風の向くまま薫るまま

その日その時、感じたままに。

映画『地球防衛軍』

2013-08-12 12:32:23 | 特撮映画


                    


お盆ということで、今日は昭和32年公開の古~い東宝特撮映画、「地球防衛軍」を取り上げてみます。

え?なんでお盆なんだって?だってこの映画、冒頭が盆踊りのシーンから始まるんです。いや、それだけなんですけどね(笑)




とある田舎の村で催されている盆踊り、皆が興じている中、一人浮かぬ顔の男、宇宙物理学者・白石(平田昭彦)。とそのとき山火事が発生、不審を感じた白石は現場に駆けつけ、そのまま行方不明になってしまう。

数日後、その村が地盤沈下を起こし全滅。放射能が検出されたという不穏な情報に、白石の友人科学者・渥美(佐原健二)も調査団に同行する。

その調査団の目の前に突如現れた謎のロボット・モゲラ。モゲラは近隣の町を破壊し、自衛隊との攻防戦の末、爆破された鉄橋から落下し自重で潰れてしまう。
 
                         


上の画像は平成7年の映画「ゴジラVSスペースゴジラ」に登場したモゲラで、「地球防衛軍」に登場した奴とは微妙にデザインが異なりますが、大体こんな感じです。


この天変地異から謎のロボットの出現、自衛隊との交戦までの展開が実に小気味良い。地盤沈下のシーンなんか、確かにミニチュアだと解りますが、それでも凄まじい迫力で、東宝特撮は自然現象の描写が本当に素晴らしい。


やがて富士山の裾野に巨大なドーム状の建物が出現。中にいる者たちは科学者との面談を希望し、渥美ら五人の科学者がドームの中へと入っていく。行方不明となった白石が研究していたのは彼らのことだったのだ!

10万年前、火星と木星の間に一つの惑星があった。白石がミステロイドと名付けたその星は、星の住民〈ミステリアン〉同士の起こした核戦争によって破壊され、その残骸が小惑星帯として今でも残っている。ミステリアンの一部は火星に移住し、細々と暮らしていたが、放射能による遺伝子異常により、子孫が絶えるのは時間の問題だった。そこでより環境の良い地球へ移住し、地球の女性と婚姻することで、子孫を残そうと考えた。

とりあえずは〈ミステリアン・ドーム〉より半径3キロの範囲内を占有し、地球女性との婚姻を希望する旨を通告するミステリアンたち。しかし実際には、すでに数名の女性を拉致しており、自らは平和主義者と名乗りながら、いきなりモゲラを使って攻撃してくるやり口。
慇懃無礼というか、言ってることとやってることが違う。到底信用できるような輩ではありません。初めは半径3キロと言っていますが、いずれその範囲を拡大するであろうことは明白。まるでどこかの国みたいだ…なーんて、政治的発言は慎みましょう(笑)

対策本部はただちに攻撃を決定。富士の裾野でパノラマ的な戦闘シーンが展開されます。

戦闘機のシーンは、おそらくラジコンの戦闘機を実際に空に飛ばして撮ったシーンと、スタジオ内でピアノ線で釣ったミニチュアを取ったカットとを編集で組み合わせ、実に多角的で迫力あるカットを作り上げています。

戦車も、本物の戦車(自衛隊全面協力)と、ミニチュアの戦車のカットを組み合わせ、蝋で作った戦車に強烈なライトを当てて、熱で蝋製の戦車が融けていくカットに、作画合成で光線を加え、いかにもミステリアンの放った光線で、戦車が融けて行くかのようなカットを作り上げています。こういうミニチュアワーク、ドキドキしませんか?私はドキドキワクワクするなあ。

