おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「間宮兄弟」 江國香織

2011年01月25日 | あ行の作家
「間宮兄弟」 江國香織著 小学館 11/01/25読了 
 
 昨年まで住んでいたマンションの下の階に男兄弟2人で暮らしている世帯があった。年の頃は…40代前半と半ばぐらい。礼儀正しく、エレベーターで会えばキチンと挨拶するし、駐車スペースもゴミ出しルールもキチンと守って誰に迷惑を掛けることもない。深夜に、シラフでコンビニの袋をぶら下げて帰ってくる場面に何度も遭遇したことがあるので、遅くまで仕事をしている人なのかなぁ―と思ったりもした。2人とも相撲取りになれそうなぐらい立派な体型なのだが、休日になると、よく軽自動車の運転席と助手席にギチギチに押し込まれるようにして2人で出掛けていくところにでくわした。

 ファミリータイプの分譲マンションで、小学生や中学生の子どもがいる世帯や、子どもが巣立って夫婦でペットと暮らしているような世帯が多かった。そんなところで、ガタイのいい中年男2人、何を思って暮らしていたのだろうか―。 な~んていうのは余計なお世話で、本人たちは気の合う兄弟同士、日々の生活を楽しんでいたのかもしれない。

 だから、「間宮兄弟」のような恋愛経験ゼロ、結婚の見通しゼロ、これ以上、傷つかないために兄弟が肩を寄せ合って暮らしているという設定が必ずしも奇想天外とは思わない。
だけど、この物語の中で圧倒的にリアリティがあるのは「間宮兄弟以外」だった。

 特に、間宮兄の唯一の友人でもある会社の同僚、大西賢太の妻・沙織の存在感がスゴイ。大西賢太は会社のずっと年上の女性と不倫していたことが妻に発覚し、離婚を切り出す。しかし、沙織は絶対に別れようとしない。「私だって、今さら、元通りになれないことは知っている」。そう、愛情など自分にだって残っていないのだ。しかし、別れれば、いやがおうでも、かつて、自分がその男を選び、愛し、日々を共にしたことを思い返さずにはいられないことが怖いのだ。愛情が底をつきても、惰性の日々を送っていれば、過去に目をつぶっていられる。

 沙織の言動には、同じ女としてゾクッとするというか…自分の醜い部分を見せつけられているような快感と不快感がないまぜになった感じがする。「残念だったわね。あなたを愛していた頃だったら、別れてあげたのに」―という言葉も真実味あるなぁ。愛情が無いから、別れるためにエネルギーを使う気力なんて湧いてこないのだ。そして、沙織に密かに思いを寄せる間宮弟を何のためらいもなく切り捨て御免に処するところも、納得する。

 ドランクドラゴンのツカジと佐々木蔵之介を主演にしてこの小説が映画化されたのが2006年(もちろん、見ていない)。当時は、まだ、「草食系」というこういう言葉はなかったと思うけれど、間宮兄弟は草食系の先駆だな。沙織みたいな、見た目はキレイだけど、実は怖い女の姿を見るにつけ、間宮兄弟はますます、恋愛から遠ざかっていくわけですな。

 平易な文章で、パラパラと読めて、暇つぶしには悪くない。直前に読んだ「男は敵、女はもっと敵」(山本幸久著)と同様に、キラキラと光るパーツはたくさん散りばめられている。でも、全体としての物語性というか、another worldに引きずり込まれるようになワクワク感には欠けているような気がする。


「男は敵、女はもっと敵」 山本幸久

2011年01月25日 | や行の作家
「男は敵、女はもっと敵」 山本幸久著 集英社文庫 11/01/24読了 

 文章のリズムは良いし、主人公の高坂藍子はエラい美人だけど、ちょっとワケありで、なにやら、面白げな設定である。不倫していた男が、いつまでも妻と離婚しないことにキレて、手近にいる中で最も冴えない男と結婚するものの、凡庸で刺激の無い男との暮らしにウンザリしてあっさり半年で離婚。こういうふうに衝動的に行動出来る人にはちょっと憧れるな(でも、好きでもない男と結婚するのは、やっぱり得策じゃない)。

 で、藍子の元不倫相手、元夫、元夫の新しい妻、不倫相手の元妻―それぞれの思いや、恋愛模様をアンソロジー風に綴っていく。パーツ、パーツは「上手いなぁ~」と激しく頷くところも多々あり。人間関係の機微って難しいんだよね~と思わされる。

 でも、全体のストーリーとしては散漫だし、面白みがイマイチですなぁ。物語としての醍醐味は最後までわからないままでした。「いったいこの人は何のためにここにいるの???」と聞きたくなるような存在意義がよくわからない登場人物もたくさんいた。

 どうせなら、藍子とその不倫相手ファミリーに絞った方が物語としては面白かったんじゃないだろうか。不倫相手の息子がなかなかいいキャラなのだ。そして、もとの鞘に戻ることはないけれど、一度は別れてしまった不倫男と元妻が新たなつながり方を見つけていくエピソードはステキだなと思った。この4人をメインプレーヤーにして同じぐらいの分量の原稿にしたら、グッと心に響いてくるような気がする。

 ついでながら、文庫版の最後に「オマケ」として収録されているストーリーには著者の代表作である「笑う招き猫」のメインキャラクターである女性漫才コンビが登場する。「笑う招き猫」を読んでいない読者は、「なんでここで漫才コンビが登場するのだろうか?」という唐突さに困惑するのでないだろうか?山本幸久ファンにだけ通じる(私はファンではなくて、たまたま読んだことがあったというだけ)内輪ウケっぽいネタふりは、なんか感じ悪いなぁ。まぁ、オマケだからいいけど…。


 ところで、「男は敵、女はもっと敵」なのだろうか? 少なくとも、ストーリーからはそんなニュアンスは微塵も感じなかった。