想風亭日記new

森暮らし25年、木々の精霊と野鳥の声に命をつないでもらう日々。黒ラブは永遠のわがアイドル。

西行庵にて

2014-05-09 11:32:18 | Weblog
頂上から西行庵を見下ろす。花見の人影が右上の方に
小さく見える。
ここまでくる前に谷を一つ隔てた金峯神社へ参拝した。

近鉄吉野駅を降りてロープウェーあるいはバスに乗り換え
終点の奥千本で降りた。バスを降りると下りながら桜を眺め、
竹林院や桜本坊、金峯山寺蔵王堂をめざすコースと、目前の
金峯神社へ参り、さらに奥へと進む道へ別れる。
さらに急な坂道を登らねば西行庵へは着けないことをここで
知ったのであった。



まだ序の口だから笑顔の人が多い。



道があるから行こうかどうか迷っている人がちらほらといる中
迷わず進むと、この道が続いていた。
えええっ、これ、行くう? と叫んでいる男性が連れの女性に
袖を引かれて歩いていたりする。
バスの中で五月蝿くしゃべり続けていた壮年男女のグループも
行く行かぬでジャンケンしていた。



ちょっと後悔がよぎるけれど、奥まで来たからにはこの道を先へ
行かねばなるまいて。




結局、みな行くのであった…我もまた同じ。
袖引くは誰かは知らねど奥千本…



急な登りの後は傾斜45度位の下り坂であった。
あそこまで行ったら弁当にしよ、そうしよ、そうしよと言い合い
ながら、滑り落ちないよう必死に鎖を掴みながら降りていく。
そして西行庵を背にして桜見ならぬ桜宴会となる人々。
それらをなるべく見ぬようにして、西行さんの声を聴きたやと
庵前でしばし佇んだ。



さらに周回している上りへの路を行くと緑の濃淡が折り重なった
吉野連山の眺望が開けた。



吉野へ来た実感が湧いてくる。
同時に、我が風の谷の森を思い出した。同じ匂いがするのだ。
山の気だ。

観光用に整備され、毎年大勢の人々が歩き踏みしめられた
今の道とは別の、修験道の行者が辿った道はさらに険しい道を
想像した。
寺派に属さない僧侶であった西行が修験の行を願い出、受け入れた
金峯山寺の山伏が西行を修行にかこつけて苛め抜いたという話が
あるけれど、西行らしい逸話ではなかろうか。
結局西行は吉野から逃げず、逆に吉野を幾度も訪れ庵をあみ
山の霊気と一体化することができたのだ。



戻り道の途中にあった宝塔跡。報恩大師の碑があった。
古神道から修験、そして仏教へと変遷していった吉野山だが
神仏習合の裏でやはり山の主はやさしい仏ではなく古代からの
神であり続けたと思う。
山の神は女神であり、産む神である。
猛々しさと包容力を兼ね備えた神が宿る山であるがゆえに、
訪れた人に再びここへ戻りたいという気持ちを起こさせる、
そのことが自然に了解できたのだった。

ここから熊野へ続く道は九里というから山伏にとってはひとっ飛び
の距離で、熊野を経て伊勢へ回る道、そして葛城と難波からさらに
淡路へと伸びていく古代の要路が吉野で交差し都へと通じる。
吉野には斉明天皇の御代に離宮吉野宮が造営された。
また天武天皇は大海人皇子として皇位を窺う備えに吉野へ下った。
壬申の乱を経て即位ののち後の持統天皇とともに行幸されたことが
記されている。
時代が下り、西行の頃は奈良、天平時代はすでに遠き伝説となり、
失われた神々を思いあくがれる者にとって、山桜はしるべであり
神の徴のようであったことだろう。

ほんのひとときの滞在であったが、来てみて立ってみて感じることの
大きさに、この場所が特別であることを知ったのであった。
次は願わくば、桜ではなく秋の吉野の静けさの中に立ってみたい
気がしている。

神さぶる磐根こごしきみ吉野の
水分山をみればかなしも (万葉集)

確かな言葉で大神を称える保田與重郎と、天地の恵みを
全身全霊で受け止め歌にした前登志夫の中心にあるもの
とは少しも変わりはない。西行が桜を愛でた心にあった
ものも同じではなかったか、山の嶺々を見晴らしながら、
なにものかに包まれるような心地で思ったのだった。
今の人は神をおおらかに歌うのにちゅうちょする。その
裏側にある恨めしさは神へではなく人の罪であることを
わかりながらも神をよけて通ろうと言葉をひねり出す事
のかなしさが古人には必要なかった。
どちらも根底にあるものは同じなのだから相通じること
ができる。そして、歌を通し湧き上がる感動で古に確か
にあった天地と人とのつながりに身を委ね、安らぎ喜び
またかなしさを思うことができるのだ。
「和して同ぜず」と先に教えた上宮太子の心もまた、
人の世の末世にさらにかなしみが深くなることを覚られ
た上でのことであろうと、山道が下るにつれて想い想いし
涙がこぼれてしかたがなかった。






































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