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論文)サイトカイニン応答因子によるPIN遺伝子発現制御

2016-01-18 05:51:03 | 読んだ論文備忘録

Cytokinin response factors regulate PIN-FORMED auxin transporters
Šimášková et al.  Nature Communications (2015) 6:8717.

doi:10.1038/ncomms9717

サイトカイニンはオーキシン輸送に関与している構成要素の発現を調節することで細胞間オーキシン輸送に影響を及ぼしている。しかしながら、その詳細な機構は明らかとなっていない。オーストリア科学技術研究所(IST)Benkova らは、プロモーター欠失解析からPIN-FORMED 7 PIN7 )遺伝子のATG開始コドンから1423~1223 bp上流の200 bpのエレメント(PCRE7 )がサイトカイニンによる転写制御に関与していることを見出した。PCRE7 を欠いたPIN7ΔPIN7 )プロモーターは、根の中心柱細胞や側根原基での発現においてサイトカイニンに対する感受性が低下しており、前形成層やコルメラ細胞での通常時の発現活性も低下していた。正常なPIN7 プロモーター制御下でPIN7 を発現させたpin7 変異体とΔPIN7 プロモーター制御下でPIN7 を発現させたpin7 変異体の発芽7日後の芽生えの根の成長に差は見られないが、14日後になるとΔPIN7 プロモーター制御下で発現させた個体の根の方が長くなり、サイトカイニンによる根の伸長抑制、分裂組織の成長抑制、側根形成抑制が低下していた。したがって、PCRE7 を介したサイトカイニンによるPIN7 の発現制御は、適切な根の成長・発達にとって重要であることが示唆される。酵母one-hybridスクリーニングから、AP2/ERF型転写因子でサイトカイニンによって誘導されることが知られているサイトカイニン応答因子(CRF)のCRF2、CRF3、CRF6がPCRE7 と相互作用をする因子として選抜された。また、一過的発現試験から、CRF2とCRF6はPIN7 の発現を活性化することが確認された。CRF3はPIN7 の発現を活性化しなかったが、CRF3とCRF6を同時に発現させるとCRF6による発現活性化が抑制された。CRFsによるΔPIN7 プロモーターの発現活性化はほとんど見られないことから、CRFsはPIN7 遺伝子のプロモーター領域の特異的ドメインと相互作用をすることでPIN7 の転写調節をしていると考えられる。PIN1 遺伝子についてもPIN7 遺伝子と同様の試験を行ない、プロモーター領域にサイトカインによる発現制御に関与しているエレメントPCRE1 が見出され、この領域とCER2、CRF6が相互作用をして発現を活性化することが確認された。したがって、PIN1PIN7 はサイトカイニンにより発現制御される共通の機構を有していることが示唆される。PCRE1PCRE7 はAP2/ERFファミリー転写因子が結合するとされるGCC ボックスを含んでいないが、PCRE1PCRE7 内の特定のモチーフとCRF2、CRF6が相互作用をすることが確認された。CRF2CRF6 を過剰発現させることで前形成層でのPIN7 発現量が増加したが、CRF3 の過剰発現ではそのような変化は見られなかった。crf3 変異体、crf2crf3crf6 三重変異体ではPIN7 の発現が低下していたが、crf6 変異体では増加していた。同様に、CRF2 の過剰発現によってPIN1 の発現量が増加し、crf2crf3crf3crf6crf2crf3crf6 の各変異体でPIN1 の発現量が減少してcrf6 変異体では増加していた。これらの結果から、CRFsはPIN7 およびPIN1 の発現をそれぞれに特異的な機能によって調節していると考えられる。crf3crf6 変異体の根端のオーキシン含量は野生型よりも高くなっていた。crf2crf3crf3crf6 の各変異体の胚は異常な分裂により欠陥の見られるものが数多くあった。crf6 変異体は、PIN7 の発現量が高く、根が野生型よりも長く、根端分裂組織が大きなっていた。したがって、CRF活性の変化によって根端のオーキシン蓄積に変化が生じ、様々な形態変化が引き起こされていると考えられる。サイトカイニンは根の伸長、根端分裂組織の大きさ、側根の誘導・発達を抑制することが知られているが、CRFs の機能喪失も過剰発現も根の成長におけるサイトカイニンに対する応答性に大きな変化は見られなかった。しかし、crf3crf3crf6crf2crf3crf6 の各変異体、CRF2CRF3CRF6 の過剰発現個体では根端分裂組織のサイトカイニン応答性が低下していた。また、crf3crf3crf6crf2crf3crf6 の各変異体とCRF2CRF6 の過剰発現個体は側根の誘導・発達におけるサイトカイニン応答性が低下していた。これらの結果から、CRFsによるオーキシン輸送の調節はサイトカイニンとオーキシンによる根の成長・発達の微調整を行なっていると考えられる。

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