荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『ノア 約束の方舟』 ダーレン・アロノフスキー

2014-06-17 05:08:49 | 映画
 『ブラック・スワン』から4年ぶり、『レスラー』からは早6年ぶりとなるダーレン・アロノフスキー監督の新作である。ニューヨーク・ブルックリン出身の彼がユダヤのなんらかの原理に殉じているというのを聞いたことがないが、なんとも奇妙な作品で、駄作扱いされることもカルト作扱いされることも、両方覚悟したようなところがある。アロノフスキーが無名時代から転がしていたシナリオのようだから、キャリア上の損得抜きでケジメとしてまとめたのかもしれない。『レスラー』や『ブラック・スワン』でアロノフスキーを好きになった人は、ちょっと今回は引くのではないか。
 子ども時代にテレビ放送で、ジョン・ヒューストン監督『天地創造』(1966)を興味津々で、またはいくぶんかの幻滅をもって見たことを思い出す。いくら史劇スペクタクル好きの私でも、何カットも費やしてひとつのモチーフを強調しようとする習性(たとえばセシル・B・デミルの『十戒』)はぞっとしない。
 この『ノア』も序盤でカインがアベルを殺害するいきさつが述べられ(へんてこな逆光のCG)、カインの子孫であるトバル・カイン(レイ・ウィンストン)、そしてカインとアベルよりも後にイヴが産んだ末弟セツの子孫ノア(ラッセル・クロウ)という同族同士の近親憎悪をもっぱらの主題とする。
 アブラハムという同一の父祖を持つことにより、ユダヤ人とアラブ人の起源が同一であることは明らかであり、その点で私は本作を見ながら、スティーヴ・ライヒが1993年にリリースした3枚組アルバム『ザ・ケイヴ』を想起せずにはいられなかった。アブラハムの妾から生まれた子がイシュマエルで、これがアラブ民族の始祖。正妻の子がイサクであり、このイサクがユダヤ民族(イスラエル人)の始祖となる。カインとアベル、イシュマエルとイサク、そしてこの映画のノアの息子たち──セムとハム。最初の戦争は兄弟ゲンカだというのである。
 方舟という密室における男女間、親子間の近親憎悪が増長する後半の展開は、まさに地球という惑星の運命を絵解きしたものだろう。ノアの妻をジェニファー・コネリーが、義理の娘をエマ・ワトソンが演じる。これら女優陣が、人類最初の密室劇を(ドワイヨンばりに)盛り上げる。


東宝洋画系で全国上映中
http://www.noah-movie.jp
P.S. 本作をTOHOシネマズ日本橋(東京・三越前)のTCX/DOLBY ATMOSをそなえたシアター8で見たのだが、かなり光量が暗く感じられた。通常の上映と見比べたわけではないが、都内ではまだこのTOHOシネマズ日本橋だけというTCXのクオリティに疑問符のつく上映であった。


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