
主に北東北で信仰されている民間信仰に、「オシラサマ」があります。
農業一般の神であり、狩猟の神でもあり、また馬の神でもあり、養蚕の神でもある。
このオシラサマ由来譚には、有名な悲恋物語がありますね。
【ある豪農の家の娘が、家で飼っていた馬と恋仲になり、娘は馬の下へ嫁いだ。
これを怒った娘の父親は、その馬を連れ出すと木にかけて殺してしまった。
悲しんだ娘が馬の死骸に縋り付くと、たちまち娘を乗せたまま、天へと駆けていった。
嘆き悲しむ父親の枕元に娘が立ち、「馬の顔をした虫を桑の葉に乗せて育てて糸を紡げば、家は繁栄するでしょう」と告げ、その通りにしたところ、本当に家は裕福になった】
大体こんな感じの話です。柳田國男の「遠野物語」に所収されているこの話から察するに、馬産と養蚕は当時の農民にとって、大変重要な収入源だった。家に富を齎す神としての「御蔭」を望む、そんな民間信仰、それが「オシラサマ」であった、基本的にはそう見て差し支えないでしょう。もちろんその背景には、色々複雑に入り組んだ「歴史」の積み重ねがあるのでしょうね。
さて、モスラの幼虫ですが、あれはどうみても「蚕」ですね。
養蚕と機織は神話にも記述されているとおり、太古の昔より、主に女性の仕事とされてきたようです。私の父の実家にも、今はなくなってしまった古い母屋に二階があって、昔はこの二階で蚕を育て、機を織っていたのだ、という話を聞いたことがあります。
養蚕の歴史やオシラサマ由来譚等、ことほど左様に、「御蚕様」と女性とは大変縁が深い。モスラはその、御蚕様なんです。
だから、なのでしょうか。
モスラは、女性に大変人気が高い。
元々『モスラ』という映画は、「女性にも受け入れられる、ファンタジックで華やかな怪獣映画を」作るというモットーを掲げて制作された映画です。
華やかなのはわかるのですが、何故「蛾」の怪獣なんだ?
だって、蛾みたいな虫、普通女性は嫌いでしょ?あくまで一般論ではありますが、それにしても、虫が好きな女性はそう多くはないような気がします。
まあ、怪獣になった段階で、リアルな虫ではなくなったわけで、だから翅の模様の綺麗さとか、幼虫くんの顔の可愛らしさとか、そういう面で女性受けしたのだろうか、などと考えておりましたが、どうにも釈然としないものがあったんです。
それが、この「御蚕様」をキーとして、やっと解けたような気がしました。
太古よりの、女性と蚕の関係性。これが、モスラに惹かれる女性たちの根底に流れる、「血に刻まれた記憶」であったとするなら、
そう考えれば、私には納得できる。
そんな気がします。
制作者サイドがそこまで考えて、蛾の怪獣にしたのだとすれば、
スゴイね。
ザ・ピーナッツ 「モスラの歌」
続きます。
ゴジラやラドン、キングギドラの人気には共感できても、モスラ人気には今一つ共感が見いだせずにいたのですが、やっと分かった気がしました。ありがたいことです。
『永遠の0』渋谷将太くん、出てたでしょ?(笑)
私の小学生時代には蚕を育てる授業あったなぁ。なんでこんなものを、と思ってたけど必要な授業だったのよね。
私は本当は天然の麻を育ててみたいのだけど、って関係無い話だね。
後編はどんな話かな?ワクワク。