ホラー映画はもう観ない、とか言っておきながら、最近また、観る機会が増えてきた気がする。
1週廻って、元に戻ったという感じかな。でも以前とはちょっと違う。
以前はもっと刺激を求めていた気がするけど、今は違う。何というか、普通の映画ではあまり描かれないような事が描かれており、そこから何かが読み取れたら、面白いかな、なんてことを思っています。
まあ、そんなに真剣なものでもないですけどね。要は映画として面白ければ、それでいいので。
さて、ここから先はネタバレ三昧です。自己責任でお願いします。
泣いてもしらんどー。
福岡県某所にある「旧犬鳴トンネル」。
心霊スポットとして全国的に有名な場所ですが、現在は入口に石積みの塀が築かれ、中には入れないようになっている、
はずなのですが…。
どういうわけか、塀の上の部分に隙間があって、石づたいに塀を上っていけば、この隙間から中に入れちゃう。
この辺がなんとも、やらしい(笑)
このトンネルの向こうには、かつて「犬鳴村」という、日本国の法が及ばない村があった。
現在はダムの底に沈んでいるその村の住人達は、地元の人々から激しい差別と迫害を受けていたらしい。
彼ら村人たちは山犬を殺してこれを吊るすという独特の風俗を持ち、「いぬごろし」と呼ばれ忌避されていたという。
ダム建設に際し、その村人たちは何処へ行ってしまったのか?
そこに隠された陰惨な秘密とは?
霊が見えるという臨床心理士・森田奏(三吉彩花)の周辺で次々と起こる怪異。彼女の父(高嶋政伸)は、なにかを知っている様子だが、怯えて何も話そうとしない。
奏は母方の祖父(石橋蓮司)から、亡くなった祖母が実は捨て子だったことを聞かされます。どうやら水没前の犬鳴村から運ばれてきた赤ん坊だったらしい。
奏は幼い頃に、祖母とテレパシーで会話したことを覚えていました。祖母や自分にある不思議な力の源泉は、犬鳴村からの「血」なのだろうか。
度重なる怪異と事件、そんな中今度は奏の母(高島礼子)が、まるで犬のような四つん這いの姿勢で、生肉を貪り始めます。父は只々狼狽するばかり。
祖母、母、そして自分へと連なる犬鳴村の「血」。そんな折、今度は兄と弟が、トンネルの入口の隙間から、中へ入ってしまう。
二人を救出すべく、奏もトンネルの中へと入っていく。そのトンネルの向こうには、水没したはずの犬鳴村が存在していた!?
奏が至った犬鳴村は、時空を越えた過去の犬鳴村、水没前の犬鳴村でした。奏は村の若者から、赤ん坊を託されます。
「俺たちの血筋を絶やさないでくれ!」
兄と弟を救出し、村から脱出する奏。しかし赤ん坊を奪われたと思った母親が、犬のような牙を生やしながら追ってくる!その後に続く、無数の村人の亡霊。
奏の兄は自らを犠牲にして、奏と弟をトンネルの外へと逃がします。
後に祖父となる少年の家の庭先に、赤ん坊を置いていく奏。後に祖母となる赤ん坊は、時空を超えた奏自身によって運ばれてきたのでした。
以後、母親は回復し、それを甲斐甲斐しく世話する父。普通の日常が戻った、
少なくとも、表面上は…。
臨床心理士の仕事を続ける奏。その口からチラリと覗く
犬のような牙!
犬鳴村の血筋は、絶えることなく続いています…。
犬鳴村の血筋とは、何だったのでしょう。
それはおそらく、本来は犬ではなく、「狼の血族」だったのではあるまいか。
大自然の精霊。神の使いである狼の血を引くものたち。かつて太古においては敬われ、祀られ、そして畏れられた人々。
しかし時代が下るにつれて人々の意識は変わり、かつて神だった者たちは妖怪変化の類へと零落していく。そうして恐怖の対象となり、差別と迫害を受けるに至った。
それが、犬鳴村の人々
だったのではあるまいか。
その零落した神の末裔たちを、ダム建設に事寄せて、滅ぼそうとした者たちがいた?
それが、犬鳴村の悲劇の秘密
なのかも知れない。
この辺りのことは、映画の中ではほとんど触れられておらず、ほぼ全ては私個人の妄想であります。おそらく清水崇監督は、そんな細かいところまで考えてなかったんじゃないか、という気がしますけどね(笑)
ともかくも、滅びようとしていた一族の血は守られた。そうして市井の中に埋もれながら、
細々と、しかし確実に
伝えられていくのでしょう。
生き物の悲願、それは「血筋」を絶やさず伝えて行くこと。
狼の血族もまた、生き物のなすべきことをしようとしたまでのこと。
何者からも、邪魔される謂れはない。
そうか、つまりこの映画は、アニメ『おおかみこどもの雨と雪』のホラー版なのだな。
確かにホラーだけど、そこには生きようとする命の悲願があったのだ。
そういう視点から見れば、結構面白いかもしれない。
何事も視点ですよ、
視点。
『犬鳴村』
監督・脚本 清水崇
出演
三吉彩花
坂東龍汰
古川毅
宮野陽名
大谷凛香
奥菜恵
須賀貴匡
田中健
寺田農
高嶋政伸
高島礼子
石橋蓮司
令和2年 東映映画