<2014・10・24 掲載>
辻親八(つじ・しんぱち。写真下)。
一般的知名度は、残念ながら、まだ低い。だが、知る人ぞ知る名優、と言い切っていい人物だ。
つい先日、東京は、ネオンきらめく、華の都、新宿で執り行われた、「椿組 2014年 秋公演」。その名も「一本刀土俵入り」で、主演し、熱演。
舞台のラストで、表題通り、土俵入りを見せた。
加えて、出演中の10月20日に、58歳の誕生日を、めでたく迎えたばかり。
私が、この名優を知ったのは、先に挙げた「椿組」の、毎夏恒例の「花園神社」での、大テント公演でだ。
そこでの演技を見てからのこと。当時すでに、彼は50歳を過ぎていた。
いかにも、一見して、かつて一世を風靡(ふうび)した、アングラ芝居の波風を浴びて、体感してきたベテラン風。
演ずる役は、見た目からきたものか、地回りとも言うべき、小さな組の親分的な役へ振られることが多かった。
他人を脅かす。が、一転、なだめすかす。時に、ずる賢く懐柔し、時にすごみ、時に、意表を突いたアドリブで笑わせ、時に本音をのぞかせ、人間の裏側に潜む、理屈で割り切れない、ぶざまな心の弱さもサラリと見せる。
喜・怒・哀・楽を、瞬時に魅せる。その上、千変万化。
いやあ、上手い!
並みいる役者群のなかで、ひときわキラキラ輝いていた。
経歴等をながめると、生まれは宮城県の女川(おながわ)????・・・らしい。
大学は、中央大學法学部の中退とネット上。
応援団員でも、あったらしい。今のつぶれた声は、練習によって、つちかわれたモノか。
この近年、輝ける應援團長が、歴代、女子が勤めていることは、ご存じであろうか・・・・・
私の駄文を見たら、すすり泣くやも知れぬ。
その後、文学座研究所に入り、役者の道を歩んできた。
住まいも、千葉、小田原と、いずれも海の近く。
海が俺を呼んでるのさ!と、言ったとか、言わないとか。
先の、最新出演作「一本刀土俵入り」。
その名を見て、長谷川伸の名作を思い出された方は、かなりの芝居好き。もしくは、故・三波春夫のファンか。
が、この日、見せられた芝居は、ソレに「ゴドーを待ちながら」プラス「瞼(まぶた)の母」。さらに、「鉄腕アトム」登場という、もう、ハチャメチャ、ごった煮。
戦後、復員。その元日本兵が、とある優しい娼婦に受けた恩義が、忘れられず、25年後、葛飾区立石のトルコ風呂へと、踏み入る。
すでに大企業の部長となっていた彼の、いでたちは、ダークスーツに身を包んだ、中年のサラリーマン。
ぶ厚いレンズのメガネを掛け、バッグを手に下げ、遊郭を訪ね歩いて、かつて情をかけてもらった女郎を捜した挙句の果て、葛飾の立石にたどり着いたばかり。
そのまま、芝居小屋を出て、新宿駅ホームの雑踏にまぎれても、何の違和感も無い風情さえ漂う。
昨年まで、近くに取材先があったため、立石には何度か通った。駅前の、いかにも猥雑さ香る、長屋連なる「淫食街」。
2階が、住まいにもなっている。そこに、汗と精液が染み込んだ座布団敷いて、ぎっこんばったんの、上下運動・・・・・。有っても、不思議はない、昭和を残す一角。
舞台に現れた辻親八。
姐さんとなった、かつての女郎相手に、次第次第に、セリフが熱を帯び始める。
さながら、熱情あふるるタンカ売(ばい)!
流れるような、粋で、イキの良い七五調!
強と弱。動と静。絶妙の間。強気と、弱気。切なさ、やりきれなさ。浮かび上がる、男の歩んだ道。
身をよじる、辻親八。汗が、吹き出て、流れ落ちる。
ほとばしり出る感情の固まりを、女郎に、観客にぶつける!
それも、千変万化。ひらりひらりと、人格を変えて、宙を舞う!
