先週の金曜日、イアン・ボストリッジの演奏会を聴きそびれたことは前にも触れたが、そのリハビリの一環として、土曜日にウィグモアホールでの演奏会に出かけた。いつもは一人で行くのだが、演目がカルテットだったこともあって、ヴァイオリンの先生をお誘いした。
プログラムを購入すると、中に他のコンサートの案内があり、演奏家の写真も載っていた。すると先生が「あ、彼と来週リハをするんだよ」と仰る。何?彼と??かなり有名なヴィオラ弾きで、先日クイーンエリザベスホールで聴いて魅せられてしまった方である。私がよほど羨ましそうだったのか、「何だったら、来る?聞いてみるよ」。なんていい人なんだろう。そして厚かましい私は勿論お願いをしたのであった。
翌日早速okとの返事があった。ぐぐってみると、相当レベルの高いカルテットになりそうだ。しかし、先週のこともあり、当日彼らに会うまで、本当にリハを見学できるのかとても心配だった。
さて、土曜日、雪に覆われたベルリン。先生のお兄様のリハーサル室にて。ファーストは多分ガルネリ(本人に聞きそびれたので正確には不明)、セカンドはガダニーニ、ヴィオラはストラド、チェロはロジェッリと楽器だけでも大変豪華な取り揃え。
リハが始まる。まずはブラームスの五重奏から。ピアノが欠席のため、ピアノパートは誰かが歌う(主にヴィオラとファースト担当)。弾きなれている曲なのだろう、結構いい加減に合わせているときもあるが(殆どやんちゃ坊主4人である)、本気になるとすごい。これだけの楽器とそれを弾きこなす人たちだ。かなり広く天井も高い部屋が音で満たされる。特に目当てのヴィオラ弾きの音。まるでチェロのようだ。ヴィオラの音が部屋を共鳴体として立ち上がった瞬間があって心底驚いた。
最後に少しだけ、ショスタコの四重奏曲第八番。彼らの演奏した第二楽章が今まで聴いたどの演奏よりも気に入った。本番もこの調子で「炸裂」して欲しい。一方、第三楽章は具体的にこうして欲しい、ということがたくさんあった。ああ、自分も音楽を作る立場だったらどんなに良いだろう!!
演奏会だけを見ても、誰が音楽作りをリードしたか理解できることもあろう。しかし、こうして製作過程を見ると、誰がどのように貢献しているか、また彼らの人間関係がどうなっているのかが手に取るようにわかる。それを知って音楽を聴くことはあるいは邪道かもしれないが、非常に面白かった。
演奏も素晴らしかったが、4人が楽しそうに音楽作りに関わることが、何よりも素晴らしかった。常々一流の演奏家は人間としても一流であると思うが、彼らも将来そうなって行く素質が十分にある。自分の仕事も、こんな風にお互い尊敬しあいながら、楽しく作業ができているか?と問わずにはいられなかった。