CGも良いですが、特撮というのは単に本物そっくりの映像であればいいのか?私はそうは思わない。
本物云々よりも、いかに面白い画を、見たことない画を作りあげるか。これはもう、センスの問題ですよ。ミニチュアだとはっきりわかっても、センスの良い画なら私は好きです。円谷監督はそういう意味では最高のセンスを持った監督でした。
センスが良い監督と言えば、スピルバーグなんかいいですね。あの方は金があるだけじゃないですよ(笑)。実に良い画を撮ってくれます。ジョージ・ルーカスはどうかなあ、微妙…。
逆にどんなに凄い技術があっても、監督のセンスが無ければ、たいした画にはなりません。せっかくのCG技術を駆使しながら、結局「スター・ウォーズ」初期三部作の映像を再現したにすぎなかった「●ン○ィ●ン○ン△デイ」とかね…(笑)初期のスターウォーズは、ほとんどアナログだけであれだけのシーンを作り上げていたんです。こっちの方がよっぽどスゴイ!
特撮は技術“だけ”ではありません。センスが一番です。

話がズレちゃいましたね(笑)この後の展開は、ミステリアンの登場を契機に世界中が一致団結し、地球対ミステリアンの対決へと発展。世界中の科学力を結集し新兵器が次々と開発され、最後には人類側の勝利に終わるわけですが、「こんな簡単に新兵器が作れるわけねーだろ!」とか「こんなすぐに世界の国々が団結するわけねーじゃん!」などなど、現代ならそのような容赦ないツッコミに曝されることでしょう。その点この時代、50年代はまだ、このような理想を語ることが許される時代だったのかも。
良い時代でしたねえ。

ところで行方不明になった科学者・白石はどうなったのでしょう?実は彼は、ミステリアンたちと行動をともにしていたんです。
白石は科学万能主義者。科学のみが人類に恒久の平和を齎すと信じていた。だから人類より科学の進んだミステリアンが、人類を滅ぼすようなまねをするはずがないと思った。きっと人類に平和を齎してくれると信じた。
後にそれが間違いであったことを知り、白石は大いに後悔することになります。よりによって、人類を滅ぼそうとする側の片棒を担ぐはめに陥ろうとは…。
白石はドーム内に拉致されていた女性たちを救出すると、ドーム内のあちこちを破壊して回り、自らドームと運命をともにします。現実を知ろうとせず、自らの誤った理想に走った男の悲劇です。
こんな人、今のこの国に多いような気がします。この間の参院選に受かった人の中にも…おっと、政治的話題は自粛と(笑)。




窮地に陥ったミステリアン司令(土屋嘉男)が、即時攻撃を中止しないと報復するぞ!と脅しをかけると、地球軍側の司令が
「よろしい、攻撃を中止しましょう。ただしミステリアンの、即時地球外退去を要求します!」
これです!この毅然たる態度!これこそあるべき姿です。いたずらに争いを起こすべきではありませんが、決して相手に呑まれることなく、毅然とした態度で臨む。
戦争であれ災害であれ、国を護るとは、国民を守るとは、こういうことだと私は思う。



お盆です。終戦記念日も近いです。この国を護るために散っていった英霊の方々も帰ってきておられることでしょう。


今の私たちは、英霊の方々に恥じない生き方をしているだろうか?そんなことを考えながら特撮映画を観ている私って、何?…(笑)




『地球防衛軍』
監督 本多猪四郎
脚本 木村武
音楽 伊福部昭
特技監督 円谷英二

出演

佐原健二
平田昭彦
白川由美
河内桃子
土屋嘉男
藤田進
志村喬

昭和32年 東宝映画

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7 コメント

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特撮 (またたび)
2013-08-12 15:28:54
お久しぶりです。特撮、昔は苦労したでしょうけど安易に出来ない分、芸術的に素晴らしいものになったのかも。
ジャン コクトーの美女と野獣、記憶では、城の階段を照らす燭台が壁から手が出てロウソクをかかげていた。
まあ、こんなとこ特撮でもなく普通に燭台でもいいのですけど、この雰囲気、そのお城の妖しさがこれだけでわかりますよね。