いやあ・・・・・・・もう・・・・・なんちゅうか、かんちゅうか・・・・
すんごい役者を見た。改めて、想った。このヒト、すごい!と。
熱い想いに浮かされて、写真をば、パチリ、ぱちり(上記掲載)。
聞いた。
ーーー独り芝居を、演(や)られたことは、無いんですか?
「いや、まだ無いんですよ。ただ、朗読劇は、やってます。渋谷はるかさんという女優と。今月10月の末から、広島でやるんですよ」
ーーーえっ! 朗読劇ですか? 何と言う題材で?
「井上ひさしの、「父と暮せば」というものです」
---ああ、あの!
あの、と言ったのは、良く知られた作品だから。
一番知名度があるのは、映画版であろう。監督は、故・黒木和雄。父を演じたのは、これまた惜しくも他界してしまった原田芳雄。娘役に、宮沢りえ。
しばしば、テレビで放映されているので、見た方もいるに違いない。
が、私は、偶然に近く、超遅筆でなる故・井上ひさしが率いた「こまつ座」が舞台化したこの作品を観ていた。
父は、故・すまけい。娘には、梅沢昌代。
これは、素晴らしい出来栄えだった。すまけいが、上手いのは当然だが、私にとって無名だった梅沢昌代。
今、検索してみると、当時で、すでに41歳! しかし、老け顔にも関わらず、婚姻前の若い娘が、ピタリとはまり、その上、広島弁と、その女性が歩んだ人生が、もはや血肉となって、自分のモノにしていた。
この舞台が評価され、その年の「読売演劇大賞 優秀女優賞」を受賞。当然だと、思った。
テレビや映画では、脇役に甘んじているので、誰だろう? と疑問に思う方は、その顔写真を検索して見て欲しい。ああ、このヒト、見たことある!と、気付くはず。
なもんで、宮沢りえ。広島弁が、セリフで止まっている程度の演技力だった。素顔も、男っぽく、プライドだけは、クソ高い。女優の名の「女」の「優」しさは、カケラも無い、性別だけは、女。
舞台化では、辻萬長(かずなが)と、栗田桃子のものも見た。
栗田は、故・蟹江敬三の娘。そこいら辺の舞台女優としては、なかなかの演技力だったが、いかんせん、梅沢昌代というてっぺんを見てしまったもんで・・・・・・。
ちなみに、てっぺん。彼女も、朗読劇をやっているそうな。う~ん・・・。
で、回り道してしまったが、これから始まる、辻親八と、渋谷はるかの「朗読劇」の「父と暮せば」。
公演日程を書きます。
10月31日(金) 広島県三次市(みよしし)にある「十日市きんさいセンター」(十日市コミュニティセンター 2階講座室)で、19時開場。19時半開演。
場所は、三次市十日町南1丁目2-18。三好駅を出て、徒歩4分にある。
問い合わせ先は、瀬山洋子さんあて。
料金は、2000円。高校生以下は、1000円。前売り・当日共、同じ。全席・自由席。
以降、料金、自由席は同じです。
翌11月1日(土)は、広島市西区横川町3-12-3 アンゴラビル3階にある、「山小屋シアター」で、2回公演。
1回目は、13時半開場。14時開演。
2回目は、18時半開場。19時開演。
場所は、JR横川駅より、徒歩2分。
問い合わせ先は、「子供コミュニティーネット広島」
☎ 082-231-8015
そして、最終日は、
11月2日(日)、広島市中区薬研堀2-13 「LIVE CAFE JIVE」で、18時半開場。19時開演。
問い合わせ先は、
☎ 082-246-2949
市電の、「八丁堀」、もしくは「銀山町」停留所から、徒歩5分。
上演・朗読時間は、先の上演記事や、渋谷はるかの、たま~に載るブログを見ると、約80分。1時間20分程度・・・・のようです。
父役の、辻親八。舞台俳優としての力量を、ここまで書いてきたが、実はお恥ずかしいハナシ、検索してみて、初めて知ったのだが、アニメを中心とした「声優」として、とてもココに書き切れないほどの有名作品に出演していた。
加えて、洋画の吹き替え。テレビや映画への出演も、数多い。
が、私が彼の力量をさらに確認するカタチになったのは、朗読劇につながる「ラジオ ドラマ」での、声のリアリティと、存在感だ。
偶然聴いたのは、「NHK FMシアター」の「父の代理人」と、「瑞穂(みずほ)のくに」。
