ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

師家所蔵 オープンリールテープのデジタル化大作戦!(その3)

2011-01-10 01:05:05 | 能楽
やっと久しぶりの話題に帰ってきました。この正月はこの作業でた~いへんでした~。

前回はオープンリールテープデッキは、はじめて個人が自分の目的に合わせて自由に音声を記録することを許す画期的な機会だった、というところまでお話ししたと思います。これは演じた端から消え去っていってしまう、という舞台芸術や音楽の宿命を根元からひっくり返す革命的な技術で、世阿弥の言う「離見」を簡単に実現できてしまう事を知った当時の能楽師たちの驚きは想像に難くない。…これにお金を惜しむ事はできなかったでしょうね~

今は音声どころか動画も数万円もしないホームビデオカメラで気軽に撮影できるようになり、隔世の感ではありますが、科学技術の進歩というものは少しずつ、少しずつ、進歩してゆくのですね~。先代の師匠が…いや、そのまた先代がおられた頃にビデオがあったなら…。その芸を拝見したかったな~、と思う ぬえでした。

そう言えば ぬえが書生に入門した当時、DVDはまだなく、ようやくビデオが普及した程度だったと思います。まだビデオカメラは高価で、とても自分の稽古を録画することはできませんでしたが、能楽堂にはカメラが設置され、楽屋に置かれたビデオデッキで自分が勤めたお役を録画することは、当時すでにできました。ぬえも書生に入門したときに、そんな事情から自分用のビデオデッキを買って、能楽堂で録画した自分の舞台を見て反省・研究するように師匠から勧められたものです。

が、この当時…まだビデオはソニーのベータ方式が主流でした。…というか、最初にビデオデッキを発売したのがソニーで、その採用した方式がベータだったのですね。それに当時 能楽師はみ~んな飛びついて、ベータのビデオデッキを買ったのです。

その後、ソニー以外の後発の家電メーカーが結託してVHS方式のビデオを発売し、ようやくビデオデッキが普及して価格が下がって、ベータ方式はVHSに負けて姿を消したのでした。…いま伊豆の ぬえの教え子の小学生たちに「ベータ」「VHS」なんて言ってもわかんないよな~。なんせヤツら、21世紀生まれだったりしますから。(__;)

ともあれ、能楽師はこのベータからVHSへのフォーマットの推移に衝撃を受けたのでした。(^◇^;)

能楽堂のビデオデッキもいつの間にかVHSに替わり、み~んな、それまで撮り貯めたテープをダビングしてVHSに移し替えたのでした。今と違ってアナログのダビングですから、ダビングにはいちいち上演時間と同じ時間が掛かるうえ画質も落ちるのですが、みんな泣く泣くおうちで毎夜2台のデッキと格闘していたのです。

それから時代はデジタルになり…今度はVHSからDVDへのダビングという作業が能楽師を待ち受けているとも知らずに…(T.T)

でもね、ぬえなんかまだ軽傷の方です。ある日師家の大掃除のときだったかな…不要品を処分する作業をお手伝いしていたときに見たものは…それはそれは巨大なビデオデッキでした。それもベータの。差し渡し…そうだなあ、幅は50cmじゃ済まなかったかも。おそらくビデオデッキというものが最初に発売されてから いくばくも時間が経っていない、初期のデッキなのだと思います。さすがの ぬえもこれには驚きました。その機器が当時いかに高価だったのかに思いを馳せ…それ以上に、この頃から撮り貯めたビデオを、その後VHSに直し、さらにデジタル化し…気が遠くなりそう。

それでも、お気持ちはよくわかります。それほど我々にとって、自分の舞う姿を客観的に見ることは、希求されてきた思いなんですよね。

これは動画のことですが、それどころか音声の記録なんて考えられなかった時代に、突如現れたオープンリールはさぞ能楽師に衝撃を与えたことでしょう。

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