先日録ったHDDから、松竹蒲田の助監督の立場からP.C.L.に転籍したばかりの矢倉茂雄の監督デビュー作『踊り子日記』(1934)を見る。浅草を舞台に、レビューの奏者・大川平八郎と千葉早智子というカップルのすれ違いのゆくえを何の緊張感もなく辿る、P.C.L.(現・東宝)らしいナンセンスな恋愛コメディである。
しかし本作の見どころは、そんな頼りなげな物語ではない。昭和初期浅草のレビュー小屋や、現在より遙かににぎやかな雑踏が濃艶に醸し出すモダニズムの気風と猥雑さ、そうした同時代的なものが、この1934年に撮られたフィルムの最大の魅力だろう。
長のれんの下からハイヒールを履いた女たちの足下が見える。立食いおでんでダンサー3人組が一杯引っかけつつこんにゃくを頬ばる、舞台稽古帰りの深夜の光景である。彼女たちには、泥酔した太っちょ(岸井明)がからんでくるのだが、別に大したトラブルには発展しない。
また別の日には、カフェーで仲間が踊る中、我関せずひとりで巨大なカツレツと格闘するヒロイン(千葉早智子)。旺盛な食欲と、奔放なお色気と。
つまらない作品だが、楽しくなる作品である。夜、ダンスの稽古が終わって、つい物思いに耽ってしまうヒロインの頭上から、ふと『カチューシャの唄』のメロディが聞こえてくる。上階ではトルストイ『復活』の稽古がまだ続いているのだろう。音先行で忍び込んでくるこの叙情性は、ついホロリとさせられる。この映画が撮影された1934年という年は、島村抱月と松井須磨子が『復活』を初演してから20年しか経っていないのである。
しかし本作の見どころは、そんな頼りなげな物語ではない。昭和初期浅草のレビュー小屋や、現在より遙かににぎやかな雑踏が濃艶に醸し出すモダニズムの気風と猥雑さ、そうした同時代的なものが、この1934年に撮られたフィルムの最大の魅力だろう。
長のれんの下からハイヒールを履いた女たちの足下が見える。立食いおでんでダンサー3人組が一杯引っかけつつこんにゃくを頬ばる、舞台稽古帰りの深夜の光景である。彼女たちには、泥酔した太っちょ(岸井明)がからんでくるのだが、別に大したトラブルには発展しない。
また別の日には、カフェーで仲間が踊る中、我関せずひとりで巨大なカツレツと格闘するヒロイン(千葉早智子)。旺盛な食欲と、奔放なお色気と。
つまらない作品だが、楽しくなる作品である。夜、ダンスの稽古が終わって、つい物思いに耽ってしまうヒロインの頭上から、ふと『カチューシャの唄』のメロディが聞こえてくる。上階ではトルストイ『復活』の稽古がまだ続いているのだろう。音先行で忍び込んでくるこの叙情性は、ついホロリとさせられる。この映画が撮影された1934年という年は、島村抱月と松井須磨子が『復活』を初演してから20年しか経っていないのである。
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