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論文)光シグナルによる器官形成機構

2011-07-27 23:12:37 | 読んだ論文備忘録

Stem cell activation by light guides plant organogenesis
Yoshida et al.  Genes & Dev. 2011. 25:1439-1450.
doi: 10.1101/gad.631211

葉の誘導・成長が暗所において抑制される現象は古くから知られているが、その詳細な機構は明らかとなっていない。スイス ベルン大学Kuhlemeier らは、トマトを実験材料に用いて葉の誘導と光との関係を解析した。トマト芽生えは1日あたり1個の葉原基を形成するが、暗所では葉の誘導が抑制される。これが光形態形成応答によるものなのか光合成によるエネルギー生産の喪失によるものなのかを区別するために、切り取った茎頂をショ糖を含む培地で培養して同様の実験を行なった。培養茎頂は長日条件下で葉原基の誘導が継続して起こるが、暗所に移すと葉原基形成が遅延し、明所に戻すと芽生えの場合と同様に葉原基形成が再開された。培地に光合成阻害剤のノルフルラゾンを添加して培養し、白化した茎頂でも対照と同じように葉原基が形成された。したがって、光合成阻害が葉の誘導を阻害することはないと考えられる。テトラピロールクロモフォア合成が失われ光受容体フィトクロムが不完全なaureaau )変異体は、葉の形成される位置が不規則になり、分裂組織が小さくなって2つに分かれるといった異常を示し、葉原基形成数が野生型よりも少なくなっていた。よって、光シグナルは葉序形成に重要な役割を果たしていると考えられる。葉原基形成の光による制御がオーキシンの輸送や濃度勾配によってなされているか、オーキシン排出キャリアをコードするPIN1 の発現を調査したところ、明所で育成した芽生えの栄養成長している茎頂ではL1層、初期の葉原基、前形成層連絡において発現が見られ、暗所に移すとPIN1は徐々に細胞膜から消えて細胞内の液胞と思われる構造の中に観察されるようになった。これに伴い茎頂のオーキシン量も減少していった。よって、暗所での葉の誘導抑制はオーキシンシグナルの減少が関与していると考えられる。そこで、暗所で培養している茎頂にラノリンペーストのかたちでオーキシン(IAA)を与えてみたところ、既に形成されている葉原基の成長は促進されたが、新規な葉原基の誘導は起こらなかった。したがって、葉原基形成はオーキシンと光の2つの因子が必要であり、光シグナルは原基におけるオーキシン勾配形成関与していると考えられる。暗所で培養した茎頂の先端にサイトカイニン(ゼアチン)を与えたところ葉の誘導停止からの回復が観察された。よって、光による葉の誘導にサイトカイニンが関与していることが示唆される。茎頂をオーキシン輸送阻害剤のN -1-ナフチルフタラミン酸(NPA)を含む培地で育成すると葉の形成が阻害されてピン型の茎頂(NPA pin)となる。このNPA pinの茎頂先端にIAAラノリンペーストを与えると葉の形成が再開するが、この再開は暗所で育成したNPA pinでは起こらなかった。しかし、ゼアチンとIAAを混合したラノリンペーストを与えると暗所育成NPA pinの器官形成が誘導された。明所で培養したNPA pinは器官形成は誘導されないが茎頂先端の成長は起こる。暗所で培養したNPA pinは茎頂先端の成長が止まっており、IAAラノリンペーストを与えても成長は誘導されないが、サイトカイニンラノリンペーストを与えると先端部成長が誘導され、明所で培養したNPA pinと同じ形状になった。よって、サイトカイニンには光と同じ作用があると考えられる。暗所においてNPAを含まない培地で培養した茎頂にサイトカイニンを与えると茎頂先端の成長が起こらずに器官形成が誘導された。よって、サイトカイニンはオーキシン輸送活性があるときに葉の誘導を引き起こすと考えられる。オーキシンはサイトカイニンの有無に関わらず暗所においてNPA pinのPIN1 の発現とオーキシン量を増加させることから、暗所においてもオーキシンシグナルは伝達されるが、器官が誘導されるためにはサイトカイニンが必要であると考えられる。サイトカイニンは暗所で育成したNPA pinではPIN1 の発現とオーキシン量の増加は見られず、オーキシンシグナルは茎頂先端の成長には関与していないと考えられる。トマトの培養茎頂を用いて行なった実験と同様の処理をシロイヌナズナの花序分裂組織を用いて行なったところ、暗所では新たに形成される花原基数が減少するがサイトカイニン添加によって原基誘導が回復すること、pin1 変異体へのオーキシンの局所投与は明所においては器官形成を誘導させるが暗所では効果が見られないこと、オーキシンとサイトカイニンを同時に局所投与すると暗所でもpin1 変異体の器官形成を誘導することがわかった。サイトカイニンに応答するTCS プロモーターでGFP を発現させた形質転換シロイヌナズナにおいて、GFP蛍光は花序分裂組織や花分裂組織の中心部で見られるが、暗所に移すと蛍光が減少していった。よって、光はサイトカイニンシグナルを活性化することによって分裂組織の活性を制御していると考えられる。明所ではオーキシン生合成に関与しているTAA1 の発現が増加しており、茎頂でのオーキシン生合成には光が必要であることが示唆される。分裂組織幹細胞の維持に関与しているCLV/WUS経路関連遺伝子の発現を見たところ、暗所ではCLV1CLV3 の発現量が増加していたが、WUS の発現量には大きな変化は見られなかった。以上の結果から、光はサイトカイニンシグナルを活性化してCLV1CLV3 の発現を抑制し、さらにオーキシンのシグナル伝達、輸送、生合成を制御して器官形成を誘導するものと考えられる。

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