作家 小林真一のブログ パパゲーノの華麗な生活

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【 新・腰痛治療日記(5) 】

2010-01-05 18:41:40 | 08 腰痛治療日記


問題の5月21日はすぐに来た。
担当のナースが一人でベッドを押して手術室に向かった。
麻酔担当のドクターが先ず現れた。
ボクの記憶はそこで切れている。

ボクの病状からみて、手術にはもっと時間が掛かると
判断されたらしい。やや大目の麻酔が体内に入りボクは
昏睡した。
かなり難解な手術と見られていたのが、名医の腕によって
意外な短時間で終ったとは後で聞いたこと。1時間半で
終ったのに当の患者であるボクは何ごとが起きたかも
知らず、昏々と眠り続け深夜3時ごろになって漸く眼を
覚ます。
「小林さん、手術は無事に終りましたよ」との先生方の声は
確かに聞こえていたのだが、応答することが出来ぬままに
眠り込み、深夜に至ったのであった。

ボクは夢の世界にいた。何故か知らぬが近江の国に進軍
していた。大勢の近臣や部下が居た筈なのに、それらの
者から離れて一人で笹の生い茂るところに迷い込んでいた。
霧が深かった。
闇が迫っていたから夕刻であったろう。風が吹いて霧の
一部に晴れ間が出来て前方の景色が見えた。すぐ前に
川が流れていた。

姉川にしては狭すぎるから、これは藤古川であろうと
見当を付けた。しかし藤古川とは何ゆえか、それが理解
できなかった。
誰の姿も無かった川の向こう岸に、甲冑に身を固めた
武者が現れて跪き、口上を述べた。

「あいやお待ちくださいませ。この河原一帯にもはや敵の
気配はございません。我ら前田家の手勢で敵を一掃して
ございます。
こちら側にお越しになるには及びません」

甲冑姿の武者が消え、耳元で女声が聞こえた。
侍女どもは軍勢の中に入れていなかった筈、さて面妖なと
眼を凝らしたら、そこにナースの制服姿があった。当夜の
夜勤担当のナースであるとは直ぐには分からなかった。

声を出そうとしたが出なかった。やたらと息苦しかった。
ナースは入れ代わり立ち代わってやって来た。
「気がつきましたか、大丈夫ですか」
返事をしようと思うのだが、声が出ないから大いに慌てた。
そこから悪戦苦闘の数時間が始まる。ボクが言うところの
藤古川の一戦である。しかし敵は何故にナースの制服を
まとっているのだろう。

しかしなあ、藤古川といったら壬申の乱じゃないか。
時代が古すぎちゃいないか。十六世紀に居た筈なのに
七世紀に飛んでいる。時空が異なり過ぎているじゃないか。

どんな戦いよりも苦しい、呼吸困難との苦闘は、夜が空けて
麻酔科のドクターがやって来るまで続いた。前日に手術を
終えたまま目覚めないボクには、人工呼吸器が取り付け
られていたらしい。これを付けると己の力では空気を
吸うことが出来なくなる。

「こりゃ苦しそうだわ、苦しいでしょう」
のどの奥にチューブが差し込まれていたのが外されて、
ボクは蘇生の思いに浸ることが出来た。
自力で吸う酸素は格別だ。


                    パパゲーノ



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