懐かしのバレエ

バレエ、パフォーミングアーツ等の感想、及び、日々雑感。バレエは、少し以前の回顧も。他、政治、社会、競馬、少女マンガ。

NHKテレビ放映、ゲルギエフ『白鳥の湖』

2008-01-19 16:39:20 | Weblog
ロシアでのマリインスキーバレエ団、セルゲイエフ版「白鳥の湖」全幕分放映の再

放送を見た。マエストロ・ゲルギエフは、バレエ指揮者でなくオペラ指揮者なの

で、感想割愛。

プリマのウリヤーナ・ロパートキナには失望。(最近バレエブログは、予定調和も

のが多いと聞くが、自分は本当のことを書こうと思う。)

白鳥の腕が堅くギクシャク。脚が、時々プリマとしては「あれ?」と思うような形

に崩れる。オデット登場の「滑る様なパ・ド・ブ・レ」を抜いたのは、身体的な理

由によるものと思う。カメラワークのカバー力が凄い。演奏と一緒に、舞台を精一

杯盛り上げ、感動を誘発している。

ロパートキナは、例えば回転系が弱い。

舞踊的には、ロパートキナは白鳥よりは黒鳥の方が、「硬質」な身体的個性が合っ

ていた。が、演技ではウリヤナより優れた黒鳥は何人となくいるので「白鳥より黒

鳥に魅力」ともいいがたい。それでも黒鳥となると健脚振りを見せて気持ち良かっ

た。「白鳥の湖」の技術的な見せ場では、オディールのグランパドドゥのアダージ

ョでのバランスで、きちんとポアントのアラベスクで静止を見せ、ほっとさせられ

た。ここは得意なのか、以前見たときもきれいだった。グランフェッテ・アントー

ルナンは、生の舞台ではやってなかったダブルを複数入れたが、相変わらず必死で

廻ってる感で、贅沢な要求はできない。軸もぶれてはらはらする。基本的に回転の

キレのない人だと思う。

「白鳥の湖」は、高名なプリマも含め何度も見ている。生の舞台で比較しても、ロ

シアバレエ界の名花たちに「白鳥」ではロパートキナは遠く及ばない。

マリインスキー(ソ連時代はキーロフバレエ)のプリマとしては、よく言われたこ

とだが、「白鳥の湖」のお手本、ガリーナ・メゼンツェワが、好みを超えて素晴ら

しかった。(個人的に特に好きなプリマではないが、バレエの基礎がしっかりして

いて、クラシックバレエの専門家が褒めそうな踊りだ。「舞台で気をつけているこ

とは?」と質問されて、「脚で立つこと」と答えていた。本当にそういう踊りだと

思う)

ただ、「白鳥の湖」を良く知らず、あまりいいプリマを見たことがない人には、ロ

パは、向いたレリーナなのだと思う。目の肥えたバレエ好きには、ロパートキナ

「白鳥」は、あまり高く評価されていない。今回改めて見て、その理由が判った気

がした。

今回、舞踊が弱い分、カメラワーク、照明、音楽で劇的効果を上げ、王子役もふく

め、判りやすく説明的な演技で舞台を補完していた。

愛のドラマを担ったのは、格下のバレエ団モスクワクラシック出身の王子役コルス

ンツェフの方で、愛の勝利に感動しようと思えばできる舞台だが、ロパには、恋す

る乙女の純情も揺れる心も感じられない。オデットがいるというより、オデットを

演じているマリインカの現女王がいるという演技レベルに、とどまった。

芸術としての「白鳥」なら、ボリショイバレエのリュドミラ・セメニャーカも、絶

頂期に「もっとも素晴らしい白鳥」を踊った一人だと思う。

そこまでのレベルではなくても、DVDの出ているボリショイ「白鳥の湖」のアッ

ラ・ミハリチェンコは、愛についての表現力では感動した。

マリインスキー「白鳥」で、素晴らしかったのはメゼンツェワだけではなく、他に

もいた。現テリョーシキナあたりに継承されてくれると良いのだが。

マイナーな所では、マラーホフが以前に代役として連れてきたイリーナ・ザヴ

ィアロワは、白鳥が上手でさすがマラーホフの選択と感心したことがある。スター

のカリスマ性は少なかったかもしれない。

実は目の肥えたバレエ好きには評価の低いロパートキナ「白鳥の湖」の問題は、

バレエ界における「スターシステム」の問題そのものだ。

あるダンサーが「百聞は一見にしかずです」と言った。

芸術で贅沢をしたいのか、楽に手に入るもので満足できればそれでいいのかは、見

る側一人ひとりの判断次第だ。



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