お月見

月を見にでかけましょうか

いえ

月に見てもらうために

でかけましょうか

お月さま

ここです

わたしは

ここにいます

あなたはずっと

空にいて

くりかえす物語を

ずっとみてきた

そのなかの

ほんの一瞬

ここです

わたしは

ここにいます

白いあした

白い紙があれば

たいくつしない

ずっとあそんでいられるよ

こどものわたしが

うたいながら

おえかきして

おはなしつくって

にこにこして

こう言うんだ

白いあしたがあれば

たいくつしない

ずっとあそんでいられるよ

わたしのひとつ

青空をひとつ

おひさまをひとつ

きれいな雲のかけらをひとつ

勇気をひとつ

握手をひとつ

そこからはじまる

お話ひとつ

そこでうまれる

思い出ひとつ

あしたときょうの関係

あしたにむけて

きょうをつかいきる

そうすれば

たっぷりと

あしたが

降りそそがれる

いちにちの器に

あたらしい風が

朝の窓から

飛びこんでくる

雨の香り

今日

雨の香りがした

小学生のころ

急に降りだした雨に

走ったわたしの

赤いスカートと

膝小僧の擦り傷と

歩道橋の階段を

駆け降りる音

背中で跳ねるランドセル

その中のノートに

書いてた落書きの

つづきをいま

わたしは書いている

意地

意地は

芽を出した植物の

かぼそい一本の根

吹き荒れる風のなかの

わずかな窪みの火種

生まれたての馬の

震える脚のちから





　　

生きる

卑下せず

自惚れず

捨てず

染まらず

淀まず

あたらしく

なつかしく

生きる

ぷかぷかと

いかだにのって

ぷかぷかと

ぷかぷかと

空を眺めてすごします

動いているのは

雲かわたしか

ぷかぷかと

ぷかぷかと

景色と季節が流れます

目をあけながらのうたた寝か

あの白い蝶はまぼろしか

ぷかぷかと

ぷかぷかと

いかだはわたしをはこびます

つたえてやるぞ

どこにいったって

なにをしてたって

おひさま

おつきさま

そしてこのあしもとの

じめんとそのおくの

はんたいがわのじめんまで

とどけてやるぞ

さけんでやるぞ

おおきなこえで

ちいさなこえで

いろんなかたちで

つたえてやるぞ

ほんとうを忘れるな

ほんとうは

おこりんぼなのだ

こどものころの

自分をわすれるな

大好きなことしか

やりたくないのだ

楽しいときは

名前を呼ばれても

聞こえないくらい

熱中するのだ

ほんとうは

そんな人間なのだ

わすれるな

決してわすれるな

ほんとうの自分は

いつだって

はっきりしてるのだ

いつもとちがう時間

いつもとちがう道を歩き

いつもとちがうものを見て

いつもとちがうものを選ぶ

いつもとちがうものを食べて

いつもとちがうひとと会い

いつもとちがう話をする

いつのまにか

いちまいの布のぶんくらい

身軽になって帰ってくるんだ

いつもとちがう時間のおかげで

それでも今を歩いてる

春と夏のあいだでは

白い花が風に散り

緑濃い木々の奥では

鴬の鳴く声がする

片手はきのうをゆびさして

片手はあしたをゆびさして

それでもきょうを歩いてる

二つの風がぶつかって

突然空が曇るのも

いまの季節はあたりまえ

それでも今を歩いてる

ゆらゆら遊ぶ

一本の樹

ゆらゆら

風と遊ぶ

一つの魂

ゆらゆら

時と遊ぶ

濃い色の花たちよ

暖かい風が吹き

みわたす景色には

いつも見るよりも

濃い色の花が咲いている

桃も菜の花も木蓮も

タンポポもチューリップも

走り回るこどもの

笑い声のように

大人しくはしていられないのだ

土の底から根もとから

伸ばした枝の葉の先まで

きみたちは元気なんだ

黙ってなんかいられないのだ

うつむくこどもよ

うつむくこどもよ

おまえのうなじから

さみしさがたちのぼる

だまりこむこどもよ

おまえののどに

もどかしさがすけてみえる

なかないこどもよ

おまえはまるで

これからふたがあく

オルゴール

はじめての曲

こぼれてはねる音を

わたしは待っている