本当にこういうことが起こるものなのか、ということがあった。
パリから成田に向かう機内で、若い日本女性と一緒になった。 « Sorry » と言って窓際の席についたので、日本人ではないのですか、とフランス語で聞いたところ、日本語で大丈夫ですと言う。それから彼女といろいろと話をする。最初に話した時に受けた印象が最近の若い子にありがちな閉ざされた感じがしなかったためだろうか、相手にされているという感じを受けたせいだろうか。この親爺うるさいな、くらい思っていたかもしれないが、話を続けた。聞いてみると、デュッセルドルフの大学でバイオリンの勉強した帰りだとのこと。向こうの大学に在学しているのかと思いきや、驚いたことに昨年の日本音楽コンクールのバイオリン部門で1位に輝いた松田理奈さんであった。昔少しだけ音楽をやっていたせいでコンクールのドキュメンタリーはよく見ていて、おそらく去年のコンクールの番組も見ていたはずなので、初めてのような気がしなかった。その前の年には3位だったとのことなので、そのこともインタビューで話していたように記憶している。
話していて、二十歳前の女性が世界のスケールでものを考え、浮ついたところもなく好感を持った。若い時(今よりも)から活躍しているようだが、テクニックだけではなく、その奥にあるものにも目が行っているようで、頼もしくも感じた。彼女の指が長いので聞いてみると、引いているうちに左手の方が長くなったとのこと。また指の先の肉に膨らみがあり理想的な形をしている。そう思うようになったのは、子どもの頃の刷り込みによると確信している。小学生の頃2年ほどピアノをやり全く才能がないことに気づいたのだが、それ以来その先生の指が理想だと思うようになってしまった。子供のころの記憶の傷は恐ろしいものである。
好きなバイオリニストを聞いてみると、彼女の先生と飛行機事故で亡くなったジネット・ヌヴー Ginette Neveu (1919-1949) をあげていた。ヌヴーは初めての名前だが、どんな演奏をするのか聞いてみたい気がする。この秋にはパリに出かけてコンクールに挑戦するとのことである。余り焦らずに大きく育ってほしい。コンクールと芸術とは関係がないと言う人もいるようだ。以前に読んだ内田光子のインタビューのことを思い出し、少しだけ話した。おそらく、20年、30年後に素晴らしい芸術家に熟成するようにと願っていたのだろうか。とりあえず次の演奏会の予定を教えていただいたので、楽しみにしたい。
今回は不思議な、夢のような出会いが多かったが、今日はその旅行を締めくくるのにふさわしい日になったようだ。
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松田理奈さんのコンサート(10 septembre 2005)