昔の特撮のNGシーン集あったら見たいなあ。
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Unknown (薫風亭奥大道)
2013-08-12 16:27:25
またたびさん、お久しぶりぶりです。
円谷監督はNGをただのNGにはしなかった方で、どんなカットにも必ず使える部分はあるとして、ぎりぎりまで使えるところを使って、あとは編集でうまくつなげて場面を完成させてしまう天才だったそうです。使えるカットと使えないカットの見極め、センスが半端なく鋭かった。まあ逆に言えば、それだけ予算がぎりぎりだったということにもなるわけですが。
本多監督と円谷監督のコンビネーションは抜群で、特撮に絡む本編カットの編集は、基本的に円谷監督にまかせっきりだったそうです。その方が効果的な画になると、完全に信頼し切っていたんですね。
本多監督は軍隊経験が長く、度重なる招集で監督昇進が遅れてしまい、親友の黒澤明に先を越されてしまった。怪獣が登場して人々が逃げ惑うシーンは、中国の戦場で逃げ回る群集を思っているそうです。本多演出の特徴はドキュメンタリー調であるとはよく言われますが、それは戦争体験によるところが大きいのかも知れない。
本多作品には、本多監督なりの反戦、平和への想いが込められています。それはこの作品も変わらない。決して好戦的な映画ではないです。

