おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「ロマンス小説の7日間」 三浦しをん

2009年01月07日 | ま行の作家
「ロマンス小説の7日間」 三浦しをん著 角川文庫 (09/01/07読了)

 「そうか、三浦しをんって、こういう恋愛小説も書けるのか!」-という驚きと共に、ホンワリと心地よい読後感で満たされました。三浦しをんの長編と言えば、「まほろ駅前多田便利軒」のような暗い雲が垂れ込めたような湿り気のある文章や、「風が強く吹いている」(=駅伝)「仏果を得ず」(=文楽)のような、マイナーワールドを舞台にしたものが多く、いわゆるフツーの恋愛小説を彼女が書くとは-想像だにしていなかったのでとっても新鮮です。

 小説の「作り」自体はちょっと、凝っている。主人公のあかりちゃんは翻訳家。ハーレクインロマンス・シリーズのような洋モノのラブロマンスの翻訳を生業としている。現在は、中世の騎士とお姫様のラブロマンス翻訳中という設定。この翻訳中の恋物語が、劇中劇ならぬ小説中小説として、あかりちゃん本人の恋愛にも多いに影響を及ぼすというか…あかりちゃんの恋愛が紆余曲折するために、翻訳がどんどんハチャメチャになっていく。7日間に渡る翻訳作業&現実世界での恋物語が交互に語られ、それが、相互に絡み合っているのが、面白い。

三浦さんご本人が後書きで、いわゆる恋愛小説を書き慣れていないゆえの苦労を語っていますが、ハーレクインロマンス風の濃密な恋愛小説部分に、翻訳をしながらあかりちゃんが突っ込みをいれているところが、三浦さん自身が、恋愛小説を書いている自分に突っ込みを入れているようで、ちょっと、微笑ましかったです。

深く深く心に残るものではありませんが、気持ちの良い結末で、ちょっと気分転換に読む軽い読み物としては、「たまには恋愛小説もいいじゃない」という気分になれました。でも、三浦しをんの本領は、やっぱり、恋愛小説ではないと思います。