コンクリートの大地を蹴る。
距離が近いこともあって一息で銀髪の女性の懐へ飛び込めた。
女性、いや女性の姿を形どった吸血鬼が行動に移すよりも早く、より早く体を動かす。
さらに刹那の時間。
僅かばかり眼鏡をずらす。
そして視界にはあらゆる場所に線が不気味に蠢く世界が映し出される。
直死の魔眼。
かつて俺が死を理解したことで会得した異能。
「モノの死」を視界情報として捉え、それに触れることが出来るもの。
俺はこの「モノの死」を線と点という視界情報で取り組み、
その線や点に触れることで「存在の寿命」という概念を殺すことができる。
その対象となるのは生物だけに留まらず森羅万象あらゆる概念であり、
だから俺はかつて人間には対抗不可能な化け物であったアルクェイドを殺すことが出来た。
けど、俺は覚えている。
この力は良くないものだという事を先生から教えてもらったのを。
やがては俺自身の命を削り、破滅へと導くことは薄々気づいている。
が、今はこの力だけが頼りだ。
だから俺は一切の躊躇の欠片もなくナイフを振るう。
横薙ぎの一閃。
女性が咄嗟に腕で体を守ろうとするが遅い。
肘を切断、そのまま流れるように腹から斜め上に向けて一気に「線」に沿ってナイフを走らせた。
「こふ――――」
贓物が漏れ出すと同時に、銀髪の女性の口から血が漏れる。
致命傷を与えることに成功したが、これで終わりなんてしない。
相手に休む時間なんて与えるつもりはない。
ナイフを振り払いから、突く様に持ち替える。
狙うはただ一つ、奴の「点」である心臓のみ――――開幕早々終わりだ、吸血鬼!
「ふっ!」
直後。
ずぶり、と肉に刃物が突き立つ感触が手から伝わる。
女性の白いコートからは血がにじみ出ていた。
「あ、れ―――?」
ようやく自分の状況を理解できたのか、
女性が疑問の声を口しにし、赤い瞳が驚愕の目で俺を見ていた。
「ようやく気づいたのか?ふん、役者として落第点だ」
シオンを苦しめた吸血鬼にしては実にあっけない終わり方だ。
これで、この町を騒がした吸血鬼は退治され、俺は元の日常へ戻るだけ―――。
「あは、」
「なっ」
そう思ったが、吸血鬼は嗤っていた。
死の「点」を突かれてもなお嗤っていた。