モンスターのご主人様
異世界トリップ物のSSです。
1000人の高校生がまとめて竜を含むモンスターが彷徨う異世界の森にトリップ。
だが、チート能力の発現により、辛うじて異世界での共同生活を開始するが、仲間割れが勃発。
主人公、真島孝弘は、暴行を受けるがかろうじて逃げ延びるが、ただ1人モンスターの跋扈する危険な森の中をさまよう。
そして、死に掛けた彼のことを助けたのは――――1匹のスライムだった。
こうして第一次遠征隊が結成された。彼らの目的は、この森を抜けることだった。
今から考えれば、その名称には皮肉めいたものを感じずにはいられない。
何故なら、遠征隊が二度目に派遣されることは永遠になかったのだから。
おれたちの仮の住居であるコロニーは、探索隊が出ていった一週間後に壊滅した。
チート能力者の一部がクーデターを起こしたのだ。
かつていた世界から、法律の存在しない異世界の森の中に放り出された学生たちがモラルを保ち続けることは難しいことだった。それも、チート能力なんてものを持っていれば尚更のことだ。力は人を狂わせる。若さは道を誤らせる。そういうことだ。
志の高い者が集まった第一次遠征隊の留守を狙って、反乱グループはクーデターを企てた。
治安を守ろうとする学生と、反乱グループの学生との間で、激しい戦闘が行われた。
チート能力というのは、竜をも簡単に殺す力だ。
そんなものを持つ者同士がぶつかったのだから、チート能力を持たない生徒たちは、おれも含めて逃げ惑うしかなかった。
逃げ惑うだけなら、まだ良かった。
理性を失っているのは、一部のチート能力者だけではなかったのだ。
能力を持たない学生たちもまた、凶行に身を委ねた。
そんな中、おれは同じ残留組の生徒たちから激しい暴行を受けた。
何が悪かったのかと言えば、運が悪かったのだろうと思う。
おれの他にもそうした人間は何人もいて、彼らは騒ぎの生贄だった。
誰も助けてはくれなかった。
みんなそれどころではなかったのだろう。
誰もが生き残るために必死だった。それは、理性では理解できた。
だが、感情は別だ。
何人もの生徒が暴行を受けるおれのことを見て、
見て見ぬ振りをして逃げていく光景は、おれの心をずたずたに引き裂いていった。
おれが助かったのは、単純に運が良かったからだ。
丁度、近くでチート能力者同士の戦いが始まり、その余波を受けたのだ。
おれに暴力を振るっていた学生たちは、みんな黒い灰になってしまっていた。
地面に倒れていたおれだけが助かった。
ただの運だ。死んでいても、殺されてしまっていても、なんらおかしくはなかった。
そう認識した途端に、傷つききっていた心が、とても虚ろになったのを覚えている。
傷ついた体をひきずって、おれは森の奥へと逃げ出し、数日間森の中を彷徨った。
そして、今朝方、洞窟を見付けてそこに逃げ込んだのだった。
命からがら逃げ込む場所を見つけたおれだったが、そこから先はどうしようもなかった。
なろうから書籍化されたSSです。