今年の5月中旬、ゴッホ展に向かった時に(実際には人が多くて入るのを止めたのだが)フィリップス・コレクションがこの夏に来ることを知った。その時のことはすでに大昔のように感じる。そして今日その展覧会に行ってきた。
4時に会場の六本木ヒルズ52階の森アーツセンターギャラリーに入る。人が多いためか、ヨーロッパの疲れが残っているためか、最初は打ち込めなかったが、徐々に気に入った絵が出てきた。フィリップス・コレクションと言えば、ルノワールの 「舟遊びの昼食」 とのこと。確かにこの絵には物語があり、光(例えば、ガラスなどへの)が素晴らしい。このほか、
バルビゾン派のコローの絵 「ファルネーゼ庭園からの眺め:ローマ」、「ジェンザーノの眺め」: この世界に憧れを感じていた。
モネ 「ヴェトゥイユへの道」、「ヴァル・サン・ニコラ、ティエップ近傍(朝)」
シスレー 「ルーヴシェンヌの雪」: 雪景色への憧れがあるのだろうか、雰囲気がよかった。
シャヴァンヌ 「ギリシャの植民地、マッシリア」、「マルセイユ、東方への門」: 初めての画家。地中海の深い青で表現され、全体に暗い印象。ただ物語がありそう。
ボナール 「開かれた窓」、「棕櫚の木」、「リヴィエラ」: 醸し出されている”南”の雰囲気がリラックスさせてくれる。
デュフィ 「オペラ座」、「画家のアトリエ」: 淡い色使いで、軽快。
ジャコメッティ 「モニュメンタルな頭部」
ルソー 「ノートル・ダム」: 先日行ったロンドンの美術館でも小さいながら独特の雰囲気を出していたが、今回も小さい作品ながら彼の世界が広がっていた。
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今回カタログの写真を見て気付いたのだが、原画から受ける印象とは明らかに違うものがあった。例えば、コローの 「ファルネーゼ庭園からの眺め : ローマ」 で右の方から来る光の強さが壁の白で表現されているのだが、カタログではそれが感じられない。同様に、クールベ 「ムーティエの岩山」 でも光の強さが岩肌の色使いで表現されているが、カタログではそれが失われている。シャヴァンヌの絵もカタログでは健康な明るい青になっている。ゴヤ 「悔悛の聖ペテロ」 は全体にくすんでいるのだが、カタログでは異常なほどよく見える。ボナールの絵はいずれも大きく印象が強いのだが、カタログではそれが感じられない。カタログでは絵のサイズがすべて同じになるので、実際に見た時には全く違う印象を受けるものがあるのは仕方がないのかもしれない。(美術作品とコピーの関連は、以前から気になっているテーマです。例えば、2005.5.7、2005.4.24、2005.4.17 など。)
会場では美術に捧げたダンカン・フィリップスの生涯も紹介されていた。父と兄を失った後、これらの芸術作品に囲まれて生活したらしいが、一つの理想の生き方であったのかもしれない。
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ヨーロッパから帰ってきたばかりのせいか、これまでに感じていたことが強調されて見える。会場側にいる人の態度が、おそらくアルバイトがほとんどのためだろうが、ロボットのように感じられ(プロトコール化されすぎている?)、人間味が出ていないのだ。パリの美術館で感じたような歓迎の心のような柔らかさ、和みのようなものを余り重要視していないようだ。本来の日本人の良さが押し殺されているようにも感じる。5時少し前だっただろうか、ドーーンと下から突き上げられるようなものすごい音がしたと同時に数分に感じられたが横にゆっくり揺れた。その間、係の人がそっと支えてくれるという自然の優しさを示してくれた。非常事態でそれまでの人工的な姿勢がよりはっきりした。
6時を過ぎたあたりから人の数が急に少なくなり、各部屋に多くて数人という状況に。展覧会をゆっくり楽しもうと、さらに1時間ほど全体を見て回った。7時から松田理奈さんのバイオリン演奏(バッハのパルティータ第3番)を夜景を見ながら聞いて帰ってきた。
>シスレー 「ルーヴシェンヌの雪」
ステキでしたね。ブックマークを買ってきちゃいました♪
あの地震のときに、いらしたのですね。揺れ方はいかがでしたか?超高層ビルは、ショックアブソーバーをいろいろ考えているようですが、船酔い状態は起こしませんでしたか?
それにしても読み応えのあるblogですね!
時間をかけて読ませていただきます。
ところでpaul-ailleursといえば、フランス詩ですね。
ひとつお考えを聞きたくて、TBさせていただきます。駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
私は人生は95%の苦しみと5%の喜びと勝手に思っていますので、苦しみの後に苦しみしか待っていなくてもそーなのか、という受け止め方をしてきました。しかし、本当の喜びは苦しみの後にしか来ないような気がしています。
苦しみ苦しんでそこ(底)から抜け出たと感じたことが今まで一度だけありましたが、その前の苦しみと無関係ではないと思っています。その喜びも今では再び呼び起こすことが難しくなっています。ミラボー橋の下、確かにセーヌは流れているのでしょう。
先月パリに行っていましたが、残念ながらその姿を見る機会はありませんでした。
ところで、「どんな歌になったかというと、こんな感じなんですが、、、」のところをクリックしたところ、見覚えのあるCDが出てきました。わたしが持っているシャンソンの数少ない1枚でした。今それを聞きながら書いていました。
シャンソンのせいだと思います、長くなり失礼しました。またの訪問をお待ちしています。
52Fで地震に遭われたのですね。想像しただけでびくついています。とにかくご無事で何よりでした。
見終った後、爽快な気分にさせてもらえた展覧会でした。
どの色も本当に綺麗でした。
ボナールの絵は暖かな色味で、リゾート地にでもいるような安らぎを感じました。デュフィの絵の軽いタッチも洒落ててよかったです。
展示されている絵はもちろん素敵でしたが、ダンカン・フィリップスという人そのものにも興味を持ちました。フィリップス氏の邸宅で絵を観ると、また違った味わいがありそうですね。
この展覧会で私の受けた印象も、code_null さんのおしゃるとおりで、地震には肝を冷やしましたが、結果的には気持ちよく会場を後にすることができました。
確かに、機会があれば彼の邸宅で鑑賞してみたいものです。