると考えられる。OsWOX11は、根冠発達の際にOsRR2OsCKX4 に直接結合して発現を制御していることが知られている。エチレン処理により、NipではOsRR2 の発現が抑制され、OsCKX4 の発現が誘導されたが、この効果はein2 変異体、eil1 変異体では弱まった。また、OsRR2 の発現は、Nipと比較してein2 変異体、eil1 変異体で有意に高かったが、EIN2-OX 系統、EIL1-OX 系統では低かった。一方、OsCKX4 の発現は、ein2 変異体、eil1 変異体では有意に減少したが、EIN2-OX 系統、EIL1-OX 系統では増加した。oswox11 変異体では、エチレン処理によるOsRR2 の発現抑制とOsCKX4 の発現誘導が弱まっていた。これらの結果から、エチレンを介したOsWOX11 の発現上昇がOsCKX4 の発現上昇とOsRR2 発現抑制に関与しており、OsWOX11を介した経路がエチレン制御による冠根の発達に関与していることが示唆される。OsWOX11 遺伝子プロモーター領域にはOsEIL1結合部位(ATGTA/TACAT)と推定される配列が13個あり、解析の結果、OsEIL1はOsWOX11 遺伝子プロモーター領域に直接結合して発現を活性化することが確認された。eil1 oswox11 二重変異体の冠根数はoswox11 変異体と同程度であり、Nipおよびeil1 変異体よりも有意に少なかった。さらに、エチレン刺激による冠根数の増加は、eil1 oswox11 二重変異体では完全に消失した。eil1 oswox11 二重変異体では、冠根原基の発達が著しく遅れており、エチレン処理によって冠根原基の発生と発達が促進されることはなかった。oswox11 EIL1-OX 系統の冠根数と冠根原基は、エチレン処理の有無にかかわらず、oswox11 変異体と類似していた。これらの結果から、OsWOX11 はエチレンシグナル伝達経路の下流で働き、OsEIL1シグナル伝達を介したエチレン刺激による冠根の発達と粒径の制御に必要であることが示唆される。圧縮土壌は、NipのOsWOX11 転写産物量を増加させたが、この効果はein2 変異体、eil1 変異体では弱かった。また、ein2 変異体、eil1 変異体、eil1 oswox11 二重変異体、oswox11 EIL1-OX 系統では圧縮土壌による冠根数の増加が弱くなっていた。これらの結果から、圧縮土壌はOsEIL1-OsWOX11モジュールを介して冠根の発達を刺激していることが示唆される。以上の結果から、エチレンは圧縮土壌に応答した冠根発達の重要な制御因子であり、OsEIL1がOsWOX11 の発現を活性化することによって冠根原基の開始と発達を促進していると考えられる。

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