風の向くまま薫るまま

その日その時、感じたままに。

映画『宮本武蔵 般若坂の決斗』 昭和37年(1962)

2017-06-22 04:00:45 | 時代劇









このシリーズを観るたびに感じるのは、人の想いの「すれ違い」です。

すれ違いから生じる齟齬が「誤解」を生み、誤解から「争い」が起る。



それが人の世の常とはいえ、武蔵という男は余りに真っすぐで、余りに「強すぎる」。

その「真っすぐ」さ、「強さ」が、周りの人たちを巻き込んでいく。武蔵は「何も」していないのに、周囲の人々は武蔵の強さ、真っすぐさに様々な思惑を抱き、勝手に「齟齬」を生じさせ、勝手に「誤解」し、勝手に争い始める。


そのような人の世にあって、いかに生き行くか、『宮本武蔵』とはそのような物語でもあるのだな、と思いますねえ。


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姫路城の天守閣に3年籠り、武蔵(たけぞう)は以前とは見違えるように落ち着き、名を宮本武蔵(みやもと むさし)と改め、武者修行の旅に出ます。

頼るは腰に挿した一振りの刀のみ。この刀を持って自分を人間としてどこまで高め得るか、への挑戦。



この武蔵の純粋さが、周りの人たちに様々な波を立たせていくわけです。武蔵との再会を待ち続けたおつう(入江若葉)は念願かなって武蔵と再会しますが、修行の旅に出ようとしている武蔵にとっては、おつうは足手まとい。武蔵は後ろ髪を引かれる思いを抱きながらも、おつうを棄てざるを得なくなる。

しかし内に熱いものを秘めた女性であるおつうさんはへこたれません。武蔵を追う旅にでるのです。



そのおつうさんを嫁に貰うはずだった又八(木村功)の母親、本位田のおばば(浪花千栄子)は、武蔵が嫁を奪っていったと、自分の息子の不出来を棚に上げ、悪いのはすべて武蔵だと、これまた武蔵を追って旅にでる。出来の悪い息子を思う母親の悲哀とはいえ、このお門違いの執念は少々うっとおしくはある(笑)。


その又八はお甲(小暮美千代)の情夫に収まり、お甲のはじめた京の置屋にあって、毎日酒浸りの情けない日々を送っている。そのお甲の娘、朱美(丘さとみ)目当てにやってくる客が、京都の名門道場、吉岡道場の若き当主、吉岡清十郎(江原真二郎)。その吉岡道場に武蔵が訪れ、門弟たちを苦も無く倒してしまいます。清十郎を待つ武蔵に、門弟たちは罠を仕掛けて騙し討ちにしようとしますが、これを察知した武蔵はいち早く逃走します。

逃ぐるもまた、兵法成り。


吉岡清十郎という男は、父親の築いた栄光を受け継いで道場主の地位に納まったものの、本当は自身がなく、吉岡流当主の地位にプレッシャーを感じているようです。それでも日々安穏とした生活を送っていたわけですが、


武蔵の出現が、その安穏とした日々を崩していくことになるわけです。





さて、武蔵は鑓術の名門と謳われる奈良の宝蔵院を訪れます。その宝蔵院の庭先で鍬を手に畑を耕す一人の老僧。


武蔵はその老僧に激しい殺気を感じ、老僧の横を数メートルジャンプして飛び退きます。



武蔵は鑓術の師範である僧、阿厳(山本麟一)と対戦します。阿厳は武蔵になにを感じたのか、やたらと己の力の強さを固辞します。が、これにまったをかけたのが先ほどの老僧でした。老僧は、胤舜(黒川弥太郎)が帰ってくるまで、試合を待てと云いますが、阿厳はこれを聞かず、武蔵に攻めかかろうとしますが、一瞬の隙をついて阿厳の頭を木刀で打ち据え、阿厳は即死してしまいます。


試合の後、老僧に茶粥を相伴される武蔵。老僧・日観(月形龍之介)は訊ねます。なぜ私の側から飛び退いたのかと。

武蔵が殺気を感じたことを話すと、老僧は云います。「それはお手前自身の殺気じゃ」と。


武蔵自身が発している強烈な躁気が、老僧を通して武蔵に鏡の如くに反射したのです。武蔵は自分自身の殺気に驚いて飛び退いたわけですね。


「お手前はもっと弱くなることを憶えねばならぬな」そう言ってカラカラと笑う老僧に、武蔵は強い敗北感を感じるのでした。





宝蔵院の鑓を破った武蔵の評判は、奈良にたむろする不逞浪士たちの間にも広まり、その不逞浪士たちが、武蔵に賭け試合をやって一儲けしないかと持ち掛けますが、武蔵はこれを断ります。

これを恨みに思った不逞浪士どもは、町の辻々に落手を貼り、武蔵が宝蔵院を嘲っていると風聞を流します。


武蔵は柳生の庄を訊ねるため、奈良を出ようと般若坂に差し掛かると、そこには不逞浪士どもと宝蔵院の僧侶たちの姿が!


刀を抜いた武蔵は単身、不逞浪士どもの群れに飛び込み、次々と斬り倒していきます。宝蔵院の僧侶たちは、ただこれを眺めているばかり。たまりかねた不逞浪士が、「約束が違うではないか!」と叫ぶと、宝蔵院管主・胤舜が「かかれ!」と檄を飛ばします。

僧侶たちが鑓を向けた相手は、武蔵ではなく不逞浪士どもでした。


不逞浪士どもの悪評は日々高まりを見せており、対策に苦慮した奈良奉行所は宝蔵院と謀り、今回の騒動を利用して、不逞浪士どもの一層を図ったのです。

「では私も利用されたのか!?」憤然とする武蔵をなだめる老僧・日観。日観は路傍の石ころを広い集めさせ、一つ一つに経文を書くと、浪士どもの遺体に一つづつ置いていきます。

「これで供養になる」そう云って去っていく日観。


「つき殺しておいて読経か!?」嘘だ!この行為に強い違和感と欺瞞を感じられずにいられない武蔵でした。


(第三部『二刀流開眼』に続く)













『宮本武蔵 般若坂の決斗』
制作 大川博
原作 吉川英治
脚本 鈴木尚之 内田吐夢
音楽 小杉太一郎
監督 内田吐夢

出演

中村錦之助

入江若葉
丘さとみ

木村功

江原真二郎

佐々木孝丸
南廣
唐沢民賢

河原崎長一郎

小暮美千代
赤木春恵

浪花千栄子

宮口精二
堀正夫

黒川弥太郎

山本麟一
大前均
南方英二

月形龍之介

吉田義夫


三國連太郎

昭和37年 東映映画

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