ぬえの能楽通信blog

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絢爛豪華な脇能『嵐山』(その11)

2008-08-12 03:03:35 | 能楽
今回の『嵐山』の子方は、二人とも当初は伊豆の国市の子どもたちにやらせるつもりだったのです。しかしこの「下リ端」を笛の譜を聞きながら、ちょうどよい歩速で橋掛りを歩んで、所定の譜のところで所定の位置にピタリと止まらなければならない。そして止まったならば、今度は「左右」「打込」「ヒラキ」など、「舞」の型を演じなければならない。そのうえまたしても笛の譜を聞きながら舞う「天女之舞」まである。さらに二人の子方は型もシンクロさせなければならない。。

これは無理だ、と判断せざるを得ませんでした。去年の『一角仙人』も子方は大変な役だったけれど、あちらは戦い。こちらは舞。その難しさは去年の比ではないです。型は複雑。それが二人で舞が揃っていて、しかも美しくなければならないですからね~。初めて「サシ込」「ヒラキ」を覚えるアマチュアの小学生を二人とも起用したら、たとえば一人が舞台でパニックを起こしたりしたら、確実にもう一人も巻き込まれて、結果笛の譜を聞き損なって、二人とも舞台上で身動きが取れなくなる可能性すらある。

そんなわけで、子方の一人を チビぬえにやらせる事にしました。チビぬえはまだ小学4年生だけれど、ひと通り型や謡は仕込んであります。もしも相手が混乱しても、もう一人が確実に舞っていれば、なんとかそれに合わせて修復することもできる。その可能性に期待しました。

ま、ただ今回は取り越し苦労だったようで。。最初こそかなり苦労もしたけれども、綸子ちゃんは一時 チビぬえを追い越してしまうほど覚えてしまって。それを ぬえに告げられた チビぬえもかなり闘志を燃やしていたようでした。しめしめ。

毎年 玄人能の子方に抜擢した子は、一度は必ず涙を流す場面が来るものだけれど。。今年はそれはないかもしれない。いや、稽古の当初にすでに(心の中では)涙を流していたかもしれないけれど、いま、綸子ちゃんは ぬえの厚い信頼を受けています。(#^.^#) ここまで出来ちゃうと、来年の『狩野川薪能』の玄人能の子方の人選には本当に困るな。

ただ、このレベルが本当に当日の舞台にまで維持できるか、それは わかりません。神のみぞ知るところでしょう。本人には「薪能当日には『嵐山』を舞うのはもう飽きちゃった、というぐらいが丁度いいんだよ」と言って稽古を重ねるようには言い聞かせてはありますけれども。。舞台には稽古をちゃんと重ねている人にだけ微笑んでくださる神様がおられますからね。。でも同時に、魔物も確実に住んでいるのだけれど。。

さて二人のツレ(子方)は「下リ端」で登場しますが、二人の役の性別が違う場合、観世流では女性の役の方が先に出るように定められているようですね。『鶴亀』のツレも同じ登場順ですし、シテを間にはさんで登場するけれども『絵馬』も同じく天鈿女命が先に出ます。『嵐山』も本文の中ではほとんど「子守勝手」と男神を先に呼んでいるのに、実際のツレ(子方)の登場は勝手が先です。

二人は桜の持枝を右手に持って登場しますが、これがまた華やかなんです。正先の桜の立木の作物。現れた若い夫婦の神。そして手に持った桜の枝。まさに泰平の御代をそのまま体現したような絢爛さ。この風情ですから、ツレよりも子方の方がより華やかに見えるでしょうね。

「下リ端」の終わりで前述のように二人は「左右」「打込」「ヒラキ」の型をし、「下リ端」が終わると、地謡が特殊な拍子当たりで謡い出します。俗に「渡り拍子」と呼ばれている部分です。


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