DIARY yuutu

yuuutunna toki no nikki

「松本たかし」『日本詩人全集31』(新潮社、1969年):綾や趣向の地味な宝生流能楽に似た句作、また一種冷徹な句作りを示すが、どこかまろやかだ!

2021-06-02 13:44:48 | 日記
松本たかし(1906-1956)は宝生流の名門に生まれた。しかし病気のため能づとめを断念する。綾や趣向の地味な宝生流能楽に似た句作、また一種冷徹な句作りを示すが、どこかまろやかだ。病状悪化のため、50歳で死去。」

(1)『松本たかし句集』(S10、29歳)
★「杓の下(モト)小さくかなしや甘茶仏」:4月8日花まつりのお釈迦様の像は小さい。
★「一つづつ田螺(タニシ)の影の延びてあり」:夕陽がさしている。小さな田螺それぞれに長い影ができる。
★「風吹けば流るる椿まはるなり」:細い川をゆっくり流れる椿。風が吹いて椿が回る。
★「咲きのぼり梅雨晴るる日の花葵(アフヒ)」:露の晴れ間。立ち葵の花が美しい。
★「遠雷の波間波間の大凹み」黒い雲に、雷の光。海は大波。大凹みが出来る。雄大。
★「洗髪乾きて月見草開く」:夕方風呂に入る。髪が乾いた頃、夜、月見草がひらく。
★「紫陽花(アヂサイ)の大きな鞠(マリ)のみな褪(ア)せし」:褪せた紫陽花の花も大きい。さえない。
★「秋晴れてまろまりにける花糸瓜(ヘチマ)」:糸瓜の実が小さい頃まるまる。周りに花が咲いている。
★「貼替へていよいよ古し障子骨」:貼替えた障子紙が真っ白。障子の桟が、一層黒ずんで見える。
★「我去れば鶏頭も去りゆきにけり」:私が鶏頭から離れていく。鶏頭が私から遠ざかってゆく。
★「露草のをがめる如き蕾かな」:露草のつぼみは、手を合わせ拝んでいるように見える。
★「芭蕉葉の雨音の又かはりけり」:雨の降り方、当たり方によって芭蕉葉の雨音が変化する。
★「時雨傘開きたしかめ貸しにけり」:壊れた傘を貸してはいけないと、確かめる。
★「枯蔓の引きずる水も涸れにけり」:水路の水に引きずられていた枯蔓。今は水路の水がなくなった。
★「とつぷりと後ろ暮れゐし焚火かな」:明るいうちから始めた焚火。今はとっぷりと日が暮れた。冬。
★「遠き家のまた掛け足しし大根かな」:冬、沢庵漬けにするため大根を干す。大量だ。掛け足していく。

(2)『鷹』(S13、32歳)
★「ちらちらと動く人ゐる遠蘆火」:遠い蘆火。人がちらちらと見える。
★「蛤(ハマグリ)を買うて重たや春の月」:蛤は春。春の贅沢だ。幸せな春の月。
★「春月の病めるが如く黄なるかな」:春月の黄色は、病気の色だ。
★「チチポポと鼓(ツヅミ)打たうよ花月夜」:華やかな花月夜。チチポポと鼓を打ちたい。
(3)『野守』(S16、35歳)
★「緑陰や蝶明らかに人幽(カス)か」:緑陰のヒーローは蝶だ。人ではない。
(4)『石魂』(S28、47歳)
★「霰(アラレ)打つ暗き海より獲れし蟹」:蟹の住む海は、暗く霰が打つ。
★「死の如き障子あり灯のはつとつく」:《暗》は死の世界、《明》は生の世界。死からの再生。
(5)『火明』(S31、50歳、この年逝去)
★「蜥蜴(トカゲ)行き当りたる木にのぼりけり」:蜥蜴が木に行き当たったが、避けずに登った。元気だ。
★「堂塔の霧深き夜の仏たち」:末世(釈迦入滅後の仏法の衰えた世)の霧深い夜。仏による救いを望む。
★「海中(ワダナカ)に都ありとぞ鯖火もゆ」:夏、暗夜の明るい鯖火(サバビ)。海中にある都も明るいだろう。
Comment    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「川端 茅舎(ボウシャ)」『日... | TOP | 「中村 草田男(クサタオ)」『日... »
最新の画像もっと見る

post a comment

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Recent Entries | 日記