懐かしのバレエ

バレエ、パフォーミングアーツ等の感想、及び、日々雑感。バレエは、少し以前の回顧も。他、政治、社会、競馬、少女マンガ。

ふたつの涙

2018-03-24 18:08:27 | Weblog
世界フィギュア2018、女子FS。

競馬で言えば、本命馬が来なくて、穴馬が来た日のような、大方の予想を覆す結果。
五輪後の世界選手権では、おうおうにして、ありがちな傾向だが、金メダリストのザギトワが出場した分、大番狂わせ感が目立った。

さあ、男子はどうなる事やら。

前日、樋口選手はFSのプログラムの方がよりよく見えるかも、と言う様な事を書いたが、本当に、やってしまった。
2位快挙、というだけじゃなく、結果を見る前から、いいパフォーマンスで。

(感動した後、全部終わってから考えたのが、樋口選手は五輪出てなかったから、五輪出場選手の一部にやっぱ疲れかな?というのはすごくある。ので、樋口選手は良かったけど、ローテーション的なこととか、それぞれの条件が違って・・・。

団体戦のあった五輪からしてそうだったけど、皆が同じ条件で戦ってるわけじゃない、というのは、ちょっと複雑な気持ちがした。)

というのはともかく、樋口新葉選手は、大舞台でいい演技ができて、良かった良かった。
若い選手のうれし涙が見ていて嬉しい。

「スカイフォール」、007の女スパイの話。女スパイはうそをつくことを、職業的属性として持つ。が、今日の樋口選手の後半の表現は、心の叫びを全身で空間に訴えていて、嘘より、真実の想いを表白する内容になっていたのが、自分にはユニークというか、不思議に思いながら見た。

あるいは、樋口さんの、ここまで来るまでの、思い、を、あの熱さから読み取った方がいいのか。

・衣装は、前に見た濃紺にスパンコールのが、肌の色をきれいに見せて、大人のセクシーさも出るような気がして、私自身は好きだったのだが、一般的には、スパイなので、黒は定番かも。

(それぞれが、自分をきれいに見せる衣装で出てくることも、個人的には大事だと思ってたりする。)

そういえば、「スカイフォール」は、以前にボロソジャール&トランコフが、エキシビションで、ペアの名演を披露した曲だった。

あれは、今回の樋口選手の表現と違って、007のエッセンスを短い時間に凝縮した、正統派の内容。

であると同時に、もっと深く、男女間の心の機微について、普遍的な事を表わしていた、とも思った。

二人が離れた位置で、お互い弧を描くように滑りながら、男と女の関係性の距離が変化する様を、フィギュアスケートにしかできない表現方法で見せた。そしてこの曲の曲想、スパイと007、二人が、例えばビルの谷間とかの007的な非日常空間の中で、あたかも宇宙空間に漂っているかのような、そんな中で、二人だけが存在しているかのような、不思議な気分でいるような、・・

二人の感じる宇宙をさえも、喚起していた。(主観的私的感想としては。)

上質の娯楽作品ではあるけれど、娯楽に終わらぬ、哲学的とも言っていいほど、普遍的真実をも、見ようと思えば見れる。そんな、ボロソジャール&トランコフの、何かに想をえての創造性の力量には、何度も脱帽するばかり。

・今日の熱演が、過去の名演の記憶を呼び覚ました。


一方、大方の予想と異なる、ザギトワ選手の、はじめての転倒シーン。

(彼女はここまで、ほとんど大きなミスなくシニア街道をかけあがってきた15歳だそうだから、五輪前は7勝という、それこそダービー馬じゃあるまいし、と思う様な、フィギュアスケーターでは、極めて例外的な人だったから、みんな、彼女ならやれる、と思ってたのも、無理はない。1位か、悪くても2位。と、誰もが思ってたと思う。

終わってみれば。五輪に出てここも出て、女子で他に誰もできない最強技術&体力を見せる一番きついプログラムで出たのだから、冷静に考えればこの結果は、むしろ順当なのかもしれない、が。

もし、責めを負うべき存在がいるとしたら、それは15歳のザギトワ選手ではなく、エテリ・トゥトベリーゼコーチ、だと私は思うんだけど。何の戦略も無く、そのまま彼女をこの場に出してしまった。(例えば、難度を下げるとか、そういうこと、いっさいやってなかったし。)

戦略、という点では、五輪で勝って、それ以上は無いから、五輪で勝ったら、次は1位以外になるなら出ない手もあったはず。
ただ、羽生選手らが欠場、の現実の中で、華やかで金メダリストのザギトワの出場は、世選関係者、フィギュアスケート業界にとっては、大きなメリットがあったはず。ザギトワさまさま、ではあった。(私だって、録画して見てるし。)大会が盛り上がらないと、関係者にはあれだと思うから。現実的な話だけど。

元々今大会は、お客さんがすごくいいとは思っていた。

ザギトワ選手のFS.彼女のがんばりと華にも感動したけど、彼女が3回転ルッツで転倒し、その次も、回転はしているのに着氷で乱れたり、惜しい所でとりこぼしたり、果敢に最後まで攻めてリカバリーしようと高度な事をやってやっぱり惜しい所で失敗したりしてる中で、お客さんの拍手、歓声が、あたたかい、さらに、熱い。ザギトワやコーチ、審判から見たら、失敗に過ぎない高得点にならない演技、技術でも、私たちは感動したよ!と、伝えているよう。

この、若き女王が過酷すぎる試合で氷上に立つ姿を、愛し、彼女が氷上に作る世界、一つ一つの動作を愛で、勝ち負け、審判とは別の価値観で、彼女を応援してやまなかった。1回見て、2回見ても、やっぱり、あのザギトワちゃんが失敗した所で、大成功したか?!と錯覚したくなるような、大きな熱い拍手には、目頭が熱くなって、泣けてきた。今日は、この観客の反応に、一番感動したみたい。

ザギトワって、笑顔が可愛いと思っていたけど、泣いてもかわいい。(その点は得な人だ。)

失敗は成功の元。

若き五輪女王が、この敗北を明日の前進への糧にしてくれることを祈る。

(彼女は、この世選から、何を得たのか?。お客様のあの熱い反応、拍手、あれから得る物はあると思うが。
あの好意的なフィギュア観客の反応は、もとはといえば、ザギトワが実力でもぎ取ったものだ。

(なぜなら、五輪では彼女は優勝候補最有力ではなく、マスコミでは、メドべージェワが絶対女王呼ばわりされていた。そういう影響もあってか、五輪の時は、ザギトワが有無を言わさぬ堂々たる演技で優勝をかっさらった時、観客の拍手は、あの演技にしては、そこまで大きくなかったと記憶してる。

ザギトワが、新女王と認められる演技をしたからこそ、今は彼女を若き女王として期待し、応援してくれる目がある。)

今の彼女はまだいっぱいいっぱいで、それどころではないと思うけど。今日の敗北を挫折で終わらせず、明日への飛翔につなげてくれたら、なおうれしいんだけどね。)

若い二人の、うれし涙と、悔し涙。若い女の子のかわいさは、いろいろ。


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