今年は行かないつもりだったヴェルビエ音楽祭。日常のいろいろなことでストレスが溜まり、このままでは自分の思考が悪循環に陥る危険性があったので、思い切って1.5日お休みを取り、ヴェルビエへ行くことにした。お休みの取れる日程に丁度、ジョシュア・ベルの弾き振りによるベートーベンVn協奏曲があったのである。
ヴェルビエ到着時は、昨年ほどとは言わないが、悪くないお天気だった。青空に白い雲、標高が高い部分の芝生のような緑が目に眩しかった。
ところが、演奏会が始まる2時間ほど前から、黒い雲が現れ、演奏会の開始少し前から雨が降り出した。1曲目のシューマン、3つのロマンスの途中から、会場の中にも雨音が聞こえ始めた。
2曲目、ベートーベンのクロイツェル・ソナタのためにジョシュたちが登場するも、相当雨音が激しい。余程立ち上がって、ちょっと待ってください、とお願いしようかと思ったその瞬間、前方の席から関係者と思しき一人の紳士が舞台に歩み寄り、ジョシュに何か二言、三言話すと、ジョシュはピアノのユジャ・ワンと舞台袖に下がった。すぐにアナウンスが入り、天候の回復を待つため数分間休憩、となった。
昨年よりまともになったとはいえ、まだテントのヴェルビエ音楽祭メイン会場である。屋根に雨のたたきつける音が容赦なく響いている。
山の天気は変わりやすい。少し小止みになったところで演奏再開。ユジャ・ワンのピアノもYouTubeなどでみる様子そのまま、そしてそれがジョシュのテクニックと相俟ってそのままクロイツェル・ソナタに反映された、とても激しいソナタになった。もうクラシックとかいったジャンルとは関係なしに、素晴らしい運動能力を持った2人が打々発止で協奏している。もう降り続く雨音も気にはならない。
ジョシュは「歌の歌い方」の上手いヴァイオリニストだと思う。メロディの流れ方、またその音。「琴線に触れる」という言葉があるが、まさにそういう音だと思う。聴いていると思わず目を瞑りたくなる。私にとっては彼が現役一番のヴァイオリニストだ。
後半はベートーベンのVn協奏曲。昨日ハーンで聴いたばかりなので思わず比べてしまう-ジョシュの音はハーンに比べると色気があるように感じられる。
彼の弾き振りを生でみたのは初めて。指揮をしている、というよりは、曲に乗っている、という感じがしないでもない。また、ジョシュの歌の歌い方が上手すぎるのか、ベートーベンというよりはチャイコフスキーを聴いているような印象を受けてしまった(ごめんね、ジョシュ)。
今日の演奏会の収穫はとにかくクロイツェル・ソナタ。演奏会後に、是非ウィグモアホールで弾いてください!とお願いしたら、予定はない、とつれない返事をしながらも、腕をぽんぽん、と叩いてくれた。