この日曜日(17日)に、NHK-ETV で 「木下晋-老いを描く」 という番組を見る。
やや写真家荒木経惟に似た風貌を持つ木下氏は、30代中頃に自分の絵をニューヨークに持って行くが、全く評価されずに失意の帰国をする。その数日後に三味線を携え農村・山村を巡る盲目の女性遊行芸人である瞽女(ごぜ)、小林ハルさんと運命の出会いをしたという。
テレビに映っていたハルさんの顔を見たが、張りがあって輝いているように見え、素晴らしい。彼は、彼女の語る世界が色に満ちていて豊かなのに驚き、心を打たれる。おそらくそのためだろうか、彼はそれ以後、黒鉛筆だけで肖像画を描き続ける道を選んだようだ。
末っ子が餓死した後、家族を捨てて放浪の旅に出た彼の母親セキさんも、残酷なくらい執拗に描いている。彼が38歳の時にセキさんが車に撥ねられて亡くなる。奥さんの話によると、その時彼は自分の部屋に閉じこもり号泣していたという。後にも先にもそういう姿を見たことはないようだ。
自宅の狭い部屋をアトリエとして、何の衒いもなく黙々と仕事をしている。本当にやろうという気持ちがあれば、これでいいのだと思わせてくれるものがそこにあった。彼の描く対象は見ていてやや苦しくなるようで、私とのアフィニティはなさそうだが、鉛筆だけで人間の本質に迫ろうとする彼の気迫や自らの独自の世界を築き上げようとする意思には感動するものがあった。