風の向くまま薫るまま

その日その時、感じたままに。

中村仲蔵の「型」

2018-08-27 07:07:46 | 時代劇






「仮名手本忠臣蔵」は文楽や歌舞伎の人気演目。御存じかとは思いますが、赤穂浪士による吉良邸討ち入りを題材としたお話です。


とはいえ、そのまま取り上げたのではなにかと都合が悪い。そこで時代設定は室町時代とされ、登場人物もその時代の人物と置き換えられます。


吉良上野介は「高師直」。浅野内匠頭は「塩谷判官」に置き換えられ、大石内蔵助は「大星由良之助」と微妙に名前を変えられます。



こうして名前を変えられら実在の人物や、架空の人物が入り乱れながら物語は進んで行くわけです。演目は全部で十一段あり非常に長い。



この長い忠臣蔵の第五段目に、斧定九郎という人物が登場します。



父親は斧九大夫、モデルとなったのは元赤穂藩家老の大野九郎兵衛です。大野九郎兵衛は赤穂藩お取り潰しに際し、とっとと出奔してしまったとされる人物で、忠臣蔵界隈では非常に評判が悪い。そんな人物の息子ということで、この斧定九郎も悪人として登場するわけです。



この定九郎、元々の原作では山賊に身を窶したという設定になっており、みすぼらしい蓑を身に着けて登場し、老人を殺して金を奪う。派手さも面白みもまるでない「つまらない」役とされ、観客もこの第五段目は弁当の時間とされ、誰も舞台など見ていなかったそうな。


この状況を大きく変えた人物がいます。


江戸時代の歌舞伎役者、初代中村仲蔵です。


当時仲蔵は人気急上昇中の役者でしたが、こんなつまらない役を割り振られたことで一時は意気消沈してしまいます。しかし心機一転、この度つまらない役を面白い、見ごたえのある役に変えてしまおうということで、



山賊という設定を浪人者に変え、みすぼらしい蓑を着ていた姿から、伸び放題の月代に黒縮緬の単物を身に着け、黒鞘の大小を腰に挿した浪人姿で登場したのです。袴をつけないその着物の裾からチラリと伺える素足が色気を醸しだし、これが観客の大評判を呼ぶことになるのです。


斧定九郎は老人を殺して金を奪うわけですが、その後、イノシシと間違えられて猟銃で撃たれて死んでしまう。撃たれたとき、定九郎は口から多量の血糊をたらし、その血糊が剥き出しの太ももの上に垂れて、白い太ももが真っ赤に染まるという、凄絶且つ色っぽい演出を施すことで、つまらない役を派手で見ごたえのある役に変えてしまった。





初代中村仲蔵の斧定九郎



以後の歌舞伎では、この「仲蔵型」が定番となり、今日まで伝わっています。悪のロマンといいますか、不良のカッコよさとでもいいましょうか、大衆はこういうものを求めたがる。この傾向は古今変わらないようです。


リアリティよりも「夢」。エンタメは「夢」


ですねえ。




この「仲蔵型」のスタイルは時代劇にも継承され、ヒーローのスタイルの一つとして定着していますね。中山安兵衛(後の堀部安兵衛)が裾をからげて素足丸出しで仇討の現場へ走るシーンなどはその典型だし、渡辺謙さんが20年程前に演じた『御家人斬九郎』などは、この斧定九郎を相当意識したスタイルのように思えます。同じ「九郎」だし(笑)。







『御家人斬九郎』の主人公・松平残九郎(渡辺謙)



時代劇というのはリアルさとファンタジー性とか絶妙に合体した「夢」を見せてくれる。工夫次第で「つまらない」話を面白く見ごたえのある作品に作り替えることも出来る。



時代劇にはまだまだ、可能性がある、そんな風に思いますねえ。



時代劇は日本の大切は伝統文化。伝統は時代とともに歩むもの。


現代という時代とともにある、新たな「時代劇」の展開を望むものです。

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2 コメント

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Unknown (薫風亭奥大道)
2018-08-28 05:39:12
チャメさん、発想の転換、大事だね。
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Unknown (チャメゴン)
2018-08-27 23:48:21
物事は考えようで、心機一転・一念発起、ですね!!
時代劇が現代でも未来でも受け継がれますように。
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