想風亭日記new

森暮らし25年、木々の精霊と野鳥の声に命をつないでもらう日々。黒ラブは永遠のわがアイドル。

地上の王 その3

2008-06-12 07:28:09 | Weblog
 

    「うちのとうさんは、フセン(不戦)主義だよ。
       黙ってたほうがいいって。
     口は災いの元。いつもそう言ってる」
    「そう、わけありなことを言うわね。君んちのかあさんって
     口達者なんだ? それとも、とうさんがめんどくさがりなんだよ。
     黙ってるのは、ほんとは一番良くないことなんだよ。」
    「ううん、黙ってたら戦争にならないんだよ」

    ぼうやのいうことは最もなことである。
    かまびすしい雌鳥、国滅ぼすといういにしえの伝えも一理か。
    しかし‥それは置いとくとして。

    「マサイ族がね、象と闘うようになったんだよ。」
    「どうして?」
    「象が人を襲ったからよ。だから、復讐対復讐。目には目をの
     逆の連鎖が起きてるのよ。」
    「ライオン狩りじゃなかったの?」

    「ライオンを狩るのは勇者の印。だけど、象とはいい距離が保たれて
     平和だったんだよ。アフリカでも開発が進んで、動物保護を考えると
     象のいる場所を確保するためにマサイ族は土地を追われたのよ。
     アフリカの大地も今じゃ狭くなったってことよ。
     人が動物の居場所をコントロールしているから。
     コントロールしてうまくやってるつもりが、予想外のことが起きたわけね。」
    「戦争だね」

    「そう、ま、そういうことね。でも人間みたいに故意じゃないの。
     衝動的。象は人を襲ったあと、死体になったその人を弔うような行動を
     とったことがわかってる。象は仲間の死を悼むんだよ。
     サイに対してもそうなの。雌と間違えてサイに発情したのね。
     衝動を押さえられない雄象が暴れる、復讐心に燃える雌象が襲う、
     そんな以前では考えられないことが起きてるのよ。」
    「オトナと似ているね、カッとなるでしょ。キレるっていうか。
     ぼくはキレない、先にキレられて、たいてい逃げてるし‥」

    「そうなんだ? 君、いいやつだなあ。仕返ししないんだね。
     子供もオトナもキレるって言うね、最近は」
    「ストレスだね」
    「そう言うね。みんなそういう話になるね。象も人もストレス‥。
     でもおばさんはそう思ってないんだよ。」
    「ストレスじゃないの?」

     小学生相手に話していることを少し思い出し、
     これから先をどういえばいいのか、ちょっとだけ考えた。

    「猛獣を追い出して人の居場所を広げていったんだってこと、
     始めに話したでしょ。自分の取り分を増やすために他から奪うという
     こと、いけないことだって教わった?」
    「うん、そうだよ。いけないよ」
    「でも世の中のほとんどが競争なの。競争して勝つと、誰かが負けてるからね。
     負けた人はどうなるか、勝った人が考えない競争のしかたがいけないんだよ。
     勝ち逃げはだめなの。勝った人が王様で、王様はとても強いから王なの。」

    「ライオンだね」
    「そう、ライオンはハイエナと禿鷹が食べる分まで食べたりしないでしょ。
     誰に教わったわけでもないのに、そうやって取り分が決まってて
     それぞれが生きてきたわけよ。人間が武器を持つまではね。
     武器と智慧は世界を変えてしまったんだね。
     人間は地上の王なの、ライオンじゃないけど強いのよ。」

    「地震とかカトリーナとかでいっぱい死んだりしても、強いの?」
    「そう、強いの。強いってことは、どういうことなのか、
     ぼうや、考えてね。とうさんだって黙っているばっかじゃないと
     思うよ。考えていると思うよ。ただ行動しないだけよ。」

 
    

    「ぼうや、地上の王には、王の道、王道というのがあるんだよ。
    「オードー、王将、ギョウザ?」
    「ま、並、オヤジギャグにもなんないけど許してあげよう。
     王の道ね、王が道を間違えればどうなるかな?」

    「猛獣に復讐されるかなあ」
    「そうだね、油断してるからね、いつやられるか、わかんないと思って
     考えることだよ。居場所を失った猛獣は地上のすべての象徴だと思って。
     大事なのは、これでいいんだろうかって常に考えること。
     そして弱い者を守ること。
     それができなければ王じゃない、ただの乱暴者だし強欲な悪者さ」

     闘って領土を広げて生きてきた、生き物の上に君臨する王、人間は
     この大地の上に広がるすべてを得た。
     そして、あとどれだけ失えば、失ったものを思い出せるのだろう。

     うさこオバは、棒きれをぶんぶんと振り回して遠くに投げた。
     くんくん親分が走り出し、ぼうやもその後を追って走った。



    ちろちろ燃える焚き火から顔をあげると、
    白い花がたくさん咲いている。やがて赤い実がつくだろう。
    甘い汁をふくんだ実だ。小鳥も同じことを思うだろう。

    旧事紀の序文、およびいくつかの巻に、人が増えていく未来(末世)に人心は乱れ、
    魂を失って行く有り様が書かれている。それを嘆いているのではなく、それが理と
    説いてある。ゆえに学べと。
    書かれ記されたが、過ぎし時代の人は、何一つ役立ててはいない。
    学問は成らず、争いだけが繰り返されてきたということなのだなあ。
    退化した人、うさこにもそれくらいはわかる、
    わかればちと苦く痛いのであるなあ、しみじみ‥
     
    
 
    


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