goo blog サービス終了のお知らせ 

想風亭日記new

森暮らし25年、木々の精霊と野鳥の声に命をつないでもらう日々。黒ラブは永遠のわがアイドル。

五月の想い出

2018-06-16 17:51:11 | Weblog
中央の絵は、「トリアナ橋」
両脇の向かって左は「初恋」
向かって右は「想い」
スペイン、セビリア在の画家、
川上順一氏の作品展へ今年も行くこと
ができた。

慌ただしい日程で短い時間しか
いることができなかった。
トリアナ橋は、セビリアにある。
この橋の物語はいずれ本にしようと
川上さんと約束した。
画家がこの場所をなぜ描いたのか。

トリアナ橋の正面、反対側、斜め側
と三方から描きわけた作品があった。
橋梁の鋼鉄の質感と、川面の水の色。
川上さんの絵は毎年、変化している。
いや、進化している。
実際の歳よりも若く見えていた画家が
今年は少し歳をとっていた。
わたしと同じように。


(音楽家)

セビリアからポルトガルの浜辺まで
車で一時間ほどで行くのだと言った。
海を描いた絵が数点あり、尋ねたら
「ぼかあ、海は好かんとよ、砂浜が
ねえ、砂が足にまとわりつくとがね」
と言って笑った。
泳がん? と聞くと、「泳ぐよ」
と言った。
セビリアの自宅も、毎日掃除をする、
風に運ばれて砂が入ってくるからだと
言った。
「ぼくが掃除せんと、うちじゃ誰も
気にせん。あっちの人は慣れとるね」
と30年過ぎてもエトランジェみたい
に言って笑う。

個展が終わったらすぐに帰ると言った。
帰るのは日本ではなく、スペイン。
もう帰るの?と言うと、じゅうぶん、
と言った。居心地がよくないの?
と尋ねたら、そんなこたなかよ、
みんなよくしてくれるよ、と。

ギャラリーにいた短いあいだにも
閉店後の誘いの電話が何本もあって
年に一度の帰郷を待っていた人々が
いることがわかる。
わたしもその一人だが画家の帰る
場所はここではないのだ。

暮らしのある場所が故郷。
大西洋の風と砂と強い陽光の街に
根を降ろそうとしている画家の物語
を聞きに、次はわたしが行くよと約束
して別れた。

帰京して写真に納めた絵を見ていて
気づいた。
めまぐるしく変化していくEU各国は
地方もまた変化に乗り遅れまいとして
開発が進み、アジア圏ほどではないが
古いものは姿を変えている。
けれど、彼の描いている風景は
セビリアの丘や川辺、農地、ポルトガル
の浜辺と海に浮かぶ船、どれも古色を
漂わせ、郷愁に溢れている。
彼が日本にいた頃に営んでいた珈琲店
も木造のレトロは内観だった。
その店を愛している人たちは今も多い。
けれど数年後には建て替えでなくなる。
彼は、違う景色のなかに自分の故郷を
描き出しているように思ったのだった。








コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする