フランスに揺られながら DANS LE HAMAC DE FRANCE

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ショーペンハウアーと現代 SCHOPENHAUER ET AUJOURD'HUI

2005-12-05 00:22:38 | Schopenhauer

彼は誰に影響を与えたのか? Qui a-t-il influencé ?

19世紀の思想家で後世に絶大な影響を与えた2人を挙げるとすれば、政治の領域ではカール・マルクス (1818-1883)、文化面ではショーペンハウアー (1788-1860) になる。誇張だと言う人がいるかもしれないが、哲学の分野を見てもショーペンハウアーがいなければ作品は違ったものになっていたか、ひょっとすると作品さえ書けなかったかもしれない人たちがこれだけいる。

ニーチェ Nietzsche (1844-1900)
キルケゴール Kierkegaard (1813-1855)
ベルクソン Bergson (1859-1941)
カミュ Camus (1913-1960)
ウィトゲンシュタイン Wittgenstein (1889-1951)
カール・ポッパー Karl Popper (1902-1994)
カール・ユング Carl Jung (1875-1961)

文学の分野を見てみよう。以下の人たちの作品には彼の考えの痕跡が見て取れる。

モーパッサン Maupassant (1850-1893)
トルストイ Tolstoï (1828-1910)
プルースト Proust (1871-1922)
クヌート・ハムスン Knut Hamsun (1859-1952)
カフカ Kafka (1883-1924)
ストリンドベリ Strindberg (1849-1924)
ムシル Musil (1880-1942)
ジョイス Joyce (1882-1941)
イプセン Ibsen (1828-1906)
フリードリッヒ・デュレンマット Friedrich Dürrenmatt (1921-1990)

音楽、絵画でもその影響は絶大であった。ワグナー Wagner (1813-1883)、マーラー Mahler (1860-1911)、シェーンベルグ Schönberg (1874-1951)、カンディンスキー Kandinski (1866-1944) などは、言ってしまえばショーペンハウアーの子供である。「街の灯」 « City Lights (Les lumières de la ville) » を撮る前の若きチャップリン (1889-1977) がロンドンで読んでいたのは「意思と表象としての世界」であった。

こうしてみると、ショーペンハウアーを知らずして、19-20世紀の芸術を理解することすらできないということがわかってくる。


なぜ今彼なのか? Purquoi revient-il aujourd'hui ?

1850年から1920年にかけて彼は最も読まれて影響力があったが、第一次世界大戦以降は忘れ去られていた。歴史の進歩を認めない、人類が向上するなどということをひと時も信じていない人の作品を共産主義者やヒトラー・ユーゲントやムッソリーニのファシストたちが取り上げただろうか。それに、大量殺戮など悲惨な現実を前にして彼の暗い作品など誰も読もうとしなかったということがあるのだろう。

今日、過去の大量虐殺の時代が遠のいているように見えること。政治的にもベルリンの壁崩壊以降、境界がぼやけていること、mondialisationなど。進歩がすべての処方箋ではなくなってきていること。快適に暮らしているようではあるが将来に対する不安に溢れていること。科学が問題の解決に寄与するよりはわれわれの生活を脅かすような問題を生み出しているように見えること。さらに付け加えれば、クローン人間、人間性喪失、愛の不毛、確かさのない幸福感、地球温暖化、エネルギー源の枯渇、狂信主義の復活、などなど。

このような背景が、schopenhauerisme が第三千年紀に復活してきた理由になるのだろうか。それだけではないかもしれない。彼は音楽家で、東洋と西洋の橋渡し役で、スケールの大きな文章家でもあった。しかも彼の冷酷さの裏側には限りない優しさがあった。深いところで心の友となる人なのである。

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フランス人の将来に対する感情を代表するのがペシミズムだとする調査結果がある。ショーペンハウアーが最悪を哲学した人だとすれば、フランス人にとっても大切な人になるだろう。

科学の分野ではその人がいなくても誰か別の人がやったであろうと思われるものが多い。しかし、芸術の世界ではその人でなければならないというところがあり、人間の凄さが出てくる。それに目を見張る。芸術家を愛する所以である。

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ショーペンハウアーとは(I)
ショーペンハウアーとは(II) 

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