今更海外旅行に行きたいという気持ちはない。
一般人が海外に旅行するなんて考えられなかった時代に、
ドイツ駐在の幸運に恵まれたから、スイスアルプスの
登山列車に乗っても、日本人の姿を見ることは滅多に
なかった古き良き時代。
それでも生きている間に、ここだけは是非見ておきたいと
想う場所がある。中国の遼東半島に位置する大連だ。
ボクは昭和9年にこの町で生まれた。
まだ赤ん坊の間に奉天(今の瀋陽)に引っ越したから、
何の記憶もない。清岡卓行という詩人が芥川賞を取った、
「アカシアの大連」の文章を呼んで、思いを馳せるのみで
ある。
高校の同級生の中に、世界中を駆け廻っている女性が
居て、最近大連に行って来たことを昨夜電話で聞いた。
彼女は中国の各地もあちらこちら訪ねているが、大連だけ
は他のどの地よりも別の趣があるのだと。
ボクは週に三度の人工透析を欠かせない身体なのだが、
クリニックの婦長さんが、「今の状態なら週に一回ぐらい
抜いても影響ありません」と言ってくれたから、金曜日か
月曜日の透析を外して週末利用で、生まれ故郷を訪れる
ことは可能なのである。
この土地の人々は、今に至るもなお、日露戦争の日本側
の名将たちを尊敬する念が強いとも聞いた。
ボクの生まれた町は、山縣通りで、陸軍総参謀長、
山縣有朋に因む。
来年のアカシアの季節にでも実行したいと思っている。