荻野洋一 映画等覚書ブログ

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なべおさみ 著『やくざと芸能と』

2014-07-06 05:21:12 | 
 日本テレビ『ルックルックこんにちは』やおびただしい数のドラマなど、なべおさみというと1980年代くらいまでは、あのプンプン怒って紅潮したチビな兄ちゃんという風采でお茶の間の欠かせぬ顔だった。海援隊の武田鉄矢が出てきたとき、私は子供心に「あ、このキャラはなべおさみのマネだよな」と感じたものである。そんななべおさみも1991年、息子の「明治大学裏口入学事件」を起こして芸能活動を自粛。1年後に『笑っていいとも!』を口火に芸能界復帰を果たしたらしいが、私自身テレビを視聴しなくなったこともあり、なべおさみの顔は久しく見ていない。なお、裏口入学事件の当事者は、当時高校生だった息子の「なべやかん」である。
 先々月(5月)末、吉祥寺バウスシアターの「爆音映画祭」でブライアン・デ・パルマの『ファントム・オブ・パラダイス』を見た帰り、アーケード内のBooksルーエで立ち読みしていたときに新刊コーナーで小林信彦『「あまちゃん」はなぜ面白かったか?』と、本書『やくざと芸能と』(イースト・プレス 刊)の2冊を発見した。本書の帯には「知られざる昭和裏面史」と銘打たれ、「ビートたけし、絶讃。“こりゃあ凄い本だ!”」と印刷されている。読まずにいられるわけがない。
 彼の自伝として書かれた前半も面白いことは面白い。不良高校生として闊歩した1950年代の銀座の不良グループの実態やいろいろな店の名前、喜劇役者をめざして水原弘と勝新太郎の付き人をしていた設立初期のナベプロの動向などは、じつに興味深い東京の歴史である。しかし、後半章の〈「本物」のやくざを教えよう〉こそ、この本の真の驚きだ。たけしが “こりゃあ凄い本だ!” と言ったのもこの章を読んでのことかと思われる。やくざ社会の成り立ち、そして観阿弥・世阿弥、出雲の阿国、吉原遊郭を仕切った浅草弾左右衛門からはじまる(カワラモノ)・芸能者(カブキモノ)の歴史、・の歴史が、〈なべおさみ史観〉によってダイナミックに語られる。ここ四半世紀はあまりこの人の顔を見ないと思っていたら、こんなことを研究していたのか!
 のれん、手ぬぐい、ほっかぶり、編み笠といった日常品の誕生も、・の歴史と関わっていることが、この人独特の熱血的な筆致で語られる。そしてその源流を、倭国に渡来してきた秦氏とその氏族集団に求めている。この氏族集団は、金属加工・皮革加工・石工・養蚕などを倭国(古代の日本)にもたらした技術者集団であり、また祭祀における太鼓の制作(皮革加工)や雅楽といった芸能活動のエキスパートとして、初期の天皇制を裏側から支えつつあったのだという。そしてこの秦氏の源流はもともと、中国北方(現在のカザフスタン)に移った北イスラエル十支族のうちのひとつであり、日本語の「ヤクザ」「クサ(草)」「クズ(屑)」「カスミ(霞)」「クシュイ(臭い)」といった単語の語源は古代ヘブライ語の「クシュ」なのだそうで、そのあたりの言語的な説明もくわしい。なべおさみ、あの紅潮したプンプン顔はペンの中に健在なりである。


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3 コメント

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Unknown (橋脇隆)
2014-07-07 08:24:42
面白そうですね!! 探してみます~!!!
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なべおさみの映画出演作 (中洲居士)
2014-07-07 23:25:30
橋脇さん、こんばんは。

なべおさみというと代表作はやはり山田洋次の『吹けば飛ぶよな男だが』(1968)になるんですかね。同じナベプロの大原麗子とダブル主演したTBSドラマ『独身のスキャット』、日テレ『青春太閤記 いまにみておれ!』あたりは部分的ではありますが、憶えています。

森崎東『女生きています 盛り場渡り鳥』は助演ですがこれは傑作。

でも、その森崎東が脚本を書いた渡辺祐介『日本ゲリラ時代』にせよ、前田陽一による一連の『喜劇 右むけェ左!』『喜劇 昨日の敵は今日も敵』『起きて転んでまた起きて』『虹をわたって』あたりの70年代初期に主演格で出た作品群にせよ、いずれも残念ながら未見。一度、まとめてなべおさみ出演作品を見てみたい。著書出版記念で神保町シアターあたりで特集を組んでくれるとありがたいのですが。
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秦=羽田 (中洲居士)
2014-07-08 01:11:27
古代日本に渡来した氏族「秦(はた)氏」というのは、秦の始皇帝の子孫が秦滅亡後に難民となり、アジアを転々としながら日本列島に行き着いた、というのが有力な説である。

新進党政権下で短いあいだ首相をつとめた羽田孜が、この秦氏の末裔を自認していたが、たしかに発音は同じ「ハタ」である。

この秦氏が、大化の改新以前にすでに存在した被差別の源流だとすれば、それはなにか、ある種の貴種流離譚めいたストーリーではないかと思う。おそらく秦氏の一党は、みずから進んで被差別の階級に甘んじつつ、古代日本のさまざまな職人技術、芸能技術を独占したのだろう、と推測されるからである。なべおおさみの言う、彼らが北イスラエル十支族の末裔かどうかは別として。
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