考えてみたら「辞表」というものを出してなかった。
そんなもん出さんと「早よう辞めさせ。退職金は1億
に負けといてやる」と喚いていたのですから、人事部
も困り果てたと思う。
しかし「辞表」は書くべきだった。
「一身上の都合により」なんて誰が書くものか。
好きな重役、皆追い出してTACじゃなかったCAT。
猫が銀行の操り人形の会社なんかに居られるか。
オレ様は「アイ・ドントノウ・ヒム」なんだ。
それが名誉だ。
そうハッキリと退職理由を書いてやればよかった。
惜しいことをした。そう思います、本心から。
正式にクビになったつもりでいたのに、社内報には
「依願退職された」と書いてあると聞き、人事部長
に電話して、
「なんで、ハッキリ、クビにしてやったと書かんのや」
と怒鳴りあげたった。まともな商社マンじゃなかったな。
ともかく天下晴れて失業者になったから、失業保険
貰おうかと職安に出かけていった。
職安は阪急線の池田にあり、すぐに退職金が出るわけ
じゃなく、就職希望者として登録をさせられた。
係りの職員が、ボクを哀れむような目で、好奇心も
隠し切れない目もして、いろいろと尋ねる。
面白いから、こっちも芝居をする。
「なんでまた、こんな良い会社を辞めたんですか」
「実はこれで会社を辞める羽目に」と、小指を立てて
見せる。
職員は身体を乗り出し、「誰かまずい相手ですか」
「社長が口説きに口説いて振られたとウワサの有った」
「へ~え、それで社長の圧力でも・・・」
「よっぽど悔しかったんでしょうネ」
「それで、これからどうします。ここには貴方の希望に
適う仕事は無いと思いますよ」
「そうでしょうね」と肩を落とし、しょんぼりして見せる。
どんな連中が仕事を探し、どんな仕事の求人があるのか
閲覧できる場所で調べていたら、先ほどの職員が仲間を
集めて、盛んにボクのことを話している様子だった。
仲間の連中がチラチラとこっちを盗み見するから分かるんだ。
パパゲーノ
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