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佐藤春夫(1892 - 1964)「病(ヤマイ)」(1912年、20歳):大逆事件の翌年の詩

2016-10-07 10:30:11 | 日記
  病(ヤマイ)
生まれし国を恥づること。
古(フル)びし恋をなげくこと。
否定をいたくこのむこと。
あまりにわれを知れること。
盃とれば酔ざめの 
悲しさをまづ思ふこと。

《感想》
①詩人19歳の時、大逆事件(1911年)が起きる。明治天皇殺害を計画したとして幸徳秋水ら26名が、刑法73条、皇室危害罪=大逆罪(昭和22年廃止)で大審院に起訴され、死刑判決24名(うち12名は特赦で無期懲役刑)、判決7日後までに12名死刑執行。
①-2 詩人の出身地、和歌山県新宮町では医師・大石誠之助が死刑となる。詩人の父親は、その友人であり、家宅捜索され、取調べも受けた。
①-3 佐藤春夫氏自身も、当時、社会主義・無政府主義の著作を読んだ。
①-4 詩「病(ヤマイ)」の背景は、大逆事件である。
②国を愛することは、素直なナショナリズム。だから、20歳の佐藤春夫氏は「生まれし国を恥づること」は病(ヤマイ)だと、素直に言う。
②-2 ただし大逆事件は捏造の可能性が高い。しかし当時、言論・報道の自由が制約されていたこともあり、詩人は、明治天皇殺害計画を事実と思っていたろう。
③「古(フル)びし恋をなげくこと」、すなわち、過ぎてしまった恋に未練がましいことは、病(ヤマイ)である。20歳の青年、佐藤春夫氏は前向き。
④「否定をいたくこのむこと」も病(ヤマイ)だと、詩人は言う。確かに「否定」を、理由なく「このむ」のは変である。佐藤春夫氏は、健康だ。
⑤「あまりにわれを知れること」は、どこが病(ヤマイ)か?「知れり」とは、意味的に《完了》だから、《知ってしまった》ということ。
⑤-2 (ア)自分のことを《知ってしまった》ら、将来について予測がついてしまい、やる気を削ぐ。
(イ)さらに、よく考えれば、自分をすべて《知ってしまった》と思うこと自体、誤りである。自分は、未来の自分も含む。《知る》のは、過去のデータのみに基づく。過去のデータで、自分の未来を決めつけるのは、非合理な病(ヤマイ)である。かくて、佐藤春夫氏は合理主義者である。
⑥「盃とれば酔ざめの/悲しさをまづ思ふこと」。詩人は楽しいこと(酒)は、まず楽しめと言う。人生肯定者。
⑥-2 「酔ざめの悲しさ」が存在しないと、詩人は言っていない。例えば《死》(酔ざめの悲しさ)が存在するからといって、《生》(盃)を無意味として楽しまないのは、病(ヤマイ)だと詩人は言う。
⑦かくて詩人の心の傾向が分かる。彼は、②素直、③前向き、④健康、⑤-2合理主義者、⑥人生肯定者。つまり常識ある普通の人である。

 ILLNESS
You are ashamed of your country where you were born.
You severely regret that you lost your love long ago.
You like very much to deny whatever it is.
You know tremendously about what you are.
When you begin to drink, you expect in advance that you will feel sad after sobering up.
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