想風亭日記new

森暮らし25年、木々の精霊と野鳥の声に命をつないでもらう日々。黒ラブは永遠のわがアイドル。

母に会いに

2020-11-18 00:01:12 | Weblog
雨雲が去りきらない午後
緑川に架かる橋を渡り
十ヶ月ぶりに母に会いに行った



施設のコロナ対策で
建物の外からガラス窓越しに
母を見た
車椅子の母は窓を見上げた

笑顔になるまで間があって
ああ、と私の名前をちゃんづけで
呼んだ
小さくなった顔 小さくなった肩幅
ガラス窓は閉じたままなので
触れることができない

母の手が好きだ
会うたびに握手して別れた
ぶらんぶらんぶらん揺すって
引き寄せて 名残り惜しんだ

柔らかでふわりとあたたかい
白く透きとおり
年取った娘を小さな子のように
包んで抱きしめてくれた

母の手に触れたいと思う気持ちが
日ごと募って会いに行った
ガラス窓をすこしだけ開けるのを
どうか見逃してはくれませんか



見つめあって
笑いあって
話などないから困った
そばに立つ作業療法士に気兼ねして
母はぎこちない
静止画像の中にいるようで
面会時間10分は終わった

壮絶な拷問の暗闇を耐え続け
不信の悲しみを生き抜いた
歳月とうらはらに柔らかく美しい手
信じなさい 信じていればいい
諭すように繰りかえすのは
節くれだったわたしの手が憐れで
今にもあやまちをしそうだから
愚かだった自分を思い出すから

触れるたび聞こえる
和かに生きよ 一途に生きよと
羽田空港の灯りを下に見ながら
母の、あのぬくもりを思った

























 


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