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論文)トレハロース-6-リン酸による花成制御

2013-03-17 18:29:04 | 読んだ論文備忘録

Regulation of Flowering by Trehalose-6-Phosphate Signaling in Arabidopsis thaliana
Wahl et al.  Science (2013) 339:704-707.
DOI: 10.1126/science.1230406

花成は様々な環境シグナルや内生シグナルによって制御されており、炭水化物も花成制御において重要な役割を演じていると考えられている。特にトレハロース-6-リン酸合成酵素1(TPS1)によって合成されるトレハロース-6-リン酸(T6P)は炭素シグナル分子として重要である。ドイツ マックス・プランク 分子植物生理学研究所のWahl ら、および発生細胞生物学研究所のSchmid らは、TPS1 の発現を人工マイクロRNAによってノックダウンすることで内生T6P量が減少したシロイヌナズナ(35S:amiR-TPS1 )は、花成遅延を起こすことを見出した。T6Pのシグナルが花成における日長シグナルと関連しているかを調査するために、内生T6P量の概日変化を見たところ、T6P量は明期の終わりに最大となり、これはCONSTANS(CO)によるFLOWERING LOCUS TFT )の発現誘導と一致していた。tps1-2 変異体(tps1-2 変異体は胚性致死となるので化学誘導GVG:TPS1 コンストラクトを導入してある)では、CO およびCO の上流に位置する調節因子のGIGANTEAGI )の発現パターンに変化は見られなかったが、FT およびTWIN SISTER OF FTTSF )の発現誘導が見られなくなっていた。よって、T6PのシグナルはFT およびTSF の発現に関与していると考えられる。ft-10 35S:amiR-TPS1 二重変異体の長日条件での花成は、ft-10 変異体よりもわずかに遅れが見られる程度であることから、2つの遺伝子は同じ経路で作用していると考えられる。 35S:amiR-TPS1 系統でFT を過剰発現させると花成遅延が抑制されることから、T6Pの経路はFT の上流で作用していることが示唆される。ft-10 変異体の花成遅延は花成が誘導される長日条件下でのみ起こるが、tps1-2 GVG:TPS1 変異体の花成遅延は日長条件に関係なく起こった。したがって、T6P経路は日長以外の花成誘導シグナルも抑制しており、日長変化を感応している葉とは別の組織において機能していると考えられる。そのような組織は茎頂分裂組織(SAM)である可能性が高いことから、in situ ハイブリダイゼーションでSAMでのTPS1 の発現を見たところ、SAMの中心部を取り巻くように分裂組織側面での発現が見られた。また、SAMのT6P含量も花成誘導の間に増加し、T6P含量とショ糖含量の間に正の相関があることがわかった。TPS1 を幹細胞周辺で特異的に発現するCLV3 プロモーター制御下で発現させたシロイヌナズナ(CLV3:TPS1 )は長日条件でも短日条件でも花成が促進され、大腸菌由来のT6P分解酵素トレハロース-6-リン酸フォスファターゼotsBCLV3 プロモーター制御下で発現させたシロイヌナズナ(CLV3:otsB )は逆に花成遅延を起こした。また、ft-10 変異体でCLV3:TPS1 を発現させると、花成遅延が抑制された。したがって、T6P経路は、FT とは独立して、分裂組織において花成を誘導していることが示唆される。SAMにおけるT6P経路のターゲットを同定するためにマイクロアレイ解析を行なったところ、tps1-2 GVG:TPS1 変異体では植物の齢に応じて花成を誘導するSQUAMOSA PROMOTER BINDING PROTEIN-LIKE 3SPL3 )の発現量が低下していた。SPL 遺伝子(SPL3SPL4SPL5 )の転写産物量はmiR156によって制御されており、tps1-2 GVG:TPS1 変異体では成熟miR156量が野生型よりも多くなっていた。植物の齢が進むにつれてtps1-2 GVG:TPS1 変異体でも野生型植物でもmiR156量は減少し、SPL 転写産物量が増加していったが、tps1-2 GVG:TPS1 変異体でのSPL 転写産物の増加は緩やかであった。したがって、T6P経路はSAMでのSPL 遺伝子の発現を一部はmiR156を介して制御していることが示唆される。miR156を恒常的に発現させると花成遅延を起こすが、そこでさらにTPS1 の発現を抑制(35S:amiR-TPS1 )すると相加的に花成が遅延した。また、MIM156 を恒常的に発現させてmiR156量を減少させると、tps1-2 GVG:TPS1 変異体の花成遅延が抑制された。したがって、miR156の経路は部分的にはT6Pの経路とは独立して作用していると考えられる。SPLタンパク質は、MADS-box転写因子をコードするSUPPRESSOR OF OVEREXPRESSION OF CONSTANS 1SOC1 )とFRUITIFULFUL )の発現を制御することでFT の発現を促進している。35S:amiR-TPS1 系統、tps1-2 GVG:TPS1 変異体ともにSOC1FUL の発現量に変化が見られないことから、T6P経路はmiR156-SPL経路とは主に独立してFT の発現を制御していると考えられる。

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