とはいえ、NGカット見てみたいですねえ。
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平和なればこそ (美樹枝)
2013-08-12 20:47:00
昭和32年公開の特撮映画… よっしゃあ!まだ生まれてない! …何がよっしゃ?(笑)    なんといっても、かなりお子ちゃまの頃、初めて見た「ウルトラQ」は衝撃の特撮ドラマでした~ 海外モノでは、やはり小学生の頃? 夏休みの深夜番組で見た「女性の髪の毛が蛇さんになってるゴーゴンのラストシ-ン」や「ハエ男の頭がハエそのものに成った男と、カラダがハエそのもので頭は人間のままの男が、蜘蛛の巣に、かかって食べられちゃうシ-ン」が衝撃でした! 海外モノは怖かったなァァ~     日本の(円谷さんの?)特撮技術は凄いのかな…工夫の塊で楽しい!…そして可愛い!…というか…何処か愛嬌…愛情溢れていたので大好きでしたよぉぉ~~   まもなく終戦記念日。 とても身近な過去の戦争の犠牲に成られた方々の御冥福をお祈り致します。 ♪赤き血潮のヨカレンの~♪←父がたまに歌っていた。
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Unknown (薫風亭奥大道)
2013-08-12 21:40:54
美樹枝さん、予算の面ではハリウッドにかないませんからね。日本の特撮はアイデア勝負です。「世界大戦争」という映画では、ミニチュアセットとカメラを逆さまにして、そのミニチュアセットに火を点ける。火は上に向かって炎を上げていきますから、これを逆さまにすると、炎が地面を這っているかのような映像に成ります。それによって核爆発の凄まじさを表現したんです。これと同じ方法がハリウッドの「インディペンデンス・デイ」で使われています。この作品では、炎が真横に走ってくるシーンがあるのですが、あれはミニチュアセットを横倒しにしてカメラも横にして、下から炎を吹きあげたんです。そうするといかにも炎が真横に走ってくるような映像になる。当時は炎をCGで表現するのが難しかったので、こうしたアナログな方法で撮られたのですが、原点は日本の円谷監督なんです。
水槽の底に小さな穴を開けると、中の水が渦を巻きながら落ちて行くでしょ。それを撮影して竜巻のシーンに使ったり、水槽にインクを垂らして、そのインクが広がっていくところを撮影し、それを真っ黒な積乱雲が空いっぱいに広がって行くシーンに使う。これは「未知との遭遇」でそのまま使われていますね。
円谷監督は稀代のアイデアマンでした。円谷監督だけでなく、当時の特撮スタッフは皆、独自の工夫を凝らしながら撮っていた。現場は暑いし汚いし給料安いし(笑)、それでも皆、仕事に誇りをもっていた。特撮職人でした。
CGだって良いんですよ。良いんですけど、安易に頼ってしまうと、結局想像力というか、表現力を低下させてしまう危険性が潜んでいるような気がしてね。まあ、古き良き特撮を愛するオヤジの僻みであれば良いのですがね。
「レッドクリフ」のジョン・ウー監督は、CGを一部で使ったことに関し、「黒澤明監督に申し訳ない」と語ったとか。黒澤監督は「影武者」という映画で、ラストの長篠合戦シーンを、全部本物の馬と人を使って撮影し切った。それを言っているのでしょう。
まあ、何事にも功罪はあります。CGによって今後の映画がどうなっていくのか。楽しみのような、不安のような…。
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強い愛! (美樹枝)
2013-08-13 12:07:31
特撮とは~物理化学的知識や、雑学や、ヒラメキや、第一に作品への強い愛…頭と性格が良い人でないと考えつけないのですネ…心無くして撮れません。 さすがの日本人。   円谷さんは戦争の悲惨さや、虚しさも作品を通して子ども達にも伝えて下さった。 「ウルトラマン シリーズ」 光の子ども達に、やはり泣きました。だって本当は、うちらも光なんじゃあぁ~!   アナログいいな。絵を描く学生だった頃、マスキング?してスプレーで吹きつける、エアーア-トみたいな手法が流行りました。 アレは嫌いだった。 誰が描いても同じ画面にしか見えない。 手で描く素朴さが伝わらない…。 CGは苦手だなァ… 良さもあるでしょうが… 新しいものを否定しては生けないが好き嫌いはある鴨。
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Unknown (関西デコ好きキラキラ星人☆)
2013-08-14 15:43:52
お盆ですね。
今年はわが家は義母の初盆ですので、いつもに増して、心ばかりのおもてなしですが、お迎えをさせて頂いています。
特撮のお話、大変興味深く拝見しました。
私も、何でもかんでもCGの映画は、好きではないです。なんで好きじゃないのかなんて考えたことも無かったのですが、薫風亭お兄さまの記事を拝見して、特撮にはあった芸術への、"こだわり"、"情熱"、みたいなものが感じられないからかもしれませんね。
先日、子供たちと"風立ちぬ"を観てきました。
古き良き日本の愛の姿が描かれていました。
相手を思いやる美しい心…。日本っぽいなぁと思いました。
現代ッ子の子供たちにも、古き良き日本、伝えられて良かった~。私にも!!
明日は終戦記念日。
近くの忠霊塔(遺族の有志により建立された)に、慰霊の参拝に行って参ります。
恥ずかしながら、遺族会の役を引き受けるまで、一度も忠霊塔に足を運ぶことはありませんでした…。
昨年、忠霊塔の当番を担当し、ボチボチと長い階段を登ってお花や線香を持って参拝される、年配の方や子供たちの姿にいたく感動し、自分を反省しました。
英霊の方々に、恥じない生き方をしているだろうか?
私もこれからは、生涯の教訓にしたいです!!
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Unknown (薫風亭奥大道)
2013-08-14 19:22:54
デコさん、「風たちぬ」まだ観ていないよ~。
宮崎監督も色々批判されてますが、あれくらいの年代のインテリさんというのは、多かれ少なかれ左がかっちゃう傾向があるもんです。それに映画というのは、観客の側が何を感じたかが一番大事なんです。監督がどんな思想性を持っていようが、私に言わせればそんなことはたいしたこっちゃないです。
昔「1900年」という映画がありました。イタリア映画で、ロバート・デ・ニーロなんかが出てる、5時間半もあるめっちゃ長い映画なんですが、これはっきりいって共産主義宣伝映画なんですね。でも私はそうは観なかった。
舞台はイタリアの小さな農村。1900年の同じ日に二人の男の子が生まれるんです。一人は地主・金持ちの子で、一人は小作・貧乏人の子でした。二人はケンカしながらも仲良く暮らしていたのですが、やがてムッソリーニのファシスト党が台頭してきて、ファシズムの嵐が吹き荒れる中、小作人の子は共産主義運動に参加していき、地主の子は心ならずもファシスト党の党員となっていきます。二人は憎しみ合い、やがて戦争が終わり…。
ラストはあえて書きませんが、この映画を観て私が感じたことは、共産主義だファシズムだなんだかんだよりも、人間が生きるにおいては、もっと大事なものがあるだろ!ということなんです。思想なんてもんは所詮、一過性の流行みたいなもの、そんなもんにこだわるなど馬鹿げてる。もっと大事なものを探そうぜ。
なにを感じるか、それは本人の感性しだいです。作者の思想志向を云々するだけで作品の好き嫌いを決めるのはつまらないしもったいない。宮崎作品ってそんなに薄っぺらなものでしたか?
そうしたものに左右されず、御自分なりの感性で鑑賞されたデコさんは正しいです。
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