特に、「瑞穂のくに」は、「猫の目行政」と言われてるのに、まったく反省しない、日本の米作りに対する「脳足りん省」の愚政策に対して、鋭い刃を突きつける娯楽作として、素晴らしい完成度だった。
皮肉にも、「平成25年度 文化庁 芸術祭優秀賞」という、オカミの賞をもらうことに。
あの実力をもってすれば、この「父と暮せば」の舞台地である、広島での公演も、違和感なく乗り切って、拍手をもらえるであろうと、想像出来る。
この物語。すでに、映画や舞台を見た人は、ご存じだろうが、これから見たい、聴きたい人のために、サラリとしたためて置く。
設定は、原爆が落とされて3年後の、広島。
自らも被爆し、いつ命を亡くすかと、秘かに怯えつつ、図書館勤めをしている娘のもとに、あの日、被爆して、命を落としたはずの父が、幻となって現れ、会話を続ける。
そんな娘に、娘を秘かに恋慕っている男がいることを知った父は・・・・・
てな、ストーリーの軸だったと、記憶している。
娘役の、渋谷はるか。
初めて聞く名前だった。
検索してみると、文学座所属の、32歳。舞台歴、12年。
舞台のほかに、辻親八と同様、アニメや吹き替えもこなしてきたようだ。彼女の出演舞台は、失礼ながら、1本も見ていない。
神奈川県出身。
すでに、4月25日から3日間。新宿で、客席数30のスペースで、この「父と暮せば」の朗読劇を体験済み。
本場、広島県人の方言反応は、どう出るか?
怖くも有り、楽しみでもある、と言うところか。
ひとつ引っ掛かったのが、プロフィールの中での、今作品表記。
「父と暮らせば」と。
う~ん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ト書きを読む役で、青年劇場の、昆野(こんの)美和子。舞台中心で、年齢、辻親八より4つ上。
方言指導もしてきた人だけに、大丈夫であろう。
演出は、藤井ごう。
役者としてより、演出歴が長い、40歳。どんな力量の持ち主なのかは、わからない。
とはいえ、辻親八。
だまされたつもりで、彼の声の演技力を、存分に堪能して欲しい。
ともかく、すんごいんだからさあ!
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ぎりぎりで、この「父と暮せば」の、東京近郊での公演の知らせが、届いた。
本日、1月16日、千葉県の市川市にある「市川市中央図書館 2階」にある「市川市グリーンスタジオ」で、午後0時半と、午後3時半の2回、公演される。
料金は、一般1500円。中高生と障害者は、1000円とのこと。
主催は、「市川で、よい芝居をみる会」ということです。
関心、興味のある方は、是非行ってみてください
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1月17日(日)には、なんと辻親八こと、小谷慎一の産まれ育った千葉県館山市でも、「父と暮せば」の朗読劇をおこなう。
出た高校も、地元「安房(あわ)高校」だと、のちに判明。
会場は、館山市北条にある「県南総文化センター」。開演は、午後2時。
公演時間は、約1時間半。
料金は、1500円。高校生以下は、1000円。障害者は、無料。
それにしても、辻当人は、1年3か月前に書いた記事を、はたして読んでいたのであろうか?
書きました、と連絡は入れた。だが、その後、いまだ何一つ、連絡も、感想どころか、一報も無いままだった。
宮城県の女川の出身ではありませんよ、との訂正の言葉や、連絡も皆無。
なので、市川の会場で直接聞いた。
「えっ!? ああ、読みましたよ」
あとにも先にも、それだけ・・・・・・。
そういうヒトであった・・・・・・・・・・。
舞台役者に、男女ともに、この手合いは実に多い。演劇の観客動員数が他の娯楽に比べて極めて少なく、且つ、長く伸び悩んだままの現状は、こうゆう事も一因になっている。
とはいえ、娘役の渋谷はるか(下の写真の、左側)の力量と、その実力は想像以上だった。
カンペキに、役を自分のモノにしていたうえ、広島弁のイントネーションも、リアルで自然。
知名度は低いが、今後に期待出来る、舞台女優といえる。