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論文)HY5の安定化による光形態形成の促進

2024-10-01 09:13:06 | 読んだ論文備忘録

Ubiquitin-specific protease UBP14 stabilizes HY5 by deubiquitination to promote photomorphogenesis in Arabidopsis thaliana
Fang et al.  PNAS (2024) 121:e2404883121

doi:10.1073/pnas.2404883121

bZIP型転写因子のELONGATED HYPOCOTYL5(HY5)は、芽生えの光形態形成において中心的な役割を担っている。シロイヌナズナでは、暗所から明所への移行後にHY5が蓄積し、光形態形成を促進することがよく知られている。しかしながら、光照射下でHY5の蓄積を促進する因子が何であるかは不明である。中国 四川大学Linらは、HY5タンパク質の安定性を向上させる因子を探索することを目的に、HY5をベイトとして酵母two-hybridスクリーニングを行ない、HY5は脱ユビキチン化酵素(DUB)のUb-SPECIFIC PROTEASE 14(UBP14)と相互作用することを見出した。各種解析の結果、HY5はUBP14と生体内において物理的相互作用を示し、他のUBPとは相互作用をしないことが確認された。in vitro 実験系において、UBP14はポリユビキチン化されたHY5からユビキチンを除去しうることが判った。UBP14の機能が欠損したda3-1 変異体では野生型植物よりもHY5のユビキチン化の程度が高く、UBP14 を35Sプロモーター制御下で過剰発現させた系統(UBP14-OE)では低くなっていた。また、UBP14-OE 系統ではHY5の安定性が高く、da3-1 変異体ではHY5の分解が促進され、この分解促進はプロテアソーム阻害剤のMG132処理によって阻害された。これらの結果から、UBP14はプロテアソーム分解経路を通してHY5の安定性を制御していると考えられる。長日条件下で育成したda3-1 変異体およびHY5 を過剰発現させたda3-1 変異体(da3-1 HY5-OE)の芽生えの胚軸は野生型植物よりも長かったが、da3-1 HY5-OE 系統の胚軸はda3-1 変異体よりも短かった。また、HY5-OE 系統、UBP14-OE 系統芽生えの胚軸の長さは野生型植物と同程度であり、da3-1 hy5 二重変異体、hy5 変異体、hy5 UBP14-OE 系統の胚軸長に有意差はなかった。短日条件下では、da3-1 変異体の胚軸長は野生型植物の約2倍であったが、暗条件下では両者の胚軸長に有意な差は見られなかった。このことから、UBP14は暗形態形成にはほとんど関与していないと思われる。これらの結果から、HY5 はUBP14の下流で作用する遺伝子であり、UBP14が光条件下でHY5を制御することによって胚軸伸長の抑制を促進していると考えられる。興味深いことに、da3-1 hy5 二重変異体は白色、青色、赤色光照射下でhy5 変異体よりも胚軸が長くなり、hy5 UBP14-OE 系統の胚軸は赤色光照射下でhy5 変異体よりも短かくなった。よって、UBP14は光照射下でHY5以外の光形態形成因子も制御している可能性がある。da3-1 変異体では暗所から明所へ移行した際のHY5の急速な蓄積が見られず、ユビキチン化されたHY5の減少が緩やかだった。逆に、UBP14-OE 系統では暗所から明所へ移行した際のユビキチン化されたHY5の減少が促進された。したがって、光照射はUBP14によるHY5の脱ユビキチン化を促進していることが示唆される。非リン酸化型HY5は、リン酸化型HY5に比べ、ターゲット遺伝子の発現制御活性が高い。解析の結果、UBP14は非リン酸化型HY5に対する親和性がリン酸化型HY5よりも高いことが判った。非リン酸化HY5は光照射下で通常の速度で蓄積したが、リン酸化HY5の蓄積はゆっくりとしていた。さらに、da3-1 変異体では非リン酸化HY5もリン酸化HY5も光照射による蓄積がさらに緩やかになった。また、光照射後のHY5のユビキチン化の程度は、非リン酸化型HY5よりもリン酸化型HY5で高くなっていた。したがって、UBP14は光照射下で非リン酸化型HY5を安定化させ、光形態形成を促進していると考えられる。HY5とUBP14は光照射後に徐々に蓄積量が増加し、暗処理によって減少した。HY5UBP14 の発現量は光照射によって増加し、HY5 発現量は暗処理によって減少したが、UPB14 転写産物量は変化が見られなかった。野生型植物と比較して、UBP14 の転写産物量はHY5-OE 系統で高かったが、hy5 変異体では低かった。HY5-OE 系統では、光照射によってUBP14 の発現が野生型植物よりもより急激に上昇したが、hy5 変異体では光照射はUBP14 の発現にほとんど影響していなかった。UPB14 遺伝子プロモーター領域にはG-boxモチーフが2つあり、HY5が結合することが確認された。よって、HY5は、正のフィードバック制御によって光照射下でのUBP14 の発現と安定的な蓄積を促進していると考えられる。以上の結果から、暗所から明所への移行すると、UBP14タンパク質がポリユビキチン化したHY5からユビキチンを切断することでHY5の安定性を高め、光形態形成を促進していると考えられる。同時に、HY5はUBP14 の発現を活性化し、正のフィードバックによりUBP14タンパク質蓄積を促進している。

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