雨がそぼ降る中、囲いにはホルスタインが1頭いるだけだ。96番だろう。昨日、第5牧区を再度開放したため、牛たちはひとしきりその国有林内に移動していたが、どうもあの放牧地は気に入らないのかやがては草の乏しくなった第4牧区、とりわけ囲いの中に戻ってきてしまうようだ。
昨日は夕方になって、ねぐらでも探すつもりか、かなりの頭数が弁天様の裏を思いおもいの足取りで移動していく姿を見た。あのまま登山道脇のB放牧地まで行けばよいのだが、夕闇の迫る中、どうしたことか。後で見に行ってみよう。
きょうから早や10月。ついに下牧まで1週間となった。当然ながら畜主を喜ばせるような体調で牛たちを里へ帰したいが、この1週間でもその状態は容易に変化するから気の揉める日が続く。
どこに行っていたのか、5,6頭の牛が囲いの中に戻ってきた。今牛たちが口にする草の量は、大きな握り飯ではなく、すしの握り程度、いや一口の量はもっと少ないだろう、それを丹念にたんねんに食べているのが現在の状態だと思われる。
かつて牧畜が盛んだったころは、入笠牧場にも300頭を超える牛が上がってきたと聞いている。この牧場の広さ・規模で、それだけの頭数を受け入れることが妥当であったのか、いささか疑問が残る。もしかすればそのことが当時の畜主たちの牧場に対する評価を厳しくさせた一因、とも考えられないか。ともかく、もう、そんな数の牛が来ることはない。
どうやら予報通り、午後になれば天気は回復してきつつある。これからは一雨ごとに秋は進み、月の半ばには今年も「姫君の秘められた恋」とも言われた、激しく燃える紅葉を見ることができるだろう。あの絢爛の中にも人はすでに季節の衰亡を感知し、わが身と重ね、それゆえにまたこの季節に寄せる思いが強まるのだろう。それが古からの日本人の美学、感性だとか言われているようだが、古来稀なる年齢を越えた者としてこの季節、確かに思うことは多々ある。
B放牧地にも何頭かの牛は移り、少し安心した。本日はこの辺で。