おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「そろそろ旅に」 松井今朝子

2008年04月22日 | ま行の作家
「そろそろ旅に」 松井今朝子著 講談社 (08/04/21読了)

 ああ、楽しかった! 岩手日日新聞、東奥日報、愛媛新聞などの地方紙に連載された新聞小説に加筆修正したものとのこと。こんな面白いものを真っ先に読めた地方紙の読者の方が羨ましくもあり、でも、「続きはまた明日」とちょっとずつ小出しにしか読ませてもらえないのはストレスが溜まりそうかも…と思ったりもしました。

 さすが、松井さん!小説としてのストーリーも楽しいし、文章のテンポが心地良いことは言うまでもありません。その上、ちょっとした江戸文化の“通”になった気分も味わえます。というのも、「そういえば、日本史の教科書に載ってた」と誰もが心当たるような超有名系の江戸文化人が多数登場するのです。もちろん、教科書で勉強したのははるか昔のことなので、その有名文化人がどんな分野で作品を残しているかなどはすっかり忘却の彼方なのですが、ストーリーを追っていくと「そうそう、この人の代表作ってコレコレ!」「あ、この作品ってめちゃめちゃ有名じゃん!」という感じで記憶がよみがえってくるのです。これまで、単なる歴史上の人物だった人々が、松井さんの小説の中では、人生を謳歌し、時に、ライバルに嫉妬したり、ユウワクに負けて女遊びにウツツを抜かしたり-となんとも、愛すべき存在として描かれていまいす。江戸時代の出版社と作者の関係も、とっても興味深い。現代の日本でも、数年前の「国家の品格」以来、“品格本”がやたらと目に付きますが…大ヒット作が世に出ると、二匹目のどじょうを狙って、類似作品があちこちの出版社から相次いで出版されるのは、今も昔も同じなんだなぁ-と。

 ちなみに、主人公の重田与七郎という侍も、後に、誰でも知っている超有名文化人となります。与七郎はその代表作に相応しい根無し草的な人生を歩み、でも、決して、退廃に陥ることなく、ちょっとオトボケ、茶目っ気たっぷりな粋人を通したのです。最後に紹介されている辞世の歌がなんともステキ。こんなにカッコよく最後の旅に出発するなんて、本当に粋です!

 ところで、新聞小説の連載終了後に出版される本について、共通して思うことがあります。ま、わからないでもないのですが…連載の真ん中辺は、同じようなエピソードの繰り返しや、さほど重要とも思えない場面(と、思うのは、私の理解力が低いから?)を微に入り細に入って描写して、やや中だるみ。そして、もっとじっくり読みたいようなフィナーレが駆け足ぎみのような気がするのです。「そろそろ旅に」もちょっとだけ、そういう印象を持ちました。でも、上に書いた辞世の歌のお陰で、めちゃめちゃ後味良い作品なんですよね。読み終わって、清清しい-夜更かしした甲斐がありました!


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