ちいさな舟から
みあげた星を中心に
地図のない道を漕ぐ
これから着くところに
ポケットの中の種を植えよう
高く大きく育った樹を
見おろしてほほえもう
その樹で歌う小鳥の声が
朝をきらきら包むのだ
会うこと
からだがそばにいて会うこと
ことばをかわして会うこと
描いたものを見て会うこと
書かれたものを読んで会うこと
生きているだけで
風をうけて歩いているだけで
たくさん 会うこと
いなくなっても
もうそこにからだがなくても
たくさん 会うこと
壁 壊せ
見える壁も
見えない壁も
じぶんの壁も
ひととの壁も
ぜんぶ 壊せ
知らないこと
知らないひと
知らない場所
知らない世界に
すすむために
壊せ 壊せ
壁 壊せ
この場所は
じぶんに似ています
嫌いと言ってしまうのは
かわいそうな気がします
好きと言うのも照れくさいから
ときどき頭をなでて
そうだねわかるわかるよと
声をかけてあげたいような
じぶんに似た場所で
じぶんのままでいる
はじめからそこに居た人もいるし
そのために歩いてきたんだと
はじめて立ち止まる人もいる
じぶんに似た場所で
うまれたときみたいに
じぶんのままになる
じぶんに似た場所で
じぶんがはじまる
じぶんだけの
特別なおはなし
これから先は
まだ見えない
曲がり角の先に
咲く花は何色
このおはなしの旅人はじぶん
このあしで歩いた道の先に
次の章がある
修行中の魔法使いも
善良な正直者も
勇気ある冒険者も
ほんとうはひとり
じぶんのおはなし
理由も目的も
説明も説得も
届かない
ただ
泣きたいだけ
ただ
笑いたいだけ
そんなときがあるんだ
なにかをめざして
立ち上がるのは
そのあとのことなんだ
風が予感をはこんできたよ
理由を説明しなくていい
舟を漕ぎだすときなのだ
花が咲きこぼれてる
樹の香りまで溢れてる
これとおなじことなのだ
風が予感をはこんできたよ
もとには戻れない風だ
どんなかたちで
伝わるかわからない
でも
あなたが笑うと
どこかでだれかが
嬉しいの
あなたのことを知らないひとも
会ったこともないひとも
花が一輪咲いたとき
どこかでだれかが幸せになる
それとおんなじことだから
器をつくった人がいた
名も刻まず静かに
つくり続けた人がいた
千年後
その器をみた人が
一瞬で
心を奪われた
それは
魔法ではない
あなたがつくった
この器が好きです
あなたの名前はわからない
でもあなたの器が好きです
作り手に語る言葉が
時も距離も超えて
生も死も超えて
伝わると信じている
それは
魔法ではない
お久し振りです
と言ったら
今年も燕がきたよ
その人はそう言った
商店街の音に混じって
燕の声がする
ぎゅるりりり
しばしの休憩は
電線のうえ
ときどき顔見知りが
燕を眩しげに見上げる
私たちのあしたは
おなじ場所に
戻らないだろう
懐かしさの無数の糸を
きらずには歩けず
そのあといくつかを
結びなおして前へ
燕を見上げて
今日も出掛けるのです
透明な糸が風に揺れています
うごいているよ
たちどまらずに
うしろむいたり
したをむいたり
だけどちょっとは
まえにすすむよ
まだだれにもみえないけれど
かたちになるまで
おもいつづけて
ゆめのかたちを
みせてあげるよ
いつもと違う鳥の声
あれは旅の鳥
それとも季節の歌
緑のいろが濃くなって
日ざしが強くなってきた
いつもと違う声がする
これは旅ごころ
それとも時を知らす鐘
